プリンの昼なのです
ウイングは軍を半分に割った。その内、豚頭人の大半は森の中で野営の用意をしている。残りは全員で斥候任務についている。
ウイングの『蒼翼騎士団』は総勢三百と少しなので、見張り易い拓けた場所より、隠れ易い森などの方が野営地に選ばれる。
森の獣と『デルズランド軍』ならば、森の獣に見つかる方がマシというものだ。
ルクトレイアの陣から三マワリ(日)ほど西に来たこの辺りは既に『デルズランド軍』の縄張りといってもいい。
サヴァルマーナがいるとすれば、この辺りだろうという目算を立てたのは元・極北旅団の団長をしていたワルトメルガだ。
最初にそれを見つけたのは、ウイングの親友であり、今では『蒼翼騎士団』の装備の整備を一手に引き受けている巨人族のプリンドロンだった。
荒事が得意ではない(と思っている)プリンドロンは、遠く聞こえる音が剣戟の音だとすぐに見抜いた。
一緒に行動しているのは、悪ガキ仲間だった牛頭鬼のゴバニアン、虫人 (インセクトニア)のシメオーヌ、同じく虫人のプレムール、ゴブリンのカタオオキバだ。
森の野営地から二キザミ(時間)ほど北西にきた辺りだ。
唐突に森の終わりが見えたかと思うと、岩だらけの荒野が広がっていた。
そこをひたすら直進するべく、森から出てすぐのところにある大岩に一度身を隠した。
すると、聞こえたのだ。
プリンドロンは音のする方向を覗き見る。
二十人ほどの高価そうな鎧や剣を装備した人間の集団がゴブリンの一団を追っている。
ゴブリンたちは粗末な鎧を着けているが、手にしているのは高価そうな武器だ。それも一匹が三から四振りの武器を抱えて走っている。中には鎧を抱えている者もいる。
そして、そのゴブリンの中でも十名ほどの、武器を抱えていない、手入れがされていない武器を持つ者が、逃げるゴブリンの時間稼ぎをしようと戦っているのだ。
「あっ!あれ、きっとウイング君のお兄さんだよ!」
プリンドロンが見たのは、ゴブリンの中から飛び出た一人の魔王族の勇者だ。
彼は斬られそうになった足止めゴブリンを助けると、一刀で鎧ごと相手を両断した。
すると、それを危険と判断したのか、人間たちが一気に彼に集まっていく。
彼が何事か叫ぶと、その場に残りたそうにしていたゴブリンたちが、また走り出す。
だが、如何に魔王族の勇者とて、足止めゴブリンたちを含めても十一名。
しかも、人間側に援軍が来てしまう。その数はざっと見ても五十は下らないだろう。
部隊のリーダーであるゴバニアンが、虫人のプレムールに情報を野営地に伝えるよう命令する。
「俺たちは少しでも時間を稼ぐんだ!」
ゴバニアンの言葉にプリンドロンとシメオーヌとカタオオキバが頷く。
それから、プレムールが走り出したのを見送ってゴバニアンたちは武器を打ち鳴らして雄叫びを上げる。
人間たちの半数が向かってくる。
それに向かって、全員で投石を行う。身体が大きく、力があるゴバニアンとプリンドロンは人間の拳大の石を持てるだけ持って、大岩越しに投げつける。少しでも数を多く見せかけて、引き付けられるだけ引き付けようという試みだった。
冷静にシメオーヌがそれを観察して、合図する。
「よし!逃げろ!」
ゴバニアンの号令で全員が森の中へ、隠れるように逃げ出す。
一方、魔王族の勇者は敵が増えたと悟った瞬間、魔法の炎弾を二十も生み出して、放った。
だが、人間側は鎧から生み出した氷の壁で防いだり、突き立てた槍から土砂を巻き上げたり、中には剣から吹き出す強烈な風で剣速を上げて火球を斬り裂いたりして、致命傷を防いでいく。
お互いに単一呪文での応酬のようにも見えたが、プリンドロンは、昔見た光景を思い出していた。
九層、魔王城の近くである日突然巻き起こった魔王主催の剣舞会。魔竜族の真なる竜を打ち倒した真紅の騎士。
その者が使った火槍は、ひと言に反応して魔法の力を発揮していた。
そいつは魔導剣の一種だな。
父、パリンガロンの言葉が蘇る。
魔導剣とはマナを特殊な魔法陣で括った装置で、特定の魔法をひと言で発動させる。
魔剣と違い汎用性は無いが、発動させるのに呪文ではなくキーワードを使うのが特徴の武器だ。
森に逃げ込む背中越しに垣間見た人間たちの装備がそれなのだと実感した。
『デルズランド軍』が魔導武装した部隊を持つというのは、この一層に来てから何度も聞いた話だった。
どうかウイング君のお兄さんが無事にいられますように……
プリンドロンはウイングが兄を自慢とし、尊敬しているのを知っている。
だから、祈らずにはいられなかった。もう神がいなくなったこの世界でも祈る相手はいるのだ。
そうしてプリンドロンは森の中に入る。
「逃がすな!強奪された武器を奪い返すのだ!」
追ってくる人間はそんなことを言っている。
プリンドロンは無我夢中で森の中を駆ける。
自分たちは新兵だ。正規の訓練を受けた訳でもなく、寄せ集めの半端者だという思いが強くある。
正面から戦ってはダメだ。だから、奇襲、奇策、待伏せ、使えるものを使って生き残る為の努力をしてきたから、ここまでやってこられたと自覚している。
聞こえるのは、自分の息遣いと森の木々が打ち鳴らす音。
だが、確実に追われている。
プリンドロンはこのまま逃げてもダメだと悟る。
大半の荷物は野営地に置いてきてしまったが、それでも肌身離さず持っている物もある。
それは刃を研ぐための石と研磨材だ。
自分の武器はハンマーなので必要ないが、他の皆の武器を少しでも良い状態に保つために、少量ながら持ってきている。
優秀な鍛冶師である父に師事して教わった研磨材は数十種に及ぶが、今あるのは三種類だ。
シメオーヌの鎌は水のマナと親和性が高いのでスライム粉末、ゴバニアンとカタオオキバは土のマナに親和性が高いので地摺りミミズ(グラウンドワーム)の肝、プレムールが使うレイピアは風のマナと親和性が高いので風巻草の種だ。
全て父が誂えてくれた武器だ。
スライム粉末と地摺りミミズ(グラウンドワーム)の肝は、どちらも毒性が高いので使う時は注意が必要だ。
風巻草の種は火に弱い。火の傍では使わない。種が激しく燃えてしまうのだ。
プリンドロンは一度、立ち止まると風向きを確認する。
上手い具合に風上にいる。
布を取り出すと鼻と口を覆うようにして結ぶ。慣れがあるので早い。
だが、人間たちはすぐに姿を表した。
慌ててスライム粉末の袋を取り出して、振り撒く。
風に乗って、一番前にいた人間が訝しげにしながらも、ジリジリと近付いてくる。
「なっ!?巨人だと!なんでこんなところに……
おい、囲むぞ!」
後ろから来た人間たちが横から回り込もうとする。
しかし、一番前の人間が、二度、三度と目を瞬かせると。
「……痛ぇっ!なんだ?いっ……くっ……ああああああぁぁぁっ!!」
目を真っ赤にしたと思えば、その目玉が膨張していく。
それから、空気の抜けるような音と共に目玉が、ポスンと無くなった。
「気を付けろ!毒物だ!」
それを見た横に回り込んだ人間が叫ぶ。
同時にプリンドロンは袋を投げつけるようにして、逃げ出した。
だが、反対側に回り込んだ人間がすぐに追ってくる。
そいつはひと言「矢避けの風っ」と叫ぶと鎧を中心に風が吹き出す。
おそらくは魔導鎧の機能なのだろう。
巨人族のプリンドロンはスピードがある方ではない。
すぐに追いつかれて腰に傷みが走る。
走りながらの斬撃なので、深い傷ではない。
痛みを堪えて、プリンドロンはなおも走った。
次第に追ってくる人数が増える。
森の中は真っ直ぐに走れる訳ではない。茂みを力任せに突っ切るとそこには人間がいた。
こちらに気付いて、剣を構える。「火炎刃!」燃え盛る火の剣だ。
咄嗟にプリンドロンは腰に吊るした袋のひとつを取って投げつける。
火の剣を掲げる人間はその袋を斬った。それから、その勢いのままプリンドロンに斬り掛かろうとして、豪炎に包まれた。
「ひっ……ぎゃああああぁぁぁ……」
プリンドロンの投げた風巻草の種だ。
プリンドロンがホッとした瞬間、後ろから刺される。
追い付いた人間が、勢いのままに剣を突き込んだのだ。
左腰から入った剣先は腹までは抜けなかったが、プリンドロンを走れなくするには充分な一撃だった。
「くっ……ぁぁあああっ!」
プリンドロンは身体を振り回して、逃れようとする。
人間は刺さった剣ごと振り回されて、剣を掴んでいられず吹き飛んだ。
だが、他に追ってきた人間に取り囲まれてしまった。
プリンドロンは覚悟を決めて、ハンマーを握った。
どのくらいの時間だろうか?
痛む身体に鞭打って、ハンマーを振るった。巨人族の一撃は人間の防御を問題にせず、簡単に吹き飛ばした。だが、人間は無理に防御しようとせず、避けてからコンパクトに攻撃してくる。
最初の三人ほどは簡単に潰れた。
だが、後から後から、湧くように出てくるのだ。
プリンドロンは逃げながらも戦った。戦って動く内に、近くで別の戦いの音が聞こえた。
大きくハンマーを振るって、そちらを見やればゴバニアンが戦っていた。
「ゴバニアンっ!」
プリンドロンはなんとかゴバニアンと合流する。
だが、それは人間の誘導だったのだ。
プリンドロン一人に七人の敵だったのが、ゴバニアンと合流することで二対十七になった。
人間たちは慎重に数の暴力を振るった。
「くそっ!このままじゃ、やられちまうっ!」
いくら魔族の身体能力が人間より優れていても、これでは保たない。
しかも、人間たちは魔導武装を持つため、魔法も飛んで来る。
対するプリンドロンとゴバニアンは呪文詠唱の隙もないのだ。力任せにハンマーを、アックスを振るうしかない。
「はぁ、はぁっ……僕達、ちゃんと時間稼ぎできたよね……」
「分かんねえ……半分くらいは引き付けられたはずだけどな……」
背中合わせの二人は油断なく目を配りながら、言葉を交わす。
「シメオーヌとカタオオキバは……」
「アイツら俺たちより素早さが上だからな……」
「そうだね……」
二人はここにいない仲間の無事を信じようとしていた。
もしかして……と考えると恐怖しか浮かばない。
ここにいる人間の数を考えると答えが浮かびそうになって、動けなくなる。だから、信じることを力にしようとするのだ。
だが、その信じる心は二人に力を与えない。
既に満身創痍どころか、人間ならば何度も死んでいるほどの傷が刻まれている。
「まさか、巨人に牛頭鬼がこれ程に頑強とは……」
「だが、倒せば俺達はジャイアントキラーにオーガキラーだ!首を持ち帰れば英雄だぞ!」
人間側も決して余裕がある訳ではないのだ。
魔導武装のおかげでマナの少ない地下世界でも楽に戦えるが、それは魔法の糧が増える訳ではない。
地上と同じことをすれば、同じだけ糧は消費する。
それが長時間続けば、疲弊では済まない。魂すら削れることもあるのだ。使命感よりも欲望で動いている上、人数差ができたことで、無理をしなくなったことも時間を長引かせる結果に繋がっていた。
一層の天空に浮かぶ擬似太陽は、そろそろ夕刻に差し掛かろうとしていた。
暗くなれば夜目の効かない人間に不利だ。
「そろそろ決めるぞ!
全員、ポーションを使え!」
ポーションは『デルズランド共和国』の虎の子で、一人に一本しか支給されない貴重品だ。
魔族との取引によって、魔法の糧が魂の器から溢れた魂の力だと知った『デルズランド共和国』の上層部が、魔法の深淵に踏み込んだ魔導師、魔法師を動員して作らせた、いわば魂の増強薬だ。
これを作るために『デルズランド共和国』には『地上恩恵派』にも内緒で繁殖力に優れたゴブリンの養殖場があるほどだ。
ゴブリンの養殖場で作られるポーションを使えば、魂が増強される。
推して知るべしというものだ。
だが、それを知らない末端の兵士たちには、ただ貴重品ということだけが伝わっている。
英雄と呼ばれ、賞賛される自分を思い描いて人間たちは、支給されている小さな竹の水筒から液体を飲み干す。
途端、溢れ出る魔法の糧。
「三人ずつで波状攻撃だ!手柄は全員の物だ!かかれ!」
隊長格の人間が叫ぶ。
呼応するように攻撃用のキーワードを唱える声が次々と上がる。
「ちくしょー!来るなら来いっ!」
「ゴバニアン、君用の研磨材を使うよっ!」
「……あれか。分かった……付き合ってやるよ……」
「うん。ごめん……」
プリンドロンは最後の袋に手を掛ける。
人間たちが突っ込んできたら、大地に叩きつけて諸共に全てを殺す。
地摺りミミズ(グラウンドワーム)の肝は金属なら少し表面が溶けて、補修にも研磨にも使える優秀な素材だが、土に触れるとその土を地摺りミミズ(グラウンドワーム)の消化液にしてしまう。その消化液は非常に強力だ。さらに毒性も強い。
水に弱いので、使う時は服を着たまま水を被って使わなければならない。
確かに二人とも自身の血を浴びたように濡れているが、プリンドロンもそれで自分たちが安全だなどとは思っていない。
要はひとりでも多くの人間を道連れにしてやろうと思っただけだ。
相手の動き出しに合わせて、プリンドロンが腰の袋を抜いて、高く掲げる。ゴバニアンもプリンドロンの邪魔はさせないと身構える。
「そこまでなのです!」
突如として、頭上からの声と同時に光が落ちてくる。
光がプリンドロンとゴバニアンを囲むように三角錐を形作る。
その場にいる全てのものの動きが止まる。
三角錐の頂点に視線が集まると、そこにいるのは黒い外套にマグマのようなオレンジの笑うカボチャ頭。
「ウイングくんっ!」
「師匠っ!」
「お待たせなのです!」
プリンドロンとゴバニアンの声に、真上からジャック・オー・ランタンが頷いて見せる。
それは全て問題ないという確信を持った頷きだった。
その頷きで、プリンドロンとゴバニアンは理解したのだ。
自分たちの働きが無駄ではなかったと。それだけでこの戦争に参加した意味があったと思える、力強い頷きだった。
「なんだ、こいつは?」
「新種の魔族か?」
「ふん、殺してから確かめればいい!新種なら褒美以上に発見手当が出るぞ!」
魔導兵装に身を包む人間たちが口々に言って、その顔に喜色を浮かべる。
新種の魔族を発見したとなれば巨人、牛頭鬼を討伐して貰える褒美に加えて、更なる褒美が貰えるのは確実だろう。もっと言えば新種発見の栄誉も得られる。
彼らはいきり立った。
「一番槍だ!岩石投槍!」
まずは一番槍を貰おうと一人が魔導槍の力を使う。
構えた魔導槍の穂先から岩石の槍が生まれてゴバニアン目掛けて投射される。
魔導兵装の利点は装備された魔法を単一呪文のごとき短さで放つことができることだ。
予め決められた魔法しか使えない、マナにひとつの命令しか下せない応用力のなさがあるものの、岩石の槍を飛ばす攻撃を言葉ひとつで行えるのは脅威だと言える。
「くっ!」
ゴバニアンが慌てて戦斧の反対側に装備した盾を構える。
だが、それはいらぬ心配だった。
ウイングの思念によってレーザー光線を膜のように照射し続ける波動の精霊ラッシュ。
そのレーザー光線に触れた岩石の槍は、光線に触れた端から細切れに裁断されて勢いを失い、パラパラと地に落ちた。
「なんだ、これは!?」
「無駄なのです。僕が来たからには、お前たちには指一本友達に触れさせないのですっ!」
眼下に取り囲む人間たちへと、ウイングが宣言する。
同時に、三角錐の頂点に浮いていたジャック・オー・ランタンが、ふわりと地に降り立つ。
外套の脇から腕が延びるように出ると、その手には漆黒の大鎌が握られている。
「まずは新種からだっ!」
隊長格の人間が叫ぶ。
同時に、先程岩石の槍を使った男と同調した他二名が一斉にジャック・オー・ランタンに襲いかかる。
左右からは岩石の槍が投射され、正面の人間は「火炎剣!受けられるものなら受けてみろ!」と叫びながら、手にした長剣を包むように炎が吹き上がり、それを叩きつけてくる。
ウイングはつまらなそうにサアラの変じた大鎌をバトンのようにくるりとひと回しして岩石の槍を打ち払うと、言われた通りに火炎剣を食らった。
肩口から斜めに振り下ろされた長剣は、外套に当たった所で岩を叩く音がして止まる。
外套もまたサアラの変じた精霊の鎧であり、さらにそのすぐ下には大地の精霊アースが変じた精霊の鎧を重ね着している状態である。
一般兵の練度程度の攻撃では表面を削れるかどうか。
「くそっ!硬い!」
火炎剣を持つ人間が少しでも体勢を崩そうと肩口に当てた剣を押し込もうとする。
元来、焔の精霊サアラが変じた黒い外套の黒さとは、表面だけ熱を冷ました溶岩の黒さだ。
その溶岩もサアラの匙加減ひとつで、いつでも灼熱のマグマと化す。
いくら火炎を吹き上げるために熱に強い素材を使った剣とはいえ、限度がある。
剣と外套の接地面から、ブスブスと煙が上がったと思うと、熱は剣を通じてそれを持つ人間の掌を焼いた。
「つあっ!」
人間の手から剣が落ちる。
「今度はこっちの番なのです」
ウイングは手にした大鎌を踏み込んで振るう。
呆気なく剣を落として下がろうとした人間を両断する。
既に人間を殺すことへの忌避感は心の奥に閉じ込める術を得ている。守りたい者を考える。守るべき者を守るために冷徹に振舞う。
それがウイングなりのこれまでを通して得てきた忌避感との付き合い方だった。
人間たちがあまりの力の差を感じて尻込みする。
同時に、後方にいた者の悲鳴が上がる。
一人は首筋に矢を突き立てられ、一人は草刈り鎌で腹を抉られ倒れた。
虫人のシメオーヌとゴブリンのカタオオキバだった。
全員の意識がウイングの変じたジャック・オー・ランタンに脅威を感じた瞬間の奇襲だった。
「二人とも、まだやれるですか?」
ウイングの声に、ゴバニアンとプリンドロンが「応っ!」と答えて、同時に光の膜が取り払われて一気に乱戦にもつれ込む。
ウイングは全員のフォローのために、時に大鎌を、時に魔法を振るうことで注意を惹く。
人間たちは新種の魔族の脅威度から、目を離す訳にもいかず、集中できないままに一人、また一人と討ち取られていった。
結果的に二十近い人数のほぼ全てを討ち取り、捕虜も二人、それと同数の魔導兵装という戦果になった。
「ウイングくん、ありがとう!」
「ううん、プリンたちのおかげでサヴァル兄様たちも助けられたです。
本当にありがとうなのです」
精霊たちに姿を消して貰ってから、ウイングは頭を下げる。
「プリンドロンの兄貴、ウイングくんはまずいですって。様、様ですよ!」
カタオオキバが慌ててプリンドロンの口調を直すべく耳打ちする。
「いいのです。プリンたちは友達だから僕から様付けで呼ばないようにお願いしてるのです」
「まあ、俺たちだけでいる時だけってことにしてもらってるけどな」
補足を入れるのはゴバニアンだ。
「そそ、団の規律が乱れるから、普段は親分のことはちゃんとウイング様だよ」
シメオーヌも誇らしげに説明する。
「シメオーヌとゴバニアンの呼び方は、僕は認めてないです!」
「えっ?師匠?」
「お、親分そりゃないっすよ!」
ゴバニアンはわざととぼけた風に、シメオーヌもわさとらしいトホホ顔でウイングをからかっている。
ウイングはムキーっと唸ってから、諦め半分に笑う。
「うおおー、兄貴たちカッケー!」
カタオオキバは瞳を輝かせていた。
「カタオオキバも良ければそうして欲しいです。あとプレムールも」
「名前……覚えてくれたんすか?ウ、ウイングの兄貴……」
さっそく兄貴呼ばわりしつつも照れるカタオオキバに、ウイングはにっこり笑みで応じる。
ウイングにしてみれば、異種族に興味深々なので勝手に名前は覚えてしまうのだ。
「あ、そういえばプレムールは?」
プリンドロンは虫人の弟分がここにいないことを話題にする。
「伝令の為にかなり無理して走って、今頃は野営地で休んでるはずなのです。途中でたまたま羽妖精のトルミンに会えたから良かったですが、野営地までぶっ続けで走ったらと思うと、ちょっと怖くなるです……」
それほど必死に走ってくれたのだと思うと、皆の中でプレムールへの感謝の念が湧き上がるのだった。




