戦槌戦士団なのです。
ウイングたち『蒼翼騎士団』は全速力で西へと向かっていた。
その頃、サヴァルマーナの『戦槌戦士団』は『デルズランド共和国軍』の目を逃れるように洞窟に身を潜めていた。
ゴブリンたちに負傷していない者はいないほどの酷い有様だった。
動けるのは千名ほどだろうか。
先の『ハスタ王国軍』魔導兵器との戦いで装備の殆どを失い、無理を言って一層中央軍、通称『本陣』で補給を受けたとはいえ、それは充分とはいえず、ランクの低い鎧、粗末な武器、糧食も切り詰めなければならないような状態で、満足に動ける訳もなく、追い詰められていた。
それでも、サヴァルマーナ率いる『戦槌戦士団』は良く戦っていると言って良い。
陣を敷けるような余力もなく、まるで『皇龍騎士団』と戦ったのが嘘だったかのように、疲弊知らずで、戦意に溢れた魔装兵団に、兎か狐でも狩るかのように追われるのだ。
まだ、士気が衰えず、戦う意志を見せるゴブリンたちは本当に勇者だった。
サヴァルマーナは考えていた。
確かに『デルズランド共和国』の魔装兵団は脅威だ。
だが、ほぼ無傷な敵兵を見た時に、これは何かしらカラクリがあると疑ったいたのだ。
その考えをまとめていると、斥候に出したゴブリンが戻ってきた。
「どうだった?」
「サヴァルマーナ様の思っだどおりでしだ……『皇龍騎士団』の陣跡には襲われだ形跡はありましだが、戦闘跡には見えませんでしだ……」
「……やはりな」
これではっきりした。いや、はっきりしてしまったと言うべきだろう。
テセラスタは、さらに言えば『皇龍騎士団』は敵と内通していると見るべきだろう……と、サヴァルマーナは深い溜息を吐く。
洞窟の壁に身体を預けて、片手で顔を覆って笑う。
「ククク……愚かな……なんと愚かなのだ、私は……だが、何故だ?何故、今なのだ?狙いは?」
思わず口にして、その目的を考える。
しかし、その目的を見抜くには余りにも情報が不足している。
「なあ、お前ならどう考える?」
サヴァルマーナが聞いたのは、元七層魔性族のジーガンの護衛をしていたインゼムという男だ。
サヴァルマーナはジーガンが『地上恩恵派』の重要な地位にいるのではないかと疑っている。
そのジーガンが虎の子として連れてきた魔王候補者こそ、テセラスタ。
ならば、当然テセラスタにも『地上恩恵派』の疑いがある。
だが、テセラスタが魔王になるには、この一層で充分な手柄を立てる必要がある。
だからこそ、それなりに戦うだろうと見ていたのだ。
しかし、テセラスタは戦わず、表舞台から姿を消した。
これでは、ジーガンの狙いであるテセラスタを次の魔王とする線は消えてしまう。
そして、ここにいるインゼムだ。
ジーガンに忠誠を誓っているであろうインゼムから、情報を引き出せないかと引き取ったが、今までは特に『地上恩恵派』との繋がりは見えてこない。
ゆっくりと懐柔して情報を取るつもりだったが、戦に駆り出されたので、自分の護衛という名目で監視がてら連れてきたのだ。
「な、何をでしょうか?」
「『地上恩恵派』の傀儡、テセラスタが武功も上げずに全滅を偽って逃げ出した理由さ……」
「わ、わたしには分かりません……」
「そうか?……まあ、いい。何か思いついたら教えてくれれば、悪いようにはしない」
サヴァルマーナは何度かインゼムに自由を与えて、何かボロを出さないかと秘かに尾行してみたこともあるが、怪しい動きを見つけることはなかった。
ジーガンにインゼムを自分に預けるよう言いに行った時も、「よくぞ、生きて戻ったな!お前のように優秀な者ならば、サヴァルマーナ様のお力にもなれるだろう!よくよくしっかりお仕えするのだぞ……心配するな。後のことは私の方でやっておくから……」と、非常に友好的に接するだけで、渋る様子もなかった。
だが、だからこそサヴァルマーナはインゼムを疑っている。
ただの勘でしかない、しかし、その勘が捨て切れないのだ。
そして、サヴァルマーナが更なる思索に耽ろうとした時に、別のゴブリンが慌てたように洞窟へと駆け込んでくる。
「デルズランド軍に動きがありましだ!
どうやら、我らを無視しで北東方面に進軍しようとしでいるようです!」
「我らを無視して動けると思わせる訳にはいかない!
出るぞ!」
立ち上がったサヴァルマーナに続いて、動ける者たちが一斉に立ち上がる。
それどころか、床に呻いていたゴブリンまでが、這ってでも行こうと無理矢理にでも身体を起こしてくる。
そんな者たちを眺めて、サヴァルマーナはゆっくり大きな声で言う。
「さすが、精鋭なる我が戦槌戦士団!
しかし、立ち上がり駆けることが出来ぬ者は置いてゆく!
一撃離脱が出来ぬ者では無駄に命を落とすことになる!
お前たちの想いは私が持っていく!
次の機会までに動けるように、今は休め!」
「おでは!おでは、行けます!」
腹を裂かれ、頭に傷を負ったゴブリンが立ち上がる。
「カタコブ、私は駆けられる者と言ったのだ……」
見れば確かに右肩の辺りに瘤ができている。それがこのゴブリンの名前なのだろう。
「若様だけに任せる訳にはいきません、おでもだだかえる!」
片腕を失くし、足に矢傷を負ったゴブリンも、片足だけで跛を引いて立ち上がる。
「ドングリメ、お前もダメだ!」
サヴァルマーナはここにいるゴブリン全員の名前を覚えている。八層で長く暮らしたとはいえ、『戦槌戦士団』との接点は決して多いとは言えない。
だが、サヴァルマーナは共に戦う仲間だからと、全員の名前を聞いた。そして、覚えたのだ。
だからこそ、ゴブリンたちは自分の身も顧みず命懸けで尽くそうとするのだ。
「任せてくれ、私の強さは皆が認めてくれているだろう?」
サヴァルマーナにここまで言われては、傷身のゴブリンたちは、それ以上言えなくなってしまう。
後はただ無事にサヴァルマーナが戻るのを祈るだけだ。
「よし、行くぞ!」
サヴァルマーナの号令で動ける全員が「応っ!」と答えて駆け出す。
その瞳はギラギラと輝き、全員が残る者の想いを背負ったような顔をしていた。




