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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
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昔話なのです

こちらは本日二話目になります。

前話と併せてご覧ください。

「俺が九層にキャッスルガードとして仕える前の頃の話だ。


 魔王ヴォラウディーグは最初、暗愚な王と呼ばれていた。

 魔王のくせに使える魔法は闇魔法だけ、再生能力も半端、膂力も巨人族と同程度、魔王としては弱い部類に入る。

 故に命令を聞く奴がいない。

 表面的に聞くだけだ。


 もちろん、魔王の権威は絶大だ。

 初代魔王ルーシュフエル様が成したことはそれだけの価値がある。


 だが、弱い魔王の為に命を投げ出してまで従うなんてのは、愚か者のすることだ。

 特に魔鬼族はそうだ。

 魔王が弱ければすぐに牙を剥く。


 ヴォラウディーグの治世も、何度も反乱が起きた。

 当時、七層魔性族の統治を行っていたのが、ヴォラウディーグを猫可愛がりしていた叔父だったからこそ、魔鬼族の反乱も押さえ込めていたが、そうでなければヴォラウディーグはとっくの昔に王権を剥奪されていただろう。


 その風向きが変わったのは、死魂族からレンバート・エリアス・バウストルが九層にやって来てからだ。

 レンバートは最初、軍師として九層にやってきた。

 レンバートは血の気の多い奴だった。

 魔法石(マジックジェム)という類い希な魔法の親和性を持ち、千年とも二千年とも言われる長い間に蓄えた知識で戦いをゲームのように楽しむ奴だった。


 当時は、人間との戦いより魔鬼族の反乱の方が多かったからな……戦を楽しむ奴は、弱い方に味方してたっぷりと血を見たいからという理由で九層にやってきたらしい。


 レンバートは種族間の軋轢を上手く操って、反乱軍を弱らせ、ヴォラウディーグに秘宝『宝珠(オーブ)』を持たせて力を示させた。

 その時、ヴォラウディーグは精霊を手に入れたことで魔王として真に認められるだけの力を持ったのだ。


 ヴォラウディーグは闇のランクアップした精神の精霊と水の精霊を使役した。


 それからヴォラウディーグの治世は安定した。


 その頃、俺は九層にやってきた。

 魔族が魔王の元に一本化したため、地上への回帰を望む声が大きくなった。

 人間たちとの戦の気運が高まっていた。

 俺の父親は貴族だった。

 俺は貴族としての生き方を嫌っていた。

 これから地上に向けて攻め上るという時に、俺は邪魔だったんだろう……父親は俺を九層でせめて魔王様の役に立つようにと、送り出した。


 それから戦が始まった。

 ヴォラウディーグは上手くやった。

 地上の三分の一を蹂躙せしめる程に。

 これにはレンバートの力が大きかった。


 そうして、ある時、勇者が九層に現れた。


 一層から八層までどうやって監視の目を潜ったのか分からないが、勇者は突然現れたんだ。


 奴らはたったの十数人で、九層の主だった武将を討ち取り、一気呵成に魔王城の近くまでやってきた。


 レンバートはずっと調べていたらしい。

 あいつの策は悉く裏をかかれて、瓦解した。

 おかしいと思ったんだろう。


 そうして、ようやくレンバートが答えを得たのは、謁見の間に勇者が現れた瞬間だった。


 勇者たちは夜魔族の協力者に導かれて来たんだ。

 俺はちょうど謁見の間の警護で立っていたから見ることになった。

 夜魔族のやつは堂々と姿を見せた。

 そいつは魔王の側近だった奴だ。


 地上に夜魔族を受け入れる土地を用意すると騙されたらしい。

 勇者が認めたところで人間が認めたことにはならないのにな。


 レンバートも呆れていた。

 だが、魔族が、俺たちが地上を求める心は理屈じゃない。

 乾いた喉が水を求めるのと同じだ。

 だから、夜魔族が甘言に踊らされたからと、馬鹿にできる訳でもない。


 ヴォラウディーグ、レンバート、近衛の奴ら、俺たちキャッスルガード……生き残ったのはヴォラウディーグとレンバート、そして俺だけだった。

 俺たちはその時にお互いを戦友と呼べる仲になった。


 ヴォラウディーグはその時、勇者から受けた神力攻撃の傷が癒えず、それが元で死んだ。


 死ぬ間際にヴォラウディーグはレンバートと俺に言葉を残した。


『魔王族は力ある者は生き残れない。

 だが、力なき者では魔王になれない。

 我ら魔王族とは何であろうか……。

 頼む、息子たちを魔族の因習から守って欲しい……』


 それから、レンバートは軍師を辞め、家庭教師になり、俺は軍属を辞め、鍛冶師になった。

 軍にいると身動きが取れないからな」


「因習ってなんだ?」


 牛頭鬼(ミノタウロス)の少年ゴバニアンが疑問を呈する。

 巨人族のパリンガロンは深く嘆息すると、ジロリとゴバニアンを睨む。


「それを聞く覚悟はあるのか?

 聞けば命を賭けねばならなくなるぞ」



 全員が黙った。

 その中で口を開いたのはプリンドロンだった。


「でも、ウイングくんに関係あることなら、聞きたい!

 だって、ウイングくんが殺されちゃうかもしれないんでしょ?」


「聞けば、お前も命を狙われるかもしれない。

 それでもか?」


「だって、ウイングくんは魔王様の子供で、本当なら僕なんて話すことすらできないはずなのに、言ってくれたんだよ!

 ……友達になろうって!

 父さん、いつも友達だけは裏切るなって言ってるじゃないか!

 なら、ウイングくんと同じものを僕も背負うよ!」


「プリン……ダメなのです!

 魔王族の問題だというなら、それは僕だけが背負う問題なのです!

 皆はここで帰るのです!」


 ウイングはプリンの気持ちを嬉しく思う。

 それでも状況の危険性は感じる。

 そこにプリンドロンを、初めての友達を巻き込む訳にはいかないと思った。


「おっちゃん!俺も聞く!

 ウイング師匠の問題なら、弟子である俺の問題だ!」


「僕はウイングさまの子分ですから、当然聞く権利があると思います。

 親分に危険が及ぶなら、子分が助けるのは当たり前ですから」


 ゴバニアンもシメオーヌも当然のように主張してくる。

 ウイングは十日前に友達になったばかりの三人の心情が理解できない。


「そんな、みんなダメなのです!

 なんで、二回しか会ってない友達のために、簡単に命を懸けるようなこと言うですか!?

 パリンさん、僕だけに聞かせるのです!」


「うるせーな、師匠!

 たった二回じゃ友達の資格がないとでも言うのかよ?」


「師匠とか言いながら、その口の利き方はヒドいのです!

 それに師匠じゃなくて友達なのです!」


「親分は親分らしく、ドーンと構えてりゃいいんですよ!

 親分、子分は契りを交わした瞬間から親分、子分なんですから」


「契りとか交わしてないです!

 それに親分じゃなくて、友達なのです!」


「交わしましたよ。

 ほら、『ボッドルウィン酒場』で果実水、まわし飲みしたじゃないですか!」


「あれは、契りとかじゃないです!」


 ウイングとゴバニアン、シメオーヌの三人が言い争いをしている横で、プリンドロンは父親に何事もないように顔を向ける。


「ほらね、僕たちはもう充分に友達なんだ。

 だから、聞かせてよ、父さん」


「ふん……そのようだな。

 いいだろう」


「良くないです!

 なんで、パリンさんは皆を巻き込もうとするですか?」


 ウイングは語気荒く言う。


「坊主、お前は一人で生きるつもりか?」


「そうです。これでも僕は五体の精霊を従えています。

 レンバート先生の教えで充分な知識も身に付けました。

 一人でも生きていけます!」


「「「ご、五体……」」」


 子供たちが一斉に息を飲む。

 だが、パリンガロンは動じる様子もない。


「それで、飯はどうする?住むところは?金はどう稼ぐ?

 何より、お前の心はどう守る?」


「……」


 ウイングは答えられない。

 前世において、一度は自殺すら決意したのは、何だったのか……それを考えるに『心を守る』という言葉は重く響く。

 家族が亡くなり、友達もなく、心を守れなくなったからこそだったからではなかったのかと自問自答する。


「大事なことだ。

 ヴォラウディーグは言った。

 『精神の精霊は一時的に他の者の心を操る。

 だが、我が心を置ける相手を作り出すことだけはできない。

 それはひとつではなく、複雑に絡み合ったお互いの想いが生み出すものだからだ』と。

 お前は魔王族としては充分以上の力を持つのかもしれないが。

 心は幼く弱い。

 ここにいる誰よりもな」


「でも……」


「ウイングくん!」

「ウイング師匠!」

「ウイング親分!」


 ウイングの反論は三人の声に掻き消された。

 ウイングは目に熱いものが溜まるのを感じながら言った。


「ごめん……ありがとう……」


 それに対する三人は顔を見合わせて笑いあった。

 これが『心を守る』ということなのだと実感するウイングだった。


「ふん……ではいいな。


 ……俺がそれに気付いたのは、今代の魔王が即位する直前だ。

 残念ながら、エリュセイグドより前の魔王候補たちは全員殺されてしまった。


 『地上恩恵主義者』たちによってな……。


 奴らは地上からの恩恵を得て、回帰を捨てた者たちだ。

 地上への回帰を望めば、『勇者』が生まれる。

 だが、少数の魔族が地上の恩恵を受ける分には『勇者』は生まれない。


 奴らは地上と取引すらしているという。


 奴らが恐れるのは強い魔王が現れて、地上への戦を起こすことだ。

 それをさせないために、奴らは強い魔王候補を殺してまわる。


 エリュセイグドは運が良かった。

 能力は高いが、その力の殆どは内政に向けて使っている。

 『地上恩恵主義者』の邪魔をしない性格が幸いした。


 魔族としては物足りない部分もあるが、ヴォラウディーグの代に疲弊した各種族も今は大人しくしているしな」


「魔王族は強い再生力があるって父ちゃんが言ってたぞ!

 中でも、強い魔王候補たちを殺してまわるなんてできるのかよ?」


 ゴバニアンが疑問を呈する。



「魔王を殺す方法などいくらでもある。

 例えば、神力攻撃。

 神力を持たない魔族でも、神力を持つ武器で傷つけられれば、再生力は及ばない。


 もしくは魂の器が擦り切れるまで魔法力を使わせてもいい。

 再生力は魔法力が源となって発動するものだ。

 魔法力がなくなれば再生力もなくなる。


 心を殺す方法もある。

 心が死ねば、その者は死んだと同じだ。


 虚無に送り込んでもいい。

 空間魔法の中には、虚無と呼ばれる空の恵みも大地の恵みも届かない世界への扉を開く魔法がある。

 その中ならば、魔王と言えども滅びるしかない。


 いくら強くとも、魔王を殺すことは充分に可能だ

 だから必要なのだ、友と呼べる協力者の存在が……」


「そっか……ウイングくんは強いけど、一人じゃダメなんだ……」


「うん、親分を守れるように僕たちも勉強しなきゃ!」


「俺、もっと修行して強くならなきゃ!」


 三人はそれぞれに決意を固める。


「僕、どうしたらいいですか?」


「考えろ……」


 ウイングの迷いにパリンガロンは優しい言葉をかけない。

 それが正しいかどうかではなく、ウイングの中でしっくりくる答えだったのは確かだ。


 ウイングは彼らに報いる方法を考える。

 ウイングは彼らに迷惑をかけない方法を考える。

 そして、敵の存在を考える。


「誰が『地上恩恵主義者』なのか、知っているですか?」


「さてな……分かっていたら、レンバートが裏を探って、始末しているはずだがな……」


「レンバート先生はパリンさんと会うですか?」


「いや……お互いに連絡は取り合わない。

 あいつと俺はそれぞれに動いている。

 危険を減らし、お互いを保険とするためにな……」


「レンバート先生から『地上恩恵主義者』の話は聞いたことないです。

 話してもいいですか?」


「ああ。そうしてくれ」


 それから、パリンガロンはウイングのために剣を打つと約束した。

 子供たちはお互いにどうすれば強くなれるかを話し合う。

 そうして、あれこれと話し合って、時間が過ぎていく。

 パリンガロンは先に戻るといい、子供たちはウイングにそれぞれ色々なことを聞いていく。

 真面目なこともあれば不真面目なこともあった。


 だが、それが彼らの仲を育てていく。

 昼の半ばまで話して遊んで、ウイングは剣を土産に買って、帰っていく。


 レンバート先生に伝えることがある。

 魔王候補の兄はどうなのだろう?

 知りたいことがたくさんある。


 ウイングの帰路は少しの緊張感と少しの満足感、大量の土産を抱えた帰路になるのだった。



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