友達ができたのです
大変お待たせしました。次はもう少し早く投稿できるように頑張ります。
「父、お小遣い下さい」
朝食が終わってすぐ、ウイングは父に手を出す。
八歳の時、ウイングには翼が生えた。
手のひらより少し大きいくらいの黒い一対の鳥のような翼だった。
八歳になったある時、背中が熱くなって痛みが走って、寝込んでしまった。
「あら、大人の仲間入りなのね!」
母が嬉しそうに言った。
それから、三日間寝込んで、翼が生えた。
修行に行った風の精霊ジーンは一週間ほどで「寂しくなったから、帰ってきちゃいましたー!」と帰ってきていたので、ウイングに翼が生えたことを大喜びした。
そして、ウイングは三日間寝込んだことで、何となく翼の使い方を理解していた。
父に聞いたところ。
「そういうもんだ……」
と、しみじみ言われたので、そういうものかと理解した。
ちなみに母には翼がない。
ウイングのそれは他の誰とも似ていない。
ただ、最初の魔王ルーシュフエルからしばらく代を重ねるまでは黒い翼を持っていたそうなので、隔世遺伝なのだろうと前世の知識で判断した。
魔性族から魔王族が生まれる例もあるので、誰もその辺りは気にしないらしい。
そうして飛べるようになって、魔王城から少し離れたところにある街に遊びに行くことを許された。
十日に一度、街に行く。
父はお小遣いをくれた。
魔王の息子として、お金の使い方を学びなさいと言われた。
そして渡されるのは、百ジンコインを一枚だ。
一ジンは百ルーン。
五ルーンもあれば、肉を挟んだパンと野菜スープ、果汁入りの水が付いた食事ができる。
十五ルーンあれば、一般的なシャツが一枚買える。リサイクル品なら五ルーンでも買える。
初めて街に行って、三ルーンの肉串を買い食いしようと百ジン出したら、おつりが出せないから街の代官のところで両替してから、もう一度おいで、とこめかみに青筋浮かべた鬼族のおじさんに、にこやかに言われて、少々怖い思いをした。
「父、お小遣いは貰いすぎです!」
ウイングが抗議した。
「どう使うかは、お前次第だ。
百ジンで買える物もあるし、買えない物もある。
それを知り、考えるのも勉強だよ」
言われて非常に感心した。
「まあ、ガキの頃にレンバート先生に言われたんだけどな!」
それを知って、父に感心して損したと思った。
それから、大きい買い物も小さい買い物もした。
魔王城最寄りの街は魔王街と呼ばれるかなり栄えた街だ。
扱いとしては城下町だが、城との距離が結構あるので、代官が統治している。
この街では食事や生活用品などは安い、武器や魔導具は品質が良いものが集まるのか高い。
そうしてお金の理解を深めながら、ウイングは十歳になった。
最近では、もっぱらお金を貯め込むことにしている。
今日も父からもらった百ジンは自分の部屋の鍵付きの小棚の袋にしまいこんで、代わりに普段財布として使っている巾着を取り出す。
服装も城で用意された仕立ての良い服ではなく、自分で用意した町人服に着替える。
あまり仕立ての良い服を着ていると、必要以上に怯えられるか、必要以上に優遇されてしまうので居心地が悪いのだ。
もちろん、翼を出し入れするためのスリット付きの服だ。
有翼魔族は多いので、専用の服が売っている。
昔、失敗してスリットなしの服を買ってしまい、翼を出す訳にいかず歩いて帰ったら、父に大笑いされた。
その後、母から父は未だに同じ失敗をしていると聞いて、一緒に笑ったのは良い思い出だ。
巾着の中を確認すれば、まだ九十ルーンはある。
ワルトメルガから贈られた『原初の魔物』多頭竜の牙から削り出した小剣、銘をクランクランチと付けられたそれを腰に吊す。
常に戦いに身を置く極北旅団らしく装飾のない武骨な作りの剣だ。
準備を整えたら、姉であるリオラディッタのところに行く。
「姉!今日はどうしますか?」
十七歳になった姉は毎日のようにお見合いをしなければならなかった。
おかげで十日に一度の外出はしたくてもできない状況だ。
見かねてウイングは自分の外出日になると、姉の為に買い出しをすることにしている。
姉はよくウイングに屋台の食べ物を望む。
「花もアクセサリーも見飽きたわ……甘辛いタレのたっぷり掛かった『怖い鬼親父』の肉串くらい持ってくる気遣いのできる男っていないのっ!」
姉はよくそんなことをこぼしている。
『怖い鬼親父』はウイングが初めて買い食いしようとした屋台の屋号だ。
姉はあそこの肉串がお気に入りだ。
ウイングとしては『怖い鬼親父』なら、間に野菜を挟んだ肉菜串の方が好きだが、姉に言わせると肉のみの肉串が好きらしい。
「じゃあ、『ボッドルウィン酒場』のガチ辛根性焼きを特盛でお願い」
これもまた姉の好きな少々クセのある兎に似た魔物の肉に香草を詰め、イターツの実や香辛料でコーティングした、かなり大人の味、というか酒飲みが好む味の肉である。
ウイングは辛過ぎてめったに食べないが、姉によく頼まれるので『ボッドルウィン酒場』の主人は顔見知りだ。
『ボッドルウィン酒場』の主人は風の竜人ヴィ(ヒュー)リーと同郷の火の竜人ドルウィンだ。
ガチ辛根性焼きは火の竜人の火炎ブレスで表面を一気に炙るのが旨さの秘密らしい。
「分かったのです」
姉のリオラディッタに答えて、ウイングは歩いて城を出る。
城内から飛ぶのは見張りの兵士たちに気を使わせてしまうので、避けている。
門番のゴブリンに挨拶して、城を出てから翼を開く。
ぱたぱたと魔王街目指して飛ぶ。
歩けば二キザミ(時間)だが、飛べば十五カケ(分)ほどだ。
魔王街の手前で降りて、街の入り口で門番に挨拶をする。
既に魔王の息子だとバレているので、顔パスで通して貰える。
「おう、息子!
今日は買っていかねーのか!」
威勢のいい声は『怖い鬼親父』の主人だ。
やはり、バレている。というか、最初に怒られた瞬間から魔王の息子だろうと見られていたらしい。
仕立ての良い服、子供のくせに大金を持っている、その割りには金の価値すら知らない。
魔王城に一番近い入り口そばに屋台を構える主人は、父も姉も、見たことのない兄たちもお世話になっているらしいと聞いている。
「またあとで、寄るのです」
ウイングは答えて、大通りを北へ向かう。
まだ昼前だが酒場が軒を連ねる街の北側はいつものように騒がしい。
魔物狩りを済ませた狩人や、非番の兵士たち、遅い朝食を求める者に酒飲み目当ての大道芸人、他階層から来た観光客に商売人がごちゃ混ぜになっている。
通りを一本奥に入って、少し喧騒が収まった道を行く。
すると、赤く塗られた炎の形の看板の『ボッドルウィン酒場』が見えてきた。
店内に入ると酒飲みたちの目線が痛い。
ガキが何しに来やがった、という目線だ。
なかなか慣れないが、奥に目をやればすぐに看板娘のウイニールさん(夜魔族♀二十八歳)が気付いて声を掛けてくれる。
「あら、ウイングちゃん、お姉さんのお使い?」
「はい、ガチ辛根性焼き特盛をお願いします」
「最近はリオラさん、忙しいのね」
ウイニールさんは姉と親しくしているらしい。
最初、香辛料の香りに誘われて入ってきた姉は、今のウイングのように酒飲みたちから、女が何用だ、という目で見られていたらしい。
しかし、酒飲みたちでも食えないガチ辛根性焼きの、しかも特盛を、モリモリ食べる姉は一瞬でこの店のレジェンドになったらしい。
「はい、こちらをとても恋しがっていました」
ウイニールさんにそう伝えると寂しそうに微笑んで、そう、と言う。
話をしている間に、厨房から香草と肉、香辛料が焼ける芳ばしい香りが漂ってくる。
反応した酒飲みたちが次々に注文を入れていく。
「姉ちゃん、普通の根性焼きをくれ!」
「こっちは辛味根性焼きだ!」
「はっ、お前らは旨いもんが分かってねえな。大辛根性焼きをくれ!」
「親方、何でみんな一番オススメになってるガチ辛根性焼きを頼まないんですか?」
「バカか!あれが食えるのはレジェンドだけだ!俺らが食ったら頭の血管から火ぃ吹くわ!」
真っ赤なウロコに覆われた巨体が手に小さな皿を持って歩いてくる。
その皿の上には真っ赤なミートボールが乗っている。
そして、ひとつだけ真っ黒なソレが乗っている。
火の竜人ドルウィンがニヤリとする。
ヴィ(ヒュー)リーで見慣れているウイングには『ニヤリ』だが、酒飲みたちには『とって喰う』ような笑いに見えて、動きが固まる。
「おごりだ、食ってみろ」
職人の徒弟らしき男が木製ジョッキを握る手に力を入れて、空いた手で黒いミートボールを摘む。
芳ばしい香りの中に蒸し焼きになった香草の香りが鼻腔をくすぐる。
ごくり、ひとつ喉を鳴らして徒弟がそれにかぶりつく。
パリパリ食感の表面の黒くなった香辛料の層には砕いたナッツやゴマのようなものを使っているらしく、瞬間甘味を感じる。
次に弾力のある肉の層を歯が貫いていく、じゅわっ、と弾けるように溢れ出す甘味と少しクセのある香りが特徴の肉汁。
肉にはしっかりと塩分がつけてあるのが分かる。
そして、到達する香草の苦味と油っぽさを流すような水分が脳を刺激する。
そして、爆発が起こる。
押し寄せる旨味の嵐。と同時に舌を刺す痛みと熱さ。
身体から汗が噴き出す。
水分の全てが流れ出るような口中の刺激が脳天を突き抜け、何かが抜けてしまうような悦楽を味わう。
徒弟は、死を感じる。
この爆発物を口中で少しでも動かしたら、死ぬな、と感じる。
地獄の業火に焼かれながら全身を刃が貫いてしまうのではないかという痛みと熱さの刺激。
しかし、それすらも凌駕するような旨味が甘い誘惑となって舌全体で味わいたいと思わせる。
さらに、ここに喉ごしを重視したアルコール特有の味が加わったら、どうなってしまうのだろう……旨い、痛い、熱い、でも旨い、どうしたら……噛み締めて味を絞り出したいが噛んだら、いや、動かしたら、死ぬ。どうしたら……どうしたら……。
人間にかなり近い形をした魔性族の徒弟は、ひと口かじったところで顔を真っ赤にして、目を剥いて、ダラダラと汗と涙と鼻水を零して、それから目の焦点が合わなくなったかと思うと、木製ジョッキとガチ辛根性焼きを両手にしたまま、仰向けにひっくり返った。
その怖さを知っている酒飲みからは、うわぁとか、あちゃーとか声が上がる。
(ボッ)ドルウィンは残念そうに肩を竦めると、親方と呼ばれた男の前に皿を置いて厨房に戻っていった。
去り際に、ウイングの頭を、ワシワシと撫でる。
「あの娘によろしくな……」
そう言って、引っ込む。
ウイニールさんが持ち帰り用に詰めてくれた木の皮に包まれたガチ辛根性焼きを受け取って、十二ルーンを払う。
「今まで、食べて気絶しなかったのはリオラさんとウイングちゃんだけなのよ。
美味しいんだけどねえ……」
ウイニールさんが零す言葉を尻目にウイングは礼を言って、その場を後にする。
一度帰って、姉に温かい内に渡したいと思ったのだ。
(ボッ)ドルウィンの味が徒弟に伝わらなかった時の(ボッ)ドルウィンさんとウイニールさんの残念そうな顔を見てしまったからだ。
ウイングは街の北側出口に向かう。
多少、回り道になっても飛んだ方が早い。
財布に一緒に入れている身分証を見せて、北側出口から街を出る。
しばらく歩いてから翼を開く。
これはちょっとしたマナーだ。
街中や城内では飛ばない。
街や城を出て、ある程度離れてから翼を開く。
大抵の者はそうやって、門番や見張りを驚かさないようにする。
さて、と風の精霊ジーンに思念で呼び掛けようとすると、近くで子供の言い争う声がする。
「早く見せてみろよ!」
「う、うん……でも、勝手に持って来ちゃったから……」
「いいから早くしろよ!グズ!」
「そうだよ、お前が言ったんだから、早く出せよ、グズ!」
「だって、お店で一番高いやつだから……絶対、見せるだけだからね……」
「分かってるって、見せるだけだろ!」
「う、うん……」
何事かと、ウイングはそっと木陰から覗き見る。
巨人族の少年らしき子供が、鬼族の牛頭鬼と魔虫族の虫人の子供に詰め寄られている。
巨人族の少年が、おずおずと手にした棒状の布包みを解いていく。
その途中で牛頭鬼の少年が乱暴にそれを取り上げる。
「あっ……」
巨人族の少年が一番背が高く大柄で、父と同じくらいの背丈だろうか。
それより頭ひとつ小さい牛頭鬼の少年、さらに頭ひとつ小さい虫人といった感じだ。
ウイングなど虫人の少年と同じか少し低いくらいの身長しかない。
取り上げられた包みに手を伸ばす巨人族の少年だったが、牛頭鬼の少年が角を向けて凄みを効かせると、黙ってしまう。
そのまま、牛頭鬼の少年が包みを乱暴に剥ぎ取ると中から立派な拵えの一振りの長剣が現れる。
鞘に入ったままでも、相当な業物だろうことが見て取れるソレだったが、牛頭鬼の少年は柄に手を掛けると、それを抜き放つ。
「「おおぉ!」」
牛頭鬼と虫人の少年がどよめく。
「ねえねえ、ゴバニアン、ちょっと何か切って見せてよ!」
「だ、駄目だよ!見せるだけって言ったじゃんか!」
「うるせーな、ちょっとだけだよ!」
そう言って、ゴバニアンと呼ばれた牛頭鬼の少年は剣を木に向ける。
さすがにまずいんじゃないかと思ったウイングは、わざと草むらを掻き分けて音を出すようにしながら、三人の前に立った。
「それはどうかと思うですよ、さすがに……」
「なんだよ、てめえ!」
ゴバニアンが睨んでくる。
「ちょっと気になって話を聞かせてもらってたですが、そっちの子は嫌がってるですよ?」
「いいんだよ!プリンドロンは俺たちの子分なんだから!
関係ないやつが口出しするなよ!」
虫人の少年が触覚を動かして言ってくる。
「そうはいかないですよ。
僕はその剣を買おうと思ってるですから、変な傷とかつけられたら困るです」
「はんっ!うそつけ!
この剣は凄い高いんだぞ!
子供が買える訳ないだろ!」
「嘘じゃないです」
「じゃあ、証明して見せろよ!」
ゴバニアンが吠える。
「いくらですか?」
ウイングがプリンドロンと呼ばれた巨人族の少年に聞く。
「九十ジン……」
申し訳なさそうにプリンドロンが答える。
「えっ、そんな高いのっ?」
驚いたのは虫人の少年だ。
「傷つけたら、弁償ですよ?」
ウイングがゴバニアンに向けて言う。
「う、うるせーな!
そんなに高い剣なら、少し試し斬りしたくらいで傷がつく訳ねえだろ!」
「下手くそがやったら、どんなに高い剣でも傷がついたりしますよ?」
「てめえ!オレが下手くそだとでも言いてえのかっ!」
「僕よりは確実に下手ですよ」
ウイングはここだと思い、おもいきり上から目線で挑発する。
「てめえ……オレをバカにしてんのか!?
そこまで言うなら覚悟はできてるんだろうな?」
「覚悟なんて、子供相手にいらないです」
「おい、シメオーヌ、持ってろ!」
ゴバニアンがシメオーヌと呼んだ虫人の少年に長剣をしまって渡す。
それから、自分の腰に吊した幅広剣に手を掛ける。
さすがに、弁償はできないと思ったのだろう。
「名前、聞いておいてやるよ」
「ウイングです。
そっちは?」
「ゴバニアンだ!」
言うと同時に抜き打ち気味に斬りつけてくるのを、ウイングは冷静に見てかわす。
素早く後ろにステップして、距離を取ってから、小剣クランクランチを抜くのではなく、姉へのお土産からガチ辛根性焼きをひとつ取り出す。
「ば、爆弾!?」
シメオーヌが焦ったように声を上げる。
「失礼な。ただの姉の好物ですよ。
せっかくなので、味見させてあげるですよ」
ウイングはニヤリと笑う。
「きっと、毒だよ!
ゴバニアン、気をつけて!」
「はんっ、毒だと分かっているものをわざわざ喰らうかっ!」
ゴバニアンは怒涛の連続攻撃を放つ。
子供といっても、すでに大人ほどの背丈があるゴバニアンは腕のリーチもウイングの倍くらいはある。
しかも、肉体戦に優秀な働きを見せる牛頭鬼は、全身筋肉の塊のようなものだ。
繰り出される斬撃は鋭く早く、突進力も大人顔負けなほどだ。
ウイングは右へ左へと、幅広剣を紙一重で避けていく。
ゴバニアンの剣技は荒削りだが、ちゃんと型になっている。
だが、ウイングにしてみれば、蠅が止まる動きというやつだ。
翼が生えると同時に発現したウイングの邪眼、その力は神経加速の力だ。
魔王族の邪眼はいくつかの種類がある。
敵を視線で殺すものや見たものを固めてしまうもの、他にも全てを見抜く目や他人を操る目など、様々なものがある。
そして、たまたまウイングが開眼したのは神経加速の邪眼だったのだ。
だから、ゴバニアンの動きは非常にゆっくりに見える。
そして、邪眼を発動している間は自分の動きも早くなるのだ。
ゴバニアンの剣を見て、身体をずらす。それを繰り返す。
そうして、ゴバニアンが疲れるのを待っていると、次第にゴバニアンの顎が上がってくる。
ウイングは、ゴバニアンの腹部に軽く蹴りを入れる。
魔王族の全力の蹴りは岩をも砕くので、あくまでセーブした力の蹴りだ。
それでもゴバニアンの頭を下げさせ、空気を求めて喘ぐように口を開かせるには充分な威力だ。
しかし、それでも幅広剣を落とさなかったゴバニアンの根性は誉めてやるべきところだろう。
だが、それも開かれた口にウイングが黒いミートボールを突っ込むまでのことだ。
「うっ……マカラアァァッ!!!」
ゴバニアンは意味不明な言葉を発して口元を抑えると、天を仰いで剣を取り落とし、そのまま白眼を剥いて気絶した。
「ふっ……旨味にやられて噛み締めるとは、愚かなり!なのです」
ウイングは半眼になり無情を儚むように首を振った。
「やっぱり、毒じゃないか!
ど、毒を使うなんて卑怯だぞ!」
シメオーヌが叫ぶ。
「毒じゃないです。
なんなら、試してみるです……」
ウイングはガチ辛根性焼きをもうひとつ取り出して、それをふたつに割って見せる。
まだ温かいそれは、うまそうな香気を湯気と共に立ちのぼらせる。
マジマジと見つめるシメオーヌとプリンドロン。
ウイングは割った片方を自分の口へ。
「う〜っ!やっぱりあんまり美味ひいと思えないれす……」
もぐもぐと咀嚼して飲み込んで、口の中が空っぽになったことを見せてから、シメオーヌに片割れを渡す。
シメオーヌはじっくり眺めて、触覚で匂いを嗅いで、我慢しきれなくなったのか、パクリと口に放る。
「旨っ!辛あぁぁっ!」
ひっくり返って身悶えするシメオーヌをウイングの悪魔のひと言が誘う。
「思いきって噛んだら、肉汁が溢れて多少はマイルドになるですよ……」
目から涙を流しながら、ジッとウイングを窺うシメオーヌ。
ウイングは屈託のない笑顔を浮かべる。
もぐ……。
シメオーヌは愉悦に浸る表情を、刹那の間に浮かべてから、白眼を剥いてゴバニアンと同じ場所へと旅立った。
「あの……」
「うん?君も欲しいですか?
残念ですが、オススメしないです。
でも、チョイ辛根性焼きくらいなら子供でも食べられる味になってるですよ」
「いや、そうじゃなくて!」
巨人族の少年プリンドロンがシメオーヌが落とした長剣を大事そうに抱えて、頭を下げる。
「助けてくれて、ありがとう……」
「ああ、別にいいです。
ちょっと、いじめっ子にはお仕置きが必要というか、父にお仕置きするための予行演習みたいなものというか……」
「えっ?」
「ああ、こっちの話なので気にしないでいいです。
それよりも、良ければその剣を見せて欲しいです」
「あ、でも……」
「さっきは遠目だったから、ちゃんと見たいです。
今がダメなら、お店教えて欲しいです」
「え……ううん、いいよ」
プリンドロンは決心したのかウイングに剣を渡す。
「いいですか?
無理しなくていいですよ?」
「うん、お父さんがね、親切にしてもらったらちゃんと仁義を通しなさいって!」
「いいお父さんなのです。
じゃあ、遠慮なく……」
ウイングは長剣を受け取って眺める。
黄色い大地のマナたちが、早く誰か糧をくれないかな?という感じで剣の周囲を舞っている。
それを見ただけで、この剣がいかに良い剣なのかが分かる。
マナたちはこの剣の近くにいれば、誰かが魔法力を注ぐだろうと思っているのだ。
おそらく魔法力の通りが良くなるような打ち方をしてあるのだろう。
よほどの技術がなければ、マナが周囲を舞うことはない。
「これ、買うです!」
「えっ?」
「これ、お店で買えるですか?」
「う、うん。
でも、九十ジンだよ!」
「大丈夫なのです!
この剣なら安いくらいなのです」
「ホントに!?」
「もちろんです!
さあ、お店に行くのです!」
ウイングはプリンドロンの腕を引いて歩き出す。
ウイングに引かれて歩きながら、プリンドロンがもじもじとしだす。
「どうしたですか?」
「うん、ゴバニアンとシメオーヌ、大丈夫かな?」
それを聞いてウイングはこの巨人族の少年が優しい心根をしているのだと感心する。
「心配しなくても大丈夫です。
あれは『ボッドルウィン酒場』というお店のちゃんとした食べ物なのです。
ただ、相当辛いものなので、刺激が強すぎただけです」
「そうなんだ……でも、君は普通に食べてたよね?」
「ウイングです。
君じゃなくて、ウイングと呼ぶです。
辛いものは体質的に強いのです」
「あ、うん、ウイングくん。
僕はプリンドロン」
「プリンでいいです?」
「うん。……なんか、友達みたい」
そう言ってプリンドロンは嬉しそうに笑った。
「えっ、もう友達なのです……」
ウイングは少し恥ずかしそうにして顔を背けて呟いた。それから、思いきって顔を向けて宣言する。
「いいです?」
「い、いいの?」
「「もちろん(です)」」
二人は同時に答えた。
お互いに顔を見合わせて、笑ってしまう。
照れたような、嬉しい笑いだ。
こうして、二人は友達になったのだった。




