僕の名前はジャックなのです
「では、参りましょうか、我が主様」
サアラに促されて、ウイングは木窓を持ち上げて外の戦場を見る。
まだ、結晶鷲は何とか城壁の外側で食い止めているらしい。
あちこちから魔法の炎弾や空気の固まり、岩砲弾、矢などが飛んで結晶鷲を撃ち落としていく。
だが、城門の守りは手薄になっているようで、巨人や鬼といった大柄な兵士が門を抑えているが、体当たりでも食らっているのか、時折、門が大きく傾いでいる。
城壁の手前にはワルトメルガと呼ばれていた魔王族らしき者、他数名が長々と呪文を唱えている。
戦術規模の魔法を使おうとしているのだろう。
「早く行かなくちゃ!」
ウイングは呟いてドアから出ていこうとする。
横目に自分の本来の身体が壁に凭れるように座っているのが見える。
「大丈夫だよね?」
呟くとサアラが答える。
「あまり長い時間ではない方がよろしいかと思います……」
「うん……」
魂のない肉体というのは、やはり正常な状態じゃないのだろうと思い、少し不安になるが、そうも言っていられない。早く終わらせようとウイングは決意して、部屋を出た。
人目に付かないように要塞の中を移動していく。
迷宮のような魔王城に比べれば、それほど内部は複雑ではないが、それはあくまで魔王城と比べればの話だ。
敵の侵入を想定しているのか、それなりに入り組んだ構造をしている。
下に降りれば外に出られるだろうと、適当な階段を下る。
「うおっ!人間!?」
人目を避けて移動していたが、要塞の兵士に見つかって槍を向けられてしまう。
「違います!えっと……魂なき人間だ!」
とっさに嘘をついて誤魔化す。
なんだか口調も安定しないし、ウイングの思念が明確でない、いわば無意識の行動を取ろうとすると、ジーンの補助も役に立たないのかギクシャクした動きになってしまうのだ。
その為、キヲツケの姿勢になるのが超高速キヲツケになってしまい、多少驚かれる。
「なんだ?魔王城のやつか?
「そ、そうだ……」
「どこへ向かっている?」
「外に行きたいんだが……」
「ああ、迷ったのか……。
ひとつ上の階に戻って、階段の右隅に赤茶けたブロックが使われたところを降りて行けば、外に出られる。
間違えるなよ、右隅だからな」
ウイングは礼を言って踵を返した。
階段を上ったところで辺りに人気がないのを確かめてから、アースに声を掛ける。
「アース、ごめんよ。
この姿だと人間に近すぎるみたい……。
もう少し、何とかならないかな?」
土人形を動かすことに専念していたアースが現れて、うなだれる。
すると、サアラがその隣に現れて、フォローを始める。
「我が主様。今から土人形を作り直すには手間が掛かります。
私が鎧化して、表面の形状を変えるというのは、如何で御座いましょう?」
「それって、どういう……?」
「例えば、こういうことで御座います」
サアラが身体をマグマのような流体に変じさせて、ウイングの入る土人形の腕にまとわりつく。
すると、オレンジに発光する手甲が現れる。
不思議と熱くなかった。
それから、手甲の一部がまた流体化して、そこから伸びたマグマが円盾になって固定される。
「これって……好きな形になるの?」
「お望みの形があれば、それに合わせられます。
ただ、元の形状は土人形ですので、それに則した形状だけですが……」
「じゃあ……」
ウイングはあれこれと注文を出す。
身体をすっぽり覆う黒いマントは表面温度を下げると黒くなるらしい。動く度に中のマグマが血管のように蠢く。
オレンジの手甲とブーツはツルリとした形状で、手袋と長靴と呼んだ方がいいかもしれない。
なにより特徴的なのは頭をすっぽり覆う兜で、巨大なカボチャをくり抜いて作った顔がついていた。
ウイングの前世ではジャック・オー・ランタンと呼ばれていたハロウィンの怪物。
「これで大鎌でも持ったら、完璧な仮装なんだけどね」
「こういう感じでしょうか?」
サアラが流体の一部を切り離して、大鎌を作る。
さすがに刃の部分はオレンジのマグマだったが、それが逆に恐ろしげな雰囲気を醸し出している。
「わあ、サアラありがとう!」
「いえ、そんな、勿体無きお言葉……」
ウイングはこれで自分だとバレることはないだろうと確信する。
先ほどの兵士の忠告に従って階段を進み、要塞の出口を見つける。
「「「……マナに願い奉る!
竜炎熱波!(ブレス・ヒート・ストリーム)」」」
ワルトメルガを中心に、要塞前の空間に陣取った一団が呪文を唱和する。
城壁の上に出現した巨大な魔法陣から、空気を揺らめかせる見えない熱波が放たれ、それは放射状に結晶鷲を巻き込んで、爆発四散させていく。
ウイングは息を呑んで、電子レンジに入れた生卵みたいに破裂する結晶鷲を見た。
今の一撃で城壁に迫って来ていた結晶鷲の半数以上は落ちただろう。
だが、ワルトメルガの一団はかなり疲弊しているのが見てとれる。
何人かは血を吐いて倒れている。
ウイングは経験したことがないが、魂の器から糧を使いすぎると、命が削れるらしい。
おそらくは大規模な戦術魔法の連発に耐えきれず、命をギリギリまで削った結果なのだろうと、思われた。
それを見たウイングは、いよいよ時間がないと思い、駆け出した。
ウイングの思念を聞き取った風の精霊ジーンが、土人形を操る大地の精霊アースへと、その思念を送る。
アースは思念に導かれるように、土人形の速度を上げていく。
滑るような動きで、ワルトメルガの一団の横を抜け、城壁に迫る、ジャック・オー・ランタン。
閃光のように自分たちの横をオレンジの物体がすり抜け、思わず目を奪われるワルトメルガたち。
城壁に据え付けられた階段に、オレンジの閃光が、ポンと跳び、そのまま、ポンポンと十ミョーン(十メートル)上の城壁に立つ。
「なんだ、あれは!?」
自分の目で見た物が理解できないのか、ワルトメルガが呟く。
風に靡く黒マント、オレンジ色の丸い頭、手にした不気味な大鎌。
「なっ……何者……っ」
ワルトメルガの誰何の声は最後まで続かなかった。
オレンジ頭が大鎌を城壁の外に向けると、自分たちが数十人掛かりで作ったものと同じ規模の魔法陣が次々と浮かぶ。
城壁に沿うように五つの魔法陣が浮かんだ。
ワルトメルガの一団が魔法を撃つ射線を確保するため、兵士を退かせた城壁の一角で、ウイングは驚いていた。
ワルトメルガたちの魔法は一撃で数百羽の結晶鷲を撃ち落としていたが、結晶鷲の数は大して減っていないのだ。
数万羽はいるであろう結晶鷲の大群からすれば、焼け石に水程度の打撃でしかない。
しかも、今、迫っているのは結晶鷲の斥候部隊三千羽程度でしかない。
「これ、全部……」
見える範囲、ほぼ全てが結晶鷲で埋め尽くされていると言っても過言ではない。
「我が主様、空中にいる生物でしたら、多少の糧を融通していただければ、先ほどの魔法で殲滅可能で御座いますが?」
「ち、父は?」
「悪戯の宝石なら、右手下方で御座います。
空中にいる生物だけを殲滅することは充分に可能です」
「地上に被害は?」
「我が主様のお命じのままに……」
「とりあえず、空中の魔物は全部倒そう!」
ウイングが言って空中を大鎌で指し示す。
「はい、畏まりまして御座います」
サアラが返事と同時に魔法陣を展開する。
その数、五つ。
魔法陣から放たれるのは、戦闘級魔法『火弾』を一万発、生み出す戦術級魔法『火弾万撃』だ。
五万発の火弾が、間断なく正確に敵を撃ち抜く。
その火弾はウイングの火のマナへの高い親和性を得て、三十グミョーン(三十キロメートル)まで届く。
高い親和性は、少ない糧での発動や威力の強化、射程の伸長などの恩恵をもたらす。
ウイングの糧を使った戦術級魔法は戦略級魔法と同等の射程を持っていた。
空を見上げた魔王は茫然としていた。
「戦略級魔法……?」
魔王へと迫り来る氷剣鹿の剣状の角を、横にいたゴブリンが手にした小剣で身体ごとぶつかるように止める。
「魔王様!」
「お?おお、すまんなイトメ」
魔王は手にした長剣を一振りして氷剣鹿の太い首を斬り落とす。
それから城壁を見上げて、先の魔法の使い手を見て、面白そうに笑う。
「なあ、あいつなんだろうな?
極北旅団にあんな面白いやつがいるなんて、ワルトメルガが隠してたのかな?」
「ま、魔王様っ!」
話し掛けられたゴブリンの声に多少非難めいたところがあるのも仕方のないことだろう。
魔王とそれに付き従う魔王城の兵士たち数人は、突出しすぎて本隊から分断され、窮地に立たされているのだ。
魔物たちも意図して動いているのではないだろうが、本隊に弾き返された一群が、魔王たちへと向かっていて、包囲が完成しようとしていた。
城壁の上にいる面白いやつこと、ジャック・オー・ランタンは下を眺める。
「あ、父がいた!」
ジャック・オー・ランタンは魔王が魔物たちに囲まれているのを見つけた。
「ち、父っ!」
しきりに大鎌を持つのと反対の手で、魔物が少ない方向へと誘導しようとするが、魔王はこちらが手を振ってアピールしているとでも思っているのか、手を振り返してから親指を立ててサムズアップを決めてくる。
周りのゴブリンたちが必死に魔物を食い止めている姿が痛々しい。
ジャック・オー・ランタンが辺りを見回して降りられる場所を探すが、外に降りる階段などある訳がない。
「ど、どうしよう……大きい魔法だと味方も巻き込んじゃう!」
すると、ジーンが声を掛けてくる。
「あるじ、飛ばそうかー?」
「え?飛べるの?」
「だって、アースにあるじの思念を伝えるだけだから、あたし暇だしー。
感覚器官の羽根とかないから、細かい動きは無理だけど、おおざっぱに飛ばすくらいならできるよー」
ウイングは土人形を動かし、五感を得るために、大地の精霊アースと光の精霊ラッシュが使えないと聞いていたので、思念伝達の補助に回っているジーンも使えないと思い込んでいたのだ。
「ジーン、お願い!」
ジャック・オー・ランタンは言うが早いか、城壁から跳んだ。
「あ、ちょっ……」
十ミョーン(十メートル)の距離は落ちるなら一瞬だ。
十五メートル程の距離を前世で落ちた記憶がフラッシュバックする。
土人形は呼吸する必要もないのに息を詰める。あるはずのない心臓を冷たい手が鷲掴みにしたような感覚が襲う。
まるでスローモーションのようにゆっくりと大地が近付く。
雑草の葉の筋すら数えられそうだ。
一本、二本、三本……あれ?と思った時には、急激に地面が遠ざかる。
「あるじ、いきなり跳ばないで下さいよー。
ああ、びっくりしたー……」
ジャック・オー・ランタンは城壁の高さまで浮き上がる。
ご、ごめん……。と声を出そうとするが、出ない。
どうやら、ジーンが飛ばしてくれている間は喋れないようだとジャック・オー・ランタンは理解する。
上空から父の位置を確認してそちらに向かおうと意識すると、身体が勝手にそちらに向かって、飛んだ。
魔王を飛び越えて、ゴブリン兵が抑えている魔物の群に向かう。
「すげーな、お前!」
と言う魔王の声を無視して、地面に降りた瞬間、ゴブリン兵の横を抜けようと突進する氷剣鹿を大鎌で横薙ぎにして一撃で落とす。
レンバート先生から一通りの武器の扱いは習っていたが、大鎌は初めてなので、薙刀のように扱ったが、どうやら上手くいったらしい。
と、思って次の敵を探すとゴブリン兵の目が釘付けになっていた。
おや?何故だろうとゴブリン兵の目線の先に目をやる。
振りきった鎌が反対を向いていた。
「おまえ、武器のポール、どうやって斬った……?」
ゴブリン兵の一人が戦慄を覚えた顔で聞いてくる。
鎌とは本来、内向きに付いた刃をひっかけて、引き切るものだ。
それを薙刀のように薙いでも、良くて先端が突き刺さる、悪くすれば刃の重さの分、動きを阻害された上、ポールが当たってダメージにならない。
だが、刃を水平に振れなかったため、風の抵抗を受けて、握りの甘さから刃が回りポールが敵に当たってしまった。
しかし、敵は斬れた。
説明のしようがない。
「そりゃ精霊武器か?」
魔王が何事もないかのように、適当に剣を振るうと、氷剣鹿の強靱な氷剣角ごと敵を斬り裂いて歩いてくる。
「精霊武器って、何?……ですか?」
糸目をしたゴブリン兵が魔王へと聞き返す。
「年経た精霊が、自分の認めた相手のために、我が身を器物へと変じさせ、相手に尽くす。
其を精霊武器と呼ぶなり……だったかな?
ようは精霊武器ってのは精霊そのものが武器になった、ものすげー武器だよ。
……違うか?」
魔王がジャック・オー・ランタンに向けて聞く。
ほぼ、ゴブリンと会話するのと同じトーンだったので、ジャック・オー・ランタンは、その言葉が自分に向けられていると最初は分からなかった。
「ヤバい!分かんないって答えたら変だよね?」
ウイングの思念を受けて、ジーンがジャック・オー・ランタンの声で発話する。
「あわわわわ……ジー……じゃなくて、これは声にしなくていいから!」
慌てて口を抑えるジャック・オー・ランタン。
かなり、コミカルな動きになっている。
だが、場を支配するのはかなりシュールな空気だ。
ゴブリン兵も魔王も、不思議な物を見る目で、オレンジ頭を見つめている。
そこに他方から雪狼の群が突っ込んでくる。
それを見た、ジャック・オー・ランタンは一足飛びにそちらに向かい、滅茶苦茶に大鎌を振り回す。
雪狼たちは、青白い体毛を逆立てて一斉に飛びかかってくる。
爪に氷がまとわりついて、三倍もの大きさになる。
だが、大鎌のどこでも、触れた箇所から雪狼は焼き切れる。
回り込んで後ろから噛みついた雪狼は、マントに触れた場所から発火、悲鳴のような声をあげて落ちると、ブスブスと煙を上げて動かなくなった。
「ふははははっ!
なんだか裏がありそうだが、やっぱりあいつ、面白いな!
ナガオヤユビ、イトメ!
隙間ぁ作ってやるから、魔法剣で他のやつの援護!
あいつについてくぞ!」
言われた二匹のゴブリンは、迫る敵を無視して呪文を唱え始める。
魔王の命令に逆らえないというよりも全幅の信頼をおいているからこそ、敵の真っ只中で無防備になる。
「精霊様、精霊様、いつか精霊になる精霊様。
おではイトメ・キャッスルガード・カマリ城。
その偉大なる炎の力をおでの剣にお貸し下さい。
おでは魔を統べる者と妖魔に連なる者の加護があります。
生命の石の糧を差し上げますので、どうかお力添えを願います。
炎熱の剣!」
「マナよ、おでの元に集まれ!
おでの声が聞こえるなら、集まれマナよ!
ナガオヤユビ・キャッスルガード・カマリ城が命令する。
風を集めて剣に力を与えよ。
おでの魔法になって、力を貸せ。
おでは魔を統べる者と妖魔に連なる者の加護を得た者。
暴力の雫石の魔法力を得て、ここに現れよ。
強風の剣!」
イトメとナガオヤユビが呪文を唱える間、魔王が二人を完璧にフォローする。
竜の被膜の翼を開いた魔王は高速で移動しながら周囲の魔物たちを次々と葬り去っていく。
他のゴブリン兵も果敢に戦っているが、多勢に無勢、次第に追い詰められていく。
魔王はそれを見ると、手に大地のマナを集める。
「貫け、石弾!
ストーンブレット!」
マナが生み出した石弾がゴブリン兵に襲い掛かろうとした魔物の腹を貫く。
「お前らこっちだ!」
魔王がゴブリン兵たちを誘導する。
ゴブリン兵たちが魔王の後ろに集まる。
魔王は手頃な大きさの岩を見つけると、それに狙いを定める。
「砕けて飛び散れ!
ロックバースト!」
一ミョーン(一メートル)程の岩が爆裂して破片を周囲にバラまく。
直撃を食らった魔物は見るも無惨な肉塊へと変貌し、それを見た魔物たちは危険を感じ取ったのか、じりじりと間を空けて後退していく。
「「魔王様!」」
イトメとナガオヤユビの魔法が完成したらしい。
魔王はゴブリン兵たちに「ついて来い!」と声を掛けて、オレンジ頭を追い始めた。
少し離れた場所で雪狼と戦うジャック・オー・ランタンは、ボソボソと何か呟いている。
「……だから、思ってること全部、声にしちゃったらダメだったら」
「あるじ、ごめんねー。
いまいち思念の差が分からないからさー」
あまり反省しているように聞こえないのは、やはりジーンが反省していないからだろう。
「次からは声を出す時は、出すって伝えてくれたら、声にしますねー」
そっか、オンオフできるんだね!と思ったことは声にならず、思念だけでジーンに伝わった。
ようやく、先ほどの失態から立ち直って、父の方を覗き見る。
父はゴブリンたちを引き連れて、自分を追ってくる。
にこやかに手を振っている。
と、突然魔物たちが津波のように氷樹森林から湧き出してくる。
目は血走り、まるで周りが見えていないようだ。
本来なら氷樹森林から出ることのない小動物系の魔物たちまでもが、湧き出していた。
魔法剣を使う二匹のゴブリンが、他のゴブリン兵を守るように前面に立ち、奮戦を始める。
赤く赤熱した剣が切れ味を増したのか、敵を一刀両断にすれば、風を纏った剣は振るう速度を倍にもするらしく、尋常ではない手数で圧倒する。
魔王が石弾を次々に放ち、城壁からは援護の矢が休みなく放たれる。
ジャック・オー・ランタンはこの状況にパニックを起こして、魔法を使うことも忘れて、がむしゃらに大鎌を振り回す。
端から見れば、勇戦に見えるかも知れないが、ジャック・オー・ランタンは魔物の無秩序な暴走に、完全に冷静さを忘れている。
正面から突進してくる氷熊を斜め下から切り裂いた時、切り裂かれた肉塊が慣性に従ってジャック・オー・ランタンにぶつかる。
肉塊はジャック・オー・ランタンを吹き飛ばすには充分以上の重さを持っている。
肉塊に押し潰されるように倒れ込むと、氷剣鹿が口から泡を噴きながら走ってくる。
その蹄がジャック・オー・ランタンを蹂躙しようと迫る。
避けられない!と肉塊の下でもがいた瞬間、石弾が飛来して氷剣鹿を横向きに撃ち抜き、その巨体がジャック・オー・ランタンの隣に倒れる。
「大丈夫か!?」
じわじわと焼ける肉塊から身体を抜いて、片手を上げて、大丈夫だと伝える。
父に助けられたことでいかに自分が冷静さを欠いていたか自覚する。
初めての実戦でも大丈夫だと思っていた。
だが、死にもの狂いで向かってくる魔物たちを目にした時、恐怖で何も考えられなくなってしまったのだ。
身体だけは訓練のおかげで動いたが、冷静さを欠いた動きだったのがようやく理解できた。
サアラ!火弾!と思念で伝える。
大鎌を横に振ると、掌くらいの大きさの魔法陣が次々に生まれる。
そこから一斉に火弾が飛び出す。
魔物たちは火弾に焼かれて、一体、また一体と倒れていく。
だが、氷樹森林から湧き出す魔物たちは何かに追い立てられるように、足を止めることなく向かってくる。
「くそっ!キリがねえ!」
苛立ち混じりに魔物を斬りつける魔王が叫ぶ。
その時、大地が鳴動する。
氷樹森林の奥地、巨大な凍る湖の厚い氷を下から突き崩して立ちのぼる幾本もの黒い柱。
樹齢千年の巨木を十本も束ねたような太さを誇るソレは、世界を震わせるような絶叫と共に現れた。




