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3.誰が其れ【転】落ちる。








頑張ろう!と意気込んだものの…上手くいかない。なんでだろう。


ウィルフレッドを誘ってムードを作るというのはハードルが高くて…でも頑張ったんだけどまさか本当に拒否られるとはおもってなかったからショックだった。


一回目は恥ずかしながら身体を磨かれて寝所に先に潜り込んだのに、目が合った瞬間に無言で出て行かれた。これは無断で寝所に侵入したことを翌日に抗議文が送られてきた。

二回目は訪問の先触れを出してからそれこそきわどいセクシーランジェリー姿で待っていたのに扉をあけたウィルフレッドは隙間から目も合わさずに私の存在を確認すると扉を閉めてしまった。


…明確な拒否って、こんなに恥ずかしくて辛いのか。

下着姿で馬鹿みたいに意気込んだまま放置される虚しさは、自分の存在そのものを否定されてるようで、三度目を乗り越える勇気はもうもてない。


ならばと、王妃様に謝罪して執務に参加させてもらえるようになった。

三度目の恥がこわかったのもあるけれど、先にこうすればよかったとおもった。だって私には前世の知識があるから絶対に役に立つとおもっていたから。…でも。


でも。そうじゃなかった。

アニメで見ていた世界に前世の私が大きな違和感を感じなかったように、この国もこの世界も街並みや雰囲気こそ中世っぽい雰囲気だけど上下水道をはじめとしたインフラやなんやかんや成熟した社会をすでに形成していて他に詳しい知識のない私なんかは手出しのしようがなかった。

なんだったら前世の子供の頃おじいちゃん家で勝手に時代劇ドラマを見せられたときみたいな時代錯誤感がないことに今更気が付いた。

むしろ前世で目指していたSDGsみたいな社会理念を既に確立していて通信機器やら電気も魔法でどうにかなっている。インターネットはないけど魔道具があるし、魔石を原動力に家電も在しているのだ。庶民でさえも使ってる。

苦し紛れに慈善事業や福祉事業に言及しても、その管轄は教会が行っていて連携しているとけんもほろろ。

所詮は前世が一般庶民の人間には、行政は詳しい知識もあるはずもなく手も足も出なかった。


学問に関しても、魔術という専門分野は別にしても恐らくだけどファラリアンナの記憶と自分の記憶を照らし合わせても前世の義務教育の範囲は貴族の子は12歳までに学び終えていてそれ以上の知識がある。特に教養は詩や音楽、芸術は嗜むものであり舞踏会があるからダンスも踊れなければいけないし、礼儀作法なんかも高いレベルを叩きこまれている。

……前世が大卒だからって、意味が無かった。所詮は庶民。

OL時代はもっぱらデスクワークが主で、インターネットもパソコンもワープロも無いからどうしようもないし、じゃぁそれを作れるかといえば出来るはずもなく。


食べ物だってこれまで貴族令嬢として生きていてマヨネーズをはじめとした醤油も味噌も何でもかんでもあるから違和感も不満も無く漠然と生きてこれたのかもしれない。和食も極東の国の料理、だってさ。だから前世で見ていた他のアニメやゲームの主人公チートは私には無い。


…じゃぁ、私に出来る事って、なんなんだろう?

頑張ろう!って気持ちはあるけど、…頑張りかたが解らない。…わからないの、ほんとうに。


どうしたらいいんだろう。

毎日毎日朝早くから王妃様の執務室の前で並んで立ち、やって来た王妃様に頭を下げてから作業部屋で陳情書の仕分けをするだけ。

当然だがそんな仕事内容では秘書官なんてものは監視役で部屋の隅に居るだけで話をするわけでもない。



(…はぁ、じゃぁ、三回目四回目のお誘いをすればいいんでしょ!)


メラリと意地の灯が燃えた。

女の純潔を捧げればこの意味のない屈辱から解放されるはず。

そうすれば元悪役令嬢のヒロインという立場に戻れるでしょ。…ね?だよね。


でもどうせ拒否られるのは判っているんだからそこまでやらなくていいと言っても念入りに身体を磨いて最高級の香油も使って全身キラキラピカピカにして恥ずかしい下着姿になってドキドキしながら待っていた。


案の定、拒否された。というか…


「は?…なんで?」


嘘でしょ。なんで。

ドアの隙間から一瞥くれるどころか会いにも来なかった。

三度は断られるのは分かっていた。だがそれにしてもひどい扱いだと思うのはいけないことだろうか?

私はただ露出の多い下着姿で朝まで部屋で立ちっぱなしで、意味もなく恥をかいただけ。


私は三回ちゃんとウィルフレッドの寝所に行った。それなのに…っ!


王子妃になっておきながら白い結婚になってしまった私が悪かったのは認める。抗議文が送られたあれから住まいも移されて王子宮から王子妃宮に一人暮らしなのは、本来夫婦と言えどそういうもんだって知ってたから従ったけど…だから来てもらわないとどうにもならないんだよ!

悔しくて悔しくて泣いた。

恥を忍んだ乙女の覚悟を蔑ろにされるなんて。もう絶対に許さない。


ウィルフレッドが王太子になる為には私の手助けもなくちゃいけないっていうのに、というか子供を先に作らなきゃ王太子になれないのに…もう、知らない。




何もかもがバカらしくなってすべてやめてみた。

だって頑ななウィルフレッドは私に歩み寄ろうともしないんだもん、私も同じ音をするだけよ。


毎朝いちばんに王妃様の執務室の前に並んで挨拶して割り振られる仕事をするのももうしなくていいんだ。ってか、もう頼まれたってやるもんか。

だいたい本物のファラリアンナが努力して身につけたものだってあんな仕事じゃなにも役に立つわけがない。

山のような陳情書の仕分け、それを見習の文官に混じって王子妃がやる意味とは?



「あーラクチン!」


だって王妃様ってば初任の印象が悪かったせいで初対面の時みたいな親しみ皆無だし。

…なんで私が、私だけが頑張らなくちゃいけないのよ。

(こうなること、先に言ってくれなかったウィルフレッドが悪いじゃんっ)


執務からも解放されて悠々自適に日々お楽しむことにしちゃお。







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