2.元悪役令嬢のヒロインは諦めない。
「なんで公務に私は連れていってもらえなかったんだろ…?」
そんなの既に予定が埋められていたからだとは分かっちゃいるが、腑に落ちない。
だってフツーさ、王子の妻も同行するものじゃないの?だって妻だよ。新婚なのに。
メイドが淹れたお茶を飲みつつ愚痴をこぼしたら、今の私よりも年上の女性は咳ばらいをしつつ頬を染めて「新妻は遠出をするものではありませんから、きっとご配慮なされましたのでしょう。」とのことで。
え?どゆこと??
新婚新妻は家から出ないって…あっ!あー…はいはい。えっと、つまり初めてアレした後は身体が辛いとか、そういう……ピンクな配慮ね?
(いやでもヤッてないんだけど…)
主に、私の失態のせいで。
でもそっか…そうだよね。よく考えたら…元気よく歩き回るなんて、新妻らしくないかも。うんうん、そうだね。
心のどこかでホッとした。
私に呆れて王子がソッポを向いたんじゃないことと、今更だけど王子妃として振る舞うことへの緊張から解放された気分だったから。
(夫が帰ってくるまでは束の間の安息を楽しもう。)
王子妃としてやるべきことは沢山あるだろう。でも、彼が帰ってこないことには何もわからない。
だって私は右も左もわからないこの国で、頼れるのは彼だけなんだもの。
そういう心持で居たのがいけなかったんだろうか。
半月経ってやっと帰ってきたウィルフレッドは無表情に笑顔をのせた顔をしていた。
「お、かえり…なさ…い…ウィルフレッド…」
温かく迎えようとしていた空気が氷点下まで下がる。
「ただいま、ファラリアンナ。ところで少し君と話をしたいのだけど、いいかな?」
「え、えぇ…」
共に生活をしている王子宮の応接室に通され、メイドがお茶の用意をしたらウィルフレッドは他者をみな下がらせた。
「……いただきます。」
そう言ってからカップを手に取った私と違いウィルフレッドは無言のままお茶に口を付けた。
「はァ………」
深いため息だ。それが長旅での疲れなのかやっと帰れたことに対する感嘆なのかは判断が付かないのでビクリと緊張してしまう。
ニコリと微笑むその顔も、無表情に笑顔を張り付けたままだから、怖い。
「ひとつ、聞いてもいいかな?」
「な、なに…?」
「君は、今の今まで、何をして過ごしていたのだろう。」
「え?」
なんか、予想外の質問に呆ける。
なにしてたのって、そりゃ…………………何もしてなかったですけど。だってそういうものなんでしょ?
「えー…っと、特には、何も?」
報告するような事柄もないし、ただ大人しく過ごしていたことを言えばまたため息を吐かれた。
「母上が、随分とご立腹だ。」
「………へぇ?そうなんですか。」
なんか知らんケド王妃様が怒ってるらしい。しかしそれが私と何の関係があるのだろう?
って顔だったのか、ウィルフレッドは頬を引き攣らせた。
「…ファラリアンナ、君は確か王妃教育はすべて完了しているし履修もしているんだったよね?」
「あ、はいそうですケド…それがなにか?」
まぁソレを全てやったのは本物のファラリアンナなんだけど。
前世の記憶が戻った私自身という感覚の中では、学園に通う三年間の間は王宮に呼び出された時や社交でちょっとはやっただけ。…それだって元のファラリアンナの記憶があったからやれたこと。
あとは同級生のヒロイン義妹や元婚約者の王太子とできるだけ関わりたくなかったから、避けて避けて逃げ回っていた不毛の青春だったとおもう。
「それなら、なぜ、王族の義務を果たさないのかを聞きたい。」
「えーっと、どういうこと?」
意味が解らない。王族の義務ってあれでしょ?国や国民のために働くってことよね。ちゃんと働く気、ありますけど。でも何にも言われないうちからどう働けってのよ?勝手に好き勝手していいの?だめでしょ?だから帰って来るまで大人しくしてたのに。…なんで怒ってるわけ??解せない。
オタク得意のノンブレス一気に捲し立て、したいけど。そんな雰囲気じゃないからやんない。ってか、そんなことしたら余計に拗れるからって我慢してるんですけど。
(まぁ、でも一旦落ち着こう。私は前世で成人した社会人だったわけだし、大人の余裕をもって落ち着いて話をしようじゃないの。)
「義務は当然知っています。ちゃんとやる気もあります。だけどなんの指示もないままに動くのはウィルフレッドを困らせるかもとおもったので帰ってから相談して決めようと考えていました。だってそうでしょう?この国を将来的に導いていくのは貴方なんだから私が失敗したら足枷になってしまうし…」
伏し目がちに言い募れば、フェリクスは「ごめん。」と謝ってくれた。
「…………………ちょっと、君が何を言っているのか、…解からないんだけど。」
「んん?………いえ、ですからウィルフレッドの将来に傷がつかないように…」
「そもそも私は第二王子で王太子は第一王子である兄上だから将来国を導いていくのは兄上とその婚約者である義姉上なのだけど?」
「は?…え??いや、でも…シナリオでは………っていうか、先に結婚した方が王位継承権って上になるんじゃなっかったっけ!?」
ファラリアンナの知識でも、そうだったはず。
っていうか、アニメではそうだったもん。間違いなんて…そんなことない。ね?そうだよね?そうだって言ってよ。
「王位継承権に関してはそうだけど、必ずしも絶対というわけではない。というか兄上たちに子が出来なくとも側室との間に出来ればいいし兄弟間から直系の養子をとる方法だってある。…そもそも、君はその王族としての第一の義務である後継を成すことを先に拒否しておいてどういうつもりで言ってるんだ?」
「き、拒否なんて…して、……」
ない。…とは言い切れない。
三日三晩も失敗しておいて、はなんだかんだと理由を付けてあれこれ言い訳したのは私自身で…アレを拒否と取られても仕方がない。
「ちが、ちがうの…!あの、だって初めてで…怖くて…」
「そんなの誰でも当たり前だろう。むしろ経験があったら婚姻なんてするわけがない。特に高位貴族や王族皇族は確実に実子を求めるからね。」
言外に婚姻前の元婚約者とのことも言及されていると気が付いて、赤くなったらいいのか肝を冷やすべきなのかわけがわからなくなる。
「いや…あの…でも……そういうことは夫に任せろとしか教わっていなくて…」
「そもそも任されてももらえなかったけれどね。」
「………うぐっ」
痛いところを突かれて反論が出来ない。
「初夜は泥酔、二日目は明け方まであれこれ拒否して三日目は早々に寝るなんてされて…法に則った白い婚姻を実行したのはファラリアンナの方だろう?」
二の句が継げない。
フェリクスが正しいから。この国に限らずこの世界の知っている国の殆どの法で定められている「白い婚姻」の条件は初夜から三日間もしくは三年以上性交を持たないことと決められている。
前者は明確な拒否であり後者は夫婦としての継続に務めなかった罪だったはず。刑罰はないもののこの証明が出来れば離婚は成立する。
だけど素の私はこの知識はあったけど、正直「セックスレスが罪になるとか意味分かんない。」だったので気にも留めていなかった。だってさ、そーじゃん。おじいちゃんおばあちゃんになってもヤルわけ?そんなの無理じゃん。って。
だけど直面して自分の問題になると頭が働く。
この法律って…すごくセンシティブだから簡単じゃないよね。訴えるのも訴えられるのも。…ってか証明とか無理だとおもうし。いつどこで誰とヤッたとか…どうやって証明するのよ。私がヤッたって言えば…
「もう言い訳を聞きたくないから先に。…証明ならもう出来ているし、このことは王も王妃も重鎮たちも周知している。そもそも王族の後継問題は国の一大事だから兄上よりも先に婚姻した私たちは注目されていて当然だ。ごまかしも効かないように魔法医師が毎朝体調管理に訪れて全身をくまなく診ていただろう?触れられずとも診ることが出来る医師の診断書もあるし私も初夜遂行証明の書類を書いていない。」
「っえ、は!?ちょっ!!…えぇぇ!?!?」
「まぎれもない処女の君は法廷尋問を受ける前に各方面の医師立ち合いの元でも純潔を証明できるから勝ち目はないよ。」
ニコリと張り付けた笑顔で言い放たれて、肝が冷えるどころか全身が凍った。…負け牌積んでる。詰んだ。
「とはいえ。…私だって一度は愛した女性を見限るほど冷酷にはなり切れない。だから、条件を付けて許すと約束するよ。」
今後、三度はどれだけ誘われてもファラリアンナとは閨を共にしないこと。
この三度は拒否することを以って四度目からは応じ白い婚姻を無効にする。
と、魔法書面で契約した。
「もしくは、それが羞恥心で難しいなら、…そうだな。母上に謝罪して国の為に実績を一つでも残してほしい。そうすれば離縁しなくてもいいはずだから。」
ハッとして顔をあげたら、フェリクスは淋しそうな顔をしていた。
あ、私って…なんてばかなんだろ。
見限られて捨てるなら簡単なのに、こんなに色々としてくれるのも、彼の愛情なのに…自分のことばかりで気が付くのが遅かったみたい。
「ううん、わたし…頑張るね。」
結局は自分が悪いらしいというのは、どれだけぼやかしてもジジツダカラ受け止めなければいけない。
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この世界に残留して王妃になる未来は不確定でも王子妃であることには変わりないから頑張ろうと思う。
…っていうか、わたし次第で決まるんだとおもったらフェリクスの為に頑張ろうとおもった。
(だってストーリーでは、ウィルフレッドは王太子になって将来は国王になるはずだったとおもうし。)
たしか…そう、だったはず。
結婚式をしてから、何年後かに小さい男の子がトテトテ走って転んじゃって泣いているのを大人の男になったウィルフレッドが抱き上げて、「将来この国を背負う王子がこんなことくらいで泣くんじゃない。」て言って、男の子がグッと涙をこらえて「うんっ」て返事をしたのを「よしよし、偉いぞ!」って笑顔でギューッとしてから高い高いして笑い合うシーンが、エンディングだったはずだもん。
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