国境越え
目が覚めると、馬車はガタガタと揺れながら走っていた‥‥‥。揺れが酷いことから、かなり急いでいると思われた。
意識を取り戻した時には、口はテープで塞がれ、両手と両足はロープで縛られていた。助けを呼ぼうにも、どうすることも出来ない。
(エリオット様‥‥‥)
助けてもらえる可能性があるとすれば、ブレスレットについている発信器で、位置を検知して見つけ出してもらう事ぐらいだったが‥‥‥。他国まで連れて行かれたら、見つけてもらうのは難しくなってしまうだろう。
「止まれ!!」
外から声がする。どうやら国境付近にある検問所みたいだ。馬車は先程までとは違い、ゆっくりと進んでいた。
おそらく、打ち身だらけになっているだろう身体を、馬車の側面に縋りながら起こすと、私は必死に上半身を捩じりながら、渾身の力を振り絞って馬車に体当りした。
「そこの馬車!! こちらへ!!」
どうやら検問所の検査員が、異変に気がついてくれたようだ。
「チッ、余計なことを‥‥‥」
次の瞬間、馬車は猛スピードで走り出した。私は再び鼻先に布を押し当てられ、また深い眠りに落ちてしまったのだった。
*****
目が覚めると、私はフカフカのベットの上に横たわっていた。相変わらず手と足はロープで縛られていたが、何故か身体の痛みはとれていた。
私が起きたことに気づいた男は、口を塞いでいたテープを外して話しかけてきた。
「おはよう。お目覚めはいかがかな? アイリス嬢。それとも、姫と呼んだ方が?」
私を拉致した男は着替えており、風呂に入って来たのかガウンを着て、髪の毛を拭きながらベッドの端に腰掛けていた。
部屋は豪華な上に、やたら広い部屋だった。そこかしこに高そうな調度品が飾られている。
「ふざけないで!! 私をカルム国へ返しなさい。さもなくば、戦争になるわよ。あなたは自分のしたことが分かっているの?」
「おおっ、こわっ。さすが戦争にまで出陣する妃はひと味違うね。ああ、まだ妃ではなかったか。未来のお妃様」
「あなたは‥‥‥。だれ?」