膠着状態
城に戻ってきた私達は、数日は平和な時間を過ごしていた。アーリヤ国には使者を出し、助けてくれた修道女の件についても礼状を送っていた。
私はというと‥‥‥。再び軟禁状態になっていた。
部屋を出るには、サラかオーベル様がついていることが必須条件となっていたし、部屋の周りには近衛騎士が30名体制で警備をしていた‥‥‥。その上、窓の外にも警備兵が控えている。
「サラ、ちょっとやり過ぎじゃない?」
テーブルの位置もドアのすぐ側に移され、狭くて寛げないことこの上ない。この位置が、すぐに助けを呼べる位置なんだろうけど。
「アイリス様、ご辛抱くださいませ。結婚すれば、エリオット様も少しは落ち着かれるでしょう」
オーベル様によれば、カルム国とトラスト国は、私が誘拐されたこともあって、国境付近が臨戦態勢になっているとの事だった‥‥‥。まさに、一触即発の状態らしい。
結婚式まで、あと20日ある。ずっとこの状態なのかと思うと気が滅入った。
「‥‥‥戦争は起こらないのよね?」
「なんとも言えませんが、まだ膠着状態が続いていると、オーベル様から聞いております」
「そう」
何だかんだ言って、警備のこともあり、最近はサラの話にオーベル様が出てくることが多い。サラは気が強いが、押しに弱いところがある。
「失礼します。第2部隊隊長のハンスです。アーリヤ国のリン王女からアイリス様へお手紙が届いております」
「どうぞ。お入りください」
ノック音が聞こえ、ドアから騎士隊隊長のハンスが入ってくる。少し小柄な茶髪の青年は、私達の前へ来ると、手紙をそっと差し出した。
お礼状とお礼品を送ったから、その礼状だろう‥‥‥。そう思い、サラから手紙を受け取ると近くにあるペーパーナイフで封を開けた。
「アイリス様? リン王女からの礼状でしょうか?」
私の様子が少しおかしかった事に気がついたのか、サラは手紙に何が書いてあるのか、気になったようだ。
「え、ええ。それもあるけど、リン王女は私を助けるように、『教会や修道院に掛け合ってない』って、言っているわ」
「え‥‥‥。それはどういう事なんでしょうか?」
「分からないけど、問題はその後よ。ファーゴ王子が誘拐されたんですって」
「ええ?!」
思いがけない私の言葉に、サラは驚きを隠せないようだった。