伝えたかった事
「あ、あのっ‥‥‥」
「なに?」
「すっかり忘れていたのですが、ジェイドは‥‥‥」
「あいつは、たまたま居合わせただけなのだろう? オーベルが回復薬を飲ませて、一緒に連れて来たよ」
「生きて‥‥‥。良かった」
あの状況で助からなかったとは思わなかったが、少し気になっていた。
「そんなに彼の事が気になる? 司教の息子だった男だよ?」
「えっと‥‥‥。彼は、私に何かを伝えようとして気絶してしまいました。その『何か』が気になるのです」
「その『何か』は、重要なの?」
「分かりません」
「アイリス? ファーゴ王子には、本当に何もされていないの?」
私が頷くと、エリオット様は私の髪を撫でていた手を止めた。
「どこにキスされたの?」
エリオット様の真剣な眼差しに、私は狼狽えつつも、自分の唇を指差した。
「んっ‥‥‥」
途端にエリオット様は、噛みつくようなキスをしてくる。
「‥‥‥エリオット様?」
唇を離すと、何度も何度も口づけをしてくるので、どうしたらいいのか困ってしまう。
「私は‥‥‥。私自身が、こんなに心の狭い人間だとは、思わなかったよ」
エリオット様は、私に抱きつくと震えていた‥‥‥。心配をかけてしまって、申し訳ない思いで、いっぱいだった。
エリオット様の背中を撫でていたが、しばらくすると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「アイリス様?」
サラの声が聞こえる。どうやら、買い物から帰ってきたようだ‥‥‥。私はエリオットから離れると、立ち上がった。
「サラ、起きてるわ」
サラはドアを開けて入ってくると、エリオット様がいるのに驚いたのか、一瞬立ち止まってしまう。
「‥‥‥お邪魔でしたか?」
後ろを振り返ってエリオット様を見上げたが、エリオット様は微笑んでおり、いつものエリオット様へ戻っていた。
「さて。こんな時間に戻ってきたということは、オーベルは振られてしまったのかな?」
「どうでしょう‥‥‥。お一人の方が、良かったみたいですよ」
エリオット様の言葉に、サラは半眼になりながら言っていた。
「手厳しいね」
「そんなことは‥‥‥」
サラが珍しく言い淀むと、エリオット様は私に「おやすみ」と言って、部屋から出ていったのだった。