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京都・白川町商店街の魔女   作者: 高瀬 八鳳


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第15話 履歴書を買う

 最後の修行のヒントがないかと、本屋さんに立ち寄った。ふと、入口の文具コーナーにおいてある履歴書に目が止まった。


 パソコンでつくるのもいいけれど、練習用にと、1セット購入した。


 家に帰ってとりあえず試しに書こうとするけれど、意外と書けない。


 翌日、商店街の井戸端会議の輪に入り、履歴書を書くポイントを聞いてみた。

 大人の方から、それらしいヒントをもらえると思っていたけれど、そうでもなかった。


 岩真さんは「大昔に書いたんやろけど、もぉ思い出せへんなあ。ごめん、わからんわ」と困った顔で答えてくれた。


「う〜ん。僕は履歴書とかと無縁な生き方がしたくて個人事業主やってるんで、アドバイスできへんわ。っていうか、このメンバーに聞いても参考にならへんよ」

 そう言って、ひいるさんはアハハハと笑った。


「人生はみんな人それぞれやし、ミサキちゃんは、ミサキちゃんの道をいったらいいんじゃない? 今の等身大のあなたで、履歴書を書いたらどうかしら」

 なつこさんは、私の目を見ながら、とても真剣にアドバイスをくれた。


「わしらの若い頃と今は、環境が全然違うしな。あんまり役に立つような事は言えんけど。とにかく、若いうちは何でも経験や。失敗してもええから、どんどん思うようにやってみたらええ」

 辻山さんは、頷きながら、力強く言葉をかけてくれた。


 みなさんの言葉が、ちゃんと私の事を考えてくれているって感じられて、心がウキウキと弾んだ。


 お店に到着して、師匠にその事を報告すると、とても喜んでくれた。


「よかったな、ミサキちゃん。私も嬉しいわ。弟子が、すっかり商店街の仲間になったみたいで」


「……私も、めちゃめちゃ嬉しいです。この商店街は本当に素晴らしい場所ですね。皆さん、とても親切だし」


「ん~~、そやけど、商店街を必要以上に神聖視せんといてね」


「神聖視……とは?」


「みんな、ええ人や。それは真実や思う。今のミサキちゃんには、全てプラスに働いてるけど、昔のミサキちゃんだったらどうやろ?」


「……確かに。もしかしたら、皆さんの親切が、少し重く感じたかもしれません。距離が近すぎるっていうか……」


「そやろ? ミサキちゃんは、私が初めて声をかけた時に、そのままスルーして店に入らへんかった可能性もあるやん?」


「ほんとですね。そしたら、弟子にもなってないですよね」


「同じ人との関係でも、タイミングもあるし、ええ所だけしか見てないと、裏がみえたらイヤになる場合もある。商店街や地域のコミュニティは必要不可欠で素晴らしいもの。でもそれは、『問題や軋轢がない』とイコールではないし、そもそも、完璧な場所なんて存在しない。そこは、忘れたらしんどなると思う」


 私は、昔の彼氏や家族や友達、まだ知らぬ次の職場の人間関係について想像した。

 そして、なるほど、タイミングって大切だと思った。


 師匠は、そんな私の表情をしばらく見てから、こう続けた。


「ここは、私も大好きな場所やけど、夢の国やない。そやけど、だからこそ面白いと思うねん。120パーセント正しい聖人君子なんて、退屈や思わへん? まあ、そんな人間いいひんけどね。人間はみんな、それぞれ違う常識を持ってる。商店街は画一化されてへん。だから色々と難しい課題にもぶつかるけど、そこが魅力にもなる。だって、店主はみんな、一国一城の主やし好き勝手できるやん? 個性が出せるって意味ね。そこがカオスで面白いし、私が商店街が好きな理由かな」


 今回も情報量が多過ぎる……。

 私は、必死で師匠の言葉を理解しようとする。


 商店街は夢の国じゃない。


 聖人君子は退屈。

 人はそれぞれ違う常識をもつ。

 店主は一国一城の主で、自由で、だから問題も起きるけど、そこが面白い。


 つまり、師匠はいろんなものが混ざってる商店街が面白いから好き、ってことよね。

 でも、なぜ、この場所なんだろうか?


「……あの、師匠は、どうしてこの白川町商店街を選んだんですか?」


「そこ、知りたい?」


「はい! 正直、とっても興味あります!」


「ふふふっ、長い話やし、それはまた今度ね」


「ぜひ! 楽しみにしてます」


「それより、最後の課題に協力してくれるお客さん、決まったえ」


「ど、どんな方ですか?」


「それは当日のお楽しみ。来週中に、三人にご予約いただいたので、その日時にミサキちゃんも来てください。ここに、日時書いてあるので、渡しとくね」


「ありがとうございます。あの、師匠、スマホもSNSも使ってませんよね。お客様とどうやって連絡とってるんですか?」


「一応、パソコンは持ってるのよ。さすがに、何にもなかったら商売できへんしね」


「そうなんですね。ちょっとホッとしました」


「心配してくれてたん? おおきに」


 出会った日に、電話持ってないからとりあえず店に来て、と言われて驚いた。人生で、そんな人と会った事なかったから。


 スマホなしで、どうやって生活しているのか気になってたけど、ひとつ謎が解けた。


「以前は持ってたけどね。ここでお店始めてから1年間、電話なし生活を継続中なの。意外と大丈夫」


「これからもずっと、持たないんですか?」


「決めてない。また、必要に思ったら持つかもしれんけど、今のところパソコンで問題なくやれてるしね」


「もし買われたら、すぐに連絡先教えてくださいね」


「わかった。その時が来たらね。はい、日にちと時間と、簡単なヒント書いてあるし。無くさんように、大事にもっててね」


「はい、ありがとうございます。」


 和紙でできたA4サイズの紙を受け取る。 

 そこには、日付と、謎の言葉が書かれていた。


「……意味がわかりません」


「冒険には、謎解きが必要でしょ?」


 師匠は、私の困惑ぶりを見て、悪戯が成功したこどもみたいに、楽しそうに笑った。


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