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フィオナ探偵団

 自宅に戻る。

 当然のようについてくるハーモニアとイスマ。


 ハーモニアは赤子の情報を仕入れているからいいとして、イスマはどのように今回のことを耳に入れたのだろうか。


 イスマのクラスは離れており、赤子の泣き声は届いていなかったはずであるが。

 そんな疑問もイスマはあっさり氷解してくれる。


「先生の隠し子の話は、ボクのクラスにも伝わっていますよ」


 と、優しい微笑みで教えてくれた。

 ハーモニアは言う。


「この手の噂話にうといイスマが知っているということは学年すべてに。いえ、明日には学院すべてに知れ渡るでしょうね」


 と、笑顔で補足する。

 なにがそんなに嬉しいのだろうか、聞いてみる。


「だって、先生に隠し子がいると学院に広まれば、先生の競争率が下がります。先生はこの学院の人気者なんですよ。生徒はもちろん、女性教師からも大人気です」


「ならば既婚女性教師をリストアップしてくれないかね。できれば最近出産した女性が望ましい」


「あるじ様は相変わらず人妻好きですね。それに経産婦が好きとはマニアックです」

「違うわ。すでに子供がいるならばその教師にこの子の面倒を任せたいだけだよ。人間の乳も手に入るし、一石二鳥だろう」


「本当ですか? あるじ様は人妻を見ると目を輝かせるような気がします」


 ジト目で見てくるクロエ。


「古くは昔、お世話になったオットー伯爵夫人にも色目を使っていたような気がします」


「え? 先生は人妻好きなのですか?」


 ハーモニアは尋ねてくる。


「包容力のある女性が好きだけどね。別に人妻に限定しないよ」


 そう言うとハーモニアはほっと胸をなで下ろす。


「――良かった。先生と結婚するには一度、他人の妻になるというステップを踏まないといけないのかと思いました」


「どんだけマニアックなんだよ。俺は」


「超マニアックです」


 と、メイドは笑ってくるが、無視をするとこう伝える。


「人妻に限らず、今のところ結婚する予定はないよ」


 ハーモニアはほっとしたような、落胆したような表情を浮かべるが、それ以上、人妻の話題を広げなかった。こういうところは空気が読めるので好感が持てる少女である。


「さて、まあ、どのみち、しばらくこの子を預かることになったんだ。問題なのはこの子の親を早く探してやらないと」


「この子の親ですか?」


 ハーモニアは問う。


「今朝方、俺にこの子を押しつけて消え去った女だ」


「そんないきさつがあったんですね」


「そんないきさつがあったんだよ。その後、悪漢どもに襲われてそいつらの相手をしてたら遅刻をしたってわけさ」


 と言うと、俺はクロエに視線をやる。


「で、クロエに頼んでいた悪漢どもの処理はどうなった?」


「護民官に突き出しました。その後、護民官の隊長さんから詳細をうかがいましたが、男たちからは大した情報は得られなそうです」


「口が堅いのか?」


「いえ、男たちのリーダーはともかく、その部下たちはべらべらしゃべってくれましたが、大した情報は持っていないのです」


 悪漢どもいわく、自分たちは金で雇われただけ、事情は聞かされていない、とのこと。


 常套句であり、実際、悪漢たちには大した情報は渡されていないようだった。


 ただ、金で依頼を受け、女と赤子をさらうように命令を受けただけのゴロツキであった。


「ならばリーダーの口を割らせるしかないか」


「それは無理でしょうね」


 と、クロエは淡々と言う。


「どうしてだ?」


「リーダーと思わしき男は死にました。独房で自害したようです。そういう呪いがかけられていたのか、あるいは暗殺者でも送り込まれたのか。もしくは死ななければならない理由があったのか」


「死ななければならない理由、ですか?」


 ハーモニアは尋ねてくる。

 俺は答える。


「雇い主が心底恐ろしい人物で、口を割ったら家族にも被害がおよぶ。あるいは死よりも恐ろしい目に遭わされる、とかかな」


「そんなところでしょうね」


 と、クロエも同意する。


「ならば悪漢どもから情報を得るのは諦めた方がいいかな」


「そうですね」


「となると、しらみつぶしに情報を当たるしかないのか。面倒だな」


「その女の人はもう公都にいないという可能性はないんですか?」


「それはないだろうな」


「どうしてですか?」


「あの女はしばらく預かってください、と言った。ならばしばらくしたら赤子をとりにくるはずだ。そう遠くには行っていないだろう」


「なるほど、道理です」


 ハーモニアがそううなずくと、フィオナが言葉を続ける。


「じゃあ、わたしたちがその女の人を探すのを手伝うよ」


「…………」


 沈黙してしまう俺。


 まず最初に出てきた言葉が、


「これは遊びじゃないんだぞ」


 という、なんの個性もない説教であった。おそらく、人類が誕生してから何億回も使われたありきたりな言葉であろう。


「分かっているよ。だからこそ手伝いたいんだよ」

 

フィオナはそこで言葉を句切ると、真剣な表情を作る。


「これはこの子の未来がかかっているの。だからわたしたちも本気でやるよ」


 そう言うと娘たち三人は互いに見つめ合い、「うん」とうなずき合う。

 三人の心は一心、決意はすでに固まっているようだ。


 当然、ここは、


「危険だからだめだ」


 と、注意すべきなのだろうが、彼女たちはこんな論法で俺を説得してくる。


「カイト先生、危険だというのならばそれは先日のボクの頼みごとも一緒です。フィオナも、ハーモニアも、危険を顧みずにボクを助けてくれました。今度はボクがフィオナを。いえ、この子を助ける番だと思います」


 イスマはそう主張する。

 ハーモニアも続く。


「そうですよ。私たちは何度も危険な目に遭ってきましたが、そのたびに先生が助けてくれたじゃないですか。今度は私たちが協力する番です。大丈夫、もしも危険な目にあってもまた先生が助けてくれますから」


「最初から俺頼りか」


「それくらい先生を信頼しているんです」


 フィオナが締めくくる。


「私はお父さんの娘だよ。困っている子供がいたら助けるの。これはお父さんの『遺伝』だから、お父さんは諦めるしかないの」


 そんな台詞を吐かれてしまえば、彼女たちの協力をむげに断ることはできなかった。


 渋々了承すると、彼女たちにひとつだけ約束させた。


「もしも危険な目に遭いそうだと思ったら即座に逃げ出すこと。それとこの子の親探しは放課後、授業が終わってから行うこと」


 学業に支障をきたすようならば少女探偵団は即座に解散だ、と付け加えた。



「うん、分かった」

「はい、分かりました」

「了承しました」



 三人の少女たちはそれぞれにうなずくが、最後にクロエはこう締めくくった。


「あるじ様が学業に支障だなんて言葉を使うのは釈迦に説法のような気もしますが」

クロエはくすりと口元を抑える。


 俺も釣られて笑う。


「たしかにその通りだ。学年の成績上位者3人を掴まえて発する言葉ではなかったな」


 それを聞いた少女たちはころころと笑った。 


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