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娘たちのお泊まり会

 こうして結成された少女探偵団。


 彼女たちはまずは赤子の名前を突き止めることによって、彼の身元を特定しようとした。


 まずはフィオナが赤子に尋ねる。


「いないないばー! 赤ちゃん、おねーちゃんにお名前を教えてくれる?」


 と、あやしながら尋ねるが、無論、彼はなにも答えない。

 いや、おぎゃあ、とは泣くが、それ以上の情報は発しなかった。


「うーん、残念、ここまで親密度が上がったら教えてくれると思ったのに」


「この子は乳幼児だぞ、言葉など話すわけがない」


 とは言わない。

 フィオナの横で一生懸命に《精神読解》の呪文を詠唱している少女がいたからだ。

 ハーモニアは一生懸命に魔法を唱え、赤子の精神を探っていた。


 言葉は発することはできなくても、その脳裏に浮かんだ名前を読み取ることはできる。


 この子の母親か父親が、普段、この子をなんと呼んでいたか、読み取ることくらいはできるかもしれない。


 そう思ったのだろう。

 発想は悪くなかった。

 さすがは我が娘とその友人たちだ。なかなかに賢い。


「でも、全然だめね。私の魔法じゃ、お腹減ったー、とか、眠いー、とかいう単語しか読み取れないわ」


「ボクもだよ。特に有意義な単語は読み取れなかった」


 イスマもため息を漏らす。 


「せめてこの子の名前さえ分かれば捜索の手がかりになるのに」


 彼女たちは口々に漏らすが、そんな彼女たちに手を差し伸べることにした。

 俺は、赤子の名前を読み上げる。



「この子の名前はリッテンだな」



 その名前を聞いた三人の少女は不思議そうに俺の顔を見上げる。


「どうしてお父さんは名前が分かるの? ハーモニアやイスマでも無理だったのに」


「それは無粋じゃない? カイト先生は最高の魔術師よ。私たちに読み取れないものも読み取れてしまうのよ。きっと」


「残念、それは買いかぶりすぎだ」


 そう言うと、リッテンが着ていた産着をフィオナに差し出す。

 襟元には小さく「可愛い我が子、リッテン」と刺繍がされていた。


「身元調査の基本は遺留品から、だよ。魔法に頼りすぎるのはよくないな」


「さすがカイト先生です。観察眼が飛び抜けています」


「ちなみにその産着は、公都のとある百貨店で取り扱っているものだ」


「そんなことまで分かるの?」


 フィオナは驚いている。


「特徴的だからな。それは公都の魔術師ギルドが組合員に配布している贈答品だな」


「贈答品?」


「組合員が出産したら、お祝いに配る産着だ」


「なるほど、つまり、この子の親は公都の魔術師ギルドに所属する魔術師ということですね」


「おそらくな」


「なら話は簡単じゃないかな。カリーニン学院長に紹介して貰って、リッテンという子供がいる魔術師の一家をしらみつぶしに問い合わせればこの子の親は見つかるんじゃ」


 イスマはそう言うが、俺は首を横に振る。


「一応、尋ねてはみるが、過度な期待は禁物かな」


「どうして?」


 娘は尋ねてくる。


「魔術師ギルドの名簿には組合員本人しか記載されていない。家族の情報は非公開情報だ」


「そうなんだ」


「それと仮に公開されていたとしても、ここ一年で、何人の所属魔術師とその家族が出産したことやら。この公都の魔術師は推定数千、出産適齢期の年齢の家族を抱える魔術師を探すだけでも気が遠くなる。それにそれらすべてを問いただすのは時間が掛かりすぎる」


「この公都にはそんなに魔術師がいるんだね」


 と、驚くフィオナ。


「伊達に魔術の公国を自称したりしていないってことだな。ほとんどが第1階級の平凡な魔術師だとしても、この国を征服するには骨が折れそうだ」


「実際、千年以上独立を保っていますしね」


「そういうことだ。ま、落胆するようなことじゃない」


 せっかくの手がかりが無駄になったと気落ちしている娘を慰める。


「これで公都数百万の人物から、公都数千の魔術師に候補が絞れたんだ。この子の親もすぐに見つかるだろう」


「でも、すぐに見つかると、この子もすぐに返さないと駄目だね」


 と、フィオナは赤子を抱きしめる。  

 やはりフィオナには母性本能のようなものが芽生えてしまったようだ。

 せっかくできた弟候補がいなくなることを悲しんでいる。


「この子も実の親がいる。子供は実の親のもとで暮らすのが一番だよ」


 メイドのクロエも諭すように言う。


「その通りですよ。フィオナ様もあるじ様と一緒に暮らしたいですよね? この子もきっと、実のお父さんとお母さんと一緒に暮らしたいはずです」


 クロエがそう言うと、フィオナは意を決したかのように表情を固めると、


「うん、そうだね。きっと、この子も早くお母さんに会いたがっているはずなの」


 と、言った。


 そんな結論に達すると、フィオナはこんな提案をしてくる。


「じゃあ、これから放課後、わたしたちは頑張ってこの子のお父さんとお母さんを探すから、お父さん、それまでハーモニアとイスマをうちに泊めてもいい?」


 どういう理屈かといえば。近いうち、親元に帰ってしまうこの子と少しでも長く触れ合うため、同じ屋根の下で寝泊まりしたい、とのことであった。


 俺はハーモニアとイスマを見つめる。


 イスマの方はフィオナと同じ気持ちを持っているようだが、ハーモニアの方は下心がありありに見えた。


 無論、それでも娘の頼みは断る気はないが。


 俺はイスマの家には使い魔を、ハーモニアの住まう寮には舎監に直接《念話》を送ると、許可を取った。


 イスマの家は諸手を挙げて外泊を許可してくれたが、ハーモニアの寮の舎監は明らかに厭な顔をした。


 それでもハーモニアだけ仲間はずれにするのは可愛そうなのでなんとか許可を取る。


 許可を取り付けたことを娘に伝えると、娘は満面の笑みで抱きついてきた。

「お父さん、ありがとう!」


 と――。


 あるいはこの笑顔を見るためだけに、俺は後日、ハーモニアの寮の舎監に小言に耐えたのかもしれない。


 舎監は先ほどの念話でこんな台詞を口にした。


「カイト先生は良識ある大人ですから、心配しませんが、この学院には生徒に手を出し、学院を追放される教師が、年に数人はいますからね」


 無論、杞憂であり、絶対に起こりえない事象である。


 ただし、万が一、ということもあるので、その日、自分の寝室の扉に幾重もの《施錠》の魔法を掛けた。我が師でも解けないほどの強力な魔法を掛けた。


 こうして娘とその友人たちのお泊まり会は始まった。 

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