六話 再会
六話目です。ちょっと長いので不自然かもしれませんが区切らせていただいております。
衛生所は兵舎の近くにあるためもう一度来た道を戻らねばならなかった。
戦闘に集中していたため被害を受けていた港を見ていなかったので二人は港が良く見える展望台に寄り道をした。被害はどれ程だったのか衛生所に行く前に確認したかったからだ。
二人が見たのは濛々と上がった煙により真っ暗になった呉市街だった。よく見ると陸のほうも海の方も黒煙が上がっていた。
陸のほうは軍需工場から、海のほうは敵の急降下爆撃によってからか軍艦から黒煙がたっている。
世界最強と歌われていた日本海軍の猛者が攻撃を受けて何も出来ないまま鎮座しており、それは皮肉にも戦艦から航空機への主戦力の交代劇の幕開けだった。
軍艦群は炎上していたり、破壊はされていたが沈没の恐れは無い様に見えた。
あっけにとられていた二人を現実に戻したのは戦闘機の飛行音だった。翼には日の丸があり、巷で莫大な人気をおこし日本人なら誰もが知っている戦闘機だった。無論二人も知っていた。
-零戦ーもはや日本海軍名物の一つといってもいい航空機だ。中国戦線ではソ連から支給されていた戦闘機より断然良好な航空性能をみせていた。「日本海軍は空でも海でも敵ではない」零戦の登場と共に掲げられた海軍の自慢だが残念ながら「海」は今日壊滅に陥っている。ー話を戻そうー
零戦の編隊の中には陸軍の「隼戦闘機」もあった。緊急故に合同の編成が行われ広島と松山の防空基地からようやく到着したのだった。
彼らがもう少し早く到着していれば・・・神野は押さえ切れない怒りを搭乗員達にぶつけていた。彼らも決して遊んでいたわけではない。それは神野も分かっていた。だが自分の無力さゆえに、何もできなかったがために怒りを搭乗員にぶつけていただけだった。
「神野・・・行くぞ」
渡部の声に意識を取り戻した。並びに俺は何を考えているんだと冷静になった。
「ああ」
出した声は言い切れない悲嘆の気持ちも含まれていた。
衛生所には人が押し寄せていた。その中には見知った者もいたが皆重傷兵が多いようであった。
渡部は神野を背負ったまま木造の衛生所に入っていった。一階の受付で受付をし、軍属の人に案内されて二階の外科へと向かった。
診察人数が多いようで待合室で待てとのことだった。その待合室もほぼ満員だった。
渡部は入ったムッと立ちこめた血のにおいを嗅いだ瞬間吐き気がした。
彼は昔「軍医は戦いもしないで上から指示をするから気に食わない」と同期の衛生兵に愚痴をこぼしていた。そしてその衛生兵に言われたことを思い出していた「軍医も戦場にいる」と。彼ら衛生兵の処置や軍医の技術でその兵士の死ぬか生きるかが左右されるのだ、彼らも戦っている。しいていうなればそれもまた「戦場」だった。
彼は押し入るように待合室に入り、空いていた窓側に神野を下ろした。
「神野大丈夫か?診察までに時間がかかりそうや・・・何か欲しいもんあるか?」
「ああ、水・・・すまんが水を1杯頼む」
神野は先ほどから戦闘の緊張のせいからか喉が渇いていた。
「水!水やな!まっとれ!」
渡部は言うが速いかすぐに待合室を飛び出して行った。
渡部と入れ違いに入ってきたのは負傷兵ではなく、軍医だった。
その軍医は他の負傷兵を診察していた。なかなか腕がいいのか最後列自分の診察になるまで時間はあまりかからなかった。
「階級、氏名は?」
右手で聴診器を弄びながら軍医は腰を下ろして神野に聞いてきた。
「神野幸市一等水兵であります。」
神野は体がだるかったため俯きながら答えた。当然軍医の顔は見えない。
軍医は右手の聴診器を弄ぶのをやめて真剣な口調で言ってきた。
「兄貴か・・・?」
目の前にいた軍医の顔はまぎれもなく神野の弟、神野圭一だった。
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今日は警報で学校が休校になりほぼ1日小説をよんでいました。
晴耕雨読とは、まさにこのことを指すのですね!
次回もお楽しみに!