二十六話 交渉の譲歩
「全面平和とはどういうことですか!」
高級士官は我を忘れて立ち上がり全権大使へと歩み寄った。
その一連の行動を見、全権大使はばつが悪い顔をし言葉をゆっくりと吐き出した。
「日本政府から正式な発表だ、国民へは追って沙汰が来る。今は...座れ。」
先ほどのおどおどした口調ではなく凄みのある口調で高級士官は閉口した。
彼が座ったのを確認した後未だに立ったままの蒋介石へ侘びを入れ、再び会談を再開した。
「先ほど仰ったとおり我々日本政府は全面和平をあなた方に申し入れたい。期間は本日より、我々日本軍は満州国境まで後退しこれ以上の中国への進出はないとお約束いたします。」
全権大使はゆっくりと腰をおった。額へ流れてくる汗が目の前の机にポタリと落ち彼の緊張はさらに高まる。このまま時だけが過ぎてしまうのではなかろうかと彼は思った。
『我々に対する見返りは、何だ。よもや貴様らは進軍を止め後方へ下がり攻撃をせぬ、これだけでは無かろうな』
戦争の休戦、停戦には共通の事項が生まれる。それは受理国に最低限有利な事項が盛り込まれるということだ。例を挙げるとするならば日本へのハル・ノート、ポツダム宣言への「国体護持」などが挙げられるだろう。よっぽどの窮地で無い限りこれらを一国の最後の足掻きとでも言おうか、受理国、申請国はスレスレの範囲で交渉を続ける。
ある人は「戦争は最終の外交である」と言った、あながち間違いではない。
全権大使は出されていた水を少し含み今まで乾ききっていた喉を潤し、燕尾服を少し正した。
オホンッと一つ咳払いをし、
「もちろんでございますが・・・まずはお願いがあります。」
『ほう、願いか。今までに屈辱的な行為を我が母国で働き国際法も守らずさらには宣戦布告も無し、数多の同胞達を殺し、強姦し、辱め、奪い、焼き尽くし・・・そんな非人道的な貴様らが和平を申し込むのにまだ願いを言うか。その願いが多く質が高ければ高いほど交渉とは決裂しやすい、そのことぐらいは全権大使の貴様なら容易に知っているであろう。』
蒋介石はその不満を態度で表すかのように頬杖をついた。
「もちろん知っております。不肖ながらこのような道を歩いて幾星霜、だてに術を持て余しているわけではございません。」
「まずは、我々日本軍は毛沢東と手を切りあなた方を援助させていただきたい。」
いつも読んでいただきありがとうございます。交渉編は後一話で終わらせそろそろ戦火の火蓋を切らねば・・・と考えています。ペースが他の方々より遅く誠に申し訳ございません。




