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エピローグ

 婚約は破棄されなかった。

 春の東庭。

 薔薇が満開だった。赤い薔薇、白い薔薇、そして薄桃色の薔薇。


 セシリアはベンチに腰掛けて刺繍枠を膝に置いていた。だが今日、針は動いていない。


「何を縫っている」


 隣に腰掛けたレオンハルトが問うた。


「まだ分からないの。図案を決めているところ」


「決めていないのに縫っているのか」


「ええ。何になるか、楽しみにしているの」


 セシリアは針を置き空を見上げた。春の空は青く、どこまでも続いていた。


「ねえ、レオンハルト」


「何だ」


「私は笑っているかしら」


「笑っている」


「そう。よかった」


 彼女は隣の男に目を落とした。金色の瞳が春の光に溶けている。


「あなたは?」


「僕も、笑っている」


 薔薇の香りが風に乗った。


 二人の籠は、開け放たれた。


 だが二人は籠の中にいた。自らの意思で籠を選んだ。


 自由とは、出ることではなく、選ぶことだ。


 春の風が、その選択を祝福するように吹いた。


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