6/6
エピローグ
婚約は破棄されなかった。
春の東庭。
薔薇が満開だった。赤い薔薇、白い薔薇、そして薄桃色の薔薇。
セシリアはベンチに腰掛けて刺繍枠を膝に置いていた。だが今日、針は動いていない。
「何を縫っている」
隣に腰掛けたレオンハルトが問うた。
「まだ分からないの。図案を決めているところ」
「決めていないのに縫っているのか」
「ええ。何になるか、楽しみにしているの」
セシリアは針を置き空を見上げた。春の空は青く、どこまでも続いていた。
「ねえ、レオンハルト」
「何だ」
「私は笑っているかしら」
「笑っている」
「そう。よかった」
彼女は隣の男に目を落とした。金色の瞳が春の光に溶けている。
「あなたは?」
「僕も、笑っている」
薔薇の香りが風に乗った。
二人の籠は、開け放たれた。
だが二人は籠の中にいた。自らの意思で籠を選んだ。
自由とは、出ることではなく、選ぶことだ。
春の風が、その選択を祝福するように吹いた。




