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プロローグ

春の陽射しが王室の回廊を白く染めている。


 第三王子レオンハルト・フォン・クラインフェルトは執務室の窓枠に片肘をつき、深く息を吐いた。


「今日こそ言わねば」


 低く呟いた声は春の蕾のように硬い。


 彼の目前には今週分の政務書類が整然と積まれている。しかしその白い紙の山よりも、彼の心を占めるのは一つの誓約だった。


 侯爵家の長女、セシリア・フォン・ローゼンベルク。


 十歳の春。王室の慣例に従い定められた婚約者。それから八年、彼女は完璧な皇太子妃候補として振る舞い続けた。


 銀がかった金の髪、薔薇色の唇、そして何よりもその振る舞いの欠片も隙もない美しさ。


 誰が見てもうらやむべき婚約だった。


 だがレオンハルトは知っている。


 彼女が笑ったことは、たったの一度もないことを。



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