表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界一早い男  作者: ルーツ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

第二話

 あの日から数週間。


 俺は理解した。


 ──新宿駅は、競技場である。


 平日朝。


 スタート地点は改札。


 ゴールは歩く歩道の先。


 ルールはシンプル。


 ぶつかったら負け。止まっても負け。


 そして俺には、明確な目標があった。


(あの黒い影……絶対抜く)


 仕事?


 ……ああ、あれは副業だ。


 今の俺の本業は──


 通勤ランナー。


 この数週間、俺は徹底的に研究した。


 人の流れ。


 歩幅。


 加速タイミング。


 そして──“危険地帯”。


 新宿駅には、明確な“ゾーン”が存在する。


 ・横並び三人組ゾーン(難易度:S)

 ・歩きスマホゾーン(挙動:ランダム)

 ・観光客ゾーン(予測不能イベント多発)


 さらに最上位。


 ・ベビーカー(通称:移動要塞)


(あれは正面突破不可……回避一択だ)


 最初は何度もやられた。


 肩がぶつかり、舌打ちされ、時には怒鳴られた。


 一度、雨の日に滑って盛大にコケたこともある。


 駅のど真ん中で。


 大の大人が。


 スライディング気味に。


(……あれは忘れよう)


 だが、俺は諦めなかった。


 なぜなら──


(俺は世界一速い男になるからだ!!)


 帰宅後。


 スクワット、腕立て、腹筋。


 それぞれ十回を十セット。


 休みの日はランニング。


 信号? 無視はしない。だがタイミングは読む。


 完全に仕上がってきている。


 そして毎朝。


 俺は改札で待つ。


 ──黒い影を。


 人混みの中。


 あいつは必ず現れる。


 サッ、と。


 そして消える。


(今日こそ……捉える!)


 改札前。


 ざわざわとした空気。


 人の流れ。


 その中で俺は静かに構える。


 すると。


 ──来た。


(いた……!)


 黒い影。


 今日もブレないスピード。


 無駄のない動き。


 そしてなぜか手にはコンビニ袋。


(なんであの速度で買い物してんだよ)


 ツッコミどころは多い。


 だが今はそれどころじゃない。


 俺はSuicaを構える。


 タイミングを測る。


(今だ)


 ──ピッ!!


(スタート!!)


 地面を蹴る。


 初動は完璧。


 加速もいい。


(よし……いける!!)


 前方、最初の難関。


 横並び二人組。


(まだ甘いな……)


 右から回り込み、スムーズに突破。


 次。


 歩きスマホ。


(動きが読めない……だがパターンはある!)


 一瞬の揺れを見逃さず、左へフェイント、右抜け。


 完璧だ。


(見えてきた……流れが……!)


 その時。


 横を、風が抜けた。


 ──黒い影。


(速っ!?)


 一瞬で抜かれる。


 いや、違う。


 最初から“別次元”だ。


(くそ……! でも、距離は縮まってる!)


 以前より、確実に近い。


 俺は食らいつく。


 人の間を縫う。


 流れに乗る。


 無駄な動きを削る。


(いける……いけるぞ……!!)


 だが。


 交番手前。


 最も混雑するエリア。


 そこに差し掛かった瞬間──


 黒い影が、消えた。


(またかよ!!)


 完全に見失う。


 視界から消える。


 人混みに紛れる。


(なんなんだよあいつ……!!)


 立ち止まる。


 肩で息をする。


 悔しさが込み上げる。


 だが同時に。


(……楽しい)


 笑ってしまう。


 意味が分からない。


 通勤だぞ、これ。


 なのに。


 めちゃくちゃ楽しい。


 だから俺は、決めた。


 明日こそ。


 必ず。


「抜く」


 そのために。


 もっと速くなる。


 もっと読み切る。


 もっと極める。


 新宿駅を。


 完全攻略する。


(待ってろよ……黒い影)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ