第一話
今年、大学を卒業し、俺は田舎から東京へとやって来た。
──そして悟った。
東京は、人が多すぎる。
いや違う。
“密度がバグってる”。
本日からお世話になる会社へ初出勤。
本来なら社会人としての第一歩を踏み出す、記念すべき日だ。
だがそんな感傷は、駅に着いた瞬間に吹き飛んだ。
JR駒込駅ホーム。
そこに並ぶ人、人、人。
(これ……入れるのか?)
電車が来る。
開くドア。
見えるのは──
(詰まってるな)
そう、“満員”ではない。
**“完成されている”**のだ。
人というパーツが、隙間なく組み上げられた完成形。
そこへ俺は──
ダイブした。
(きっつ!!)
背中に誰かのカバン。
右肩に他人の肘。
左足は踏まれているのか、もはや感覚がない。
(これ毎日!? 正気か東京!!)
だが列車は無慈悲に発車する。
逃げ場なし。
リセット不可。
まさにリアルハードモード。
そして数駅後。
──次は新宿〜新宿。
(来た……! 地獄の本丸……!)
ドアが開く。
その瞬間。
人が、動いた。
いや、違う。
“流れた”。
完全に統制された群れのように、前へ前へと押し出される。
(これ逆らったら死ぬやつだ……)
俺は判断する。
──流れに乗れ。
身を任せろ。
考えるな。
感じろ。
結果。
俺は無事、ホームに押し出された。
(よし、生還……!)
そう思ったのも束の間。
目の前に広がっていたのは──
人。
人。
人……。
(第二ラウンド開始かよ)
階段へ向かう。
だがそこには既に“戦場”が広がっていた。
・前を見ない歩きスマホ
・急停止する初心者
・謎の急加速をするサラリーマン
(やばい……全部敵だ……)
肩がぶつかる。
カバンが当たる。
後ろから押される。
完全に障害物レースだ。
(落ち着け……ここはまだ序盤……)
柱へ避難し、呼吸を整える。
「はあ……都会って怖すぎるだろ……俺やっていけるのか……」
その時だった。
視界の端で、何かが動いた。
──黒い影。
速い。
異常なほどに速い。
人と人の隙間を、まるで最初からそこに道があったかのようにすり抜けていく。
(なんだあれ……)
一瞬で消えた。
いや、“見失った”。
(いやいやいや……今の何? バグ?)
思わず周囲を見渡す。
だが、もうどこにもいない。
ただ一つ確かなのは──
(あれ……めちゃくちゃカッコよかったな……)
その日から。
俺の中で何かが、始まった。




