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21話 宝探し~空也~

「ここが神獣の森かぁ~、エルフの森に似ているな。」

 第一印象を述べる空也。

 薄暗さと四方八方から感じる異質な空気は以前訪れた異世界の森によく似ていた。

「さてと、自分で転移する時は何ともないのだけど一応・・・ね。」

 節々を動かして体の不調がないか確認。

 問題がないので行動開始。

 周囲を探りながら道なき道を進む。

(まずは巫女姫がどこにいるかを探さないと。)

 空也の優先順位は宝玉<巫女姫。

 巫女姫が紅葉か否かがはっきりするならばこの戦遊戯は敗退してもいい、と考えていた。

 だからこそ神獣の姿を見つけても近づきもせず、すぐさま撤退。

 そんな空也の行動に危惧する者が一人。

―――これはマズいのかもしれない―――

 それは黒の束帯を纏った神官カムイ。

 暗闇に紛れ、空也の動向を観察していた。

―――宝玉に見向きなし。仕方ない、ならば策を。―――

 音なく立ち去るカムイの表情は勝利を確信した笑みが滲み零れていた。


「な、なんだろう、誰かに視られている感じがする。」

 いつからか分からないが、そんな気配がまとわりついていることに気付いた空也。

 歩いては立ち止まり辺りを見渡す、そんな行動を何度も繰り返していた。

(嫌な予感がする。)

 過去の経験則から警戒心を高める空也。

(警戒を怠らないように・・・。)

 四方八方に視線を巡らす空也。

 しかし周囲を意識し過ぎて足元を疎かにしていた。

むぎゅ!

 土とは全く異なる感触が足から伝わる。

「・・・・・・。」

 足元を見降ろすと地面に同化していた狛犬を踏みつけていた。

「グルッ!」

(あ、これ、完全に怒っている奴だ。)

 額に怒り筋がくっきりと浮かぶ狛犬。

 犬歯をむき出しにして唸る。

「ごめん、わざとじゃないんだ。」

 必死に許しを請う空也に対し、狛犬は天に向かって遠吠え。

 その大音量に本能で耳を抑える空也。

「がう!」

「ガウガウ!」

「ガルル!」

「ぎゅるるる!」

(しまった。今の遠吠えで仲間を呼ばれた!)

 周囲一帯に群がる千差万別の狛犬達に慌てて腕輪を時空剣へと換装。

「がるっ!」

 時空剣を構えるのと同時に頭を踏まれた狛犬が号令を下す。

 次々と襲い掛かる狛犬達の攻撃を躱し、そして時空剣で薙ぎ払う。

(くっ、ここから逃げたいけど出来ない。)

 隙を見てこの場から逃亡を図る空也。

 だが、数の暴力に物を言わせ絶え間なく突撃し続ける狛犬達には隙が無い。

 防衛一方となる。

 「しまった!うわあああ。」

 空也の足首に嚙みついた一体の狛犬。

 振り払おうと立ち止まった瞬間、一斉に飛びかかる狛犬達。

 腕や肩、脇腹など至る所を噛みつく&ひっかきの応酬。

 狛犬達の猛攻と総重量に耐えれず倒される。

「は、離れろ!あっちいけ!」

 脚や腕を激しく動かし圧し掛かる狛犬達を追い払おうとするが、次々と押し寄せて空也の動きを制限する。

「な、何をする気だ?」

 タイミングを見計らい、徐に姿を見せたのは一際大きい狛犬。

 口に咥えていた宝玉を吐き出し尻尾で強打。

 宝玉が空也の胸に当たった瞬間、吸い込まれる感覚が。

(これはマズい!)

 宝玉に囚われる、と直感で察した空也。

 魔眼の力を時空剣に宿し、宝玉の空間を切断。

「よくやった狛犬達よ。これで邪魔者はいなくなった。」

 斬り裂かれた空間の狭間に飛び込んだ時、第三者の声が聞こえたが誰かを確認する余裕は一切なかった。


「ぶはー!た、助かった。」

 飛び出た先は滝の麓。

 顔面から入水したので咽せる空也。

 深さも1mほどのため、大怪我することなく安堵したら。

「え?」

「あ!」

 目の前には巫女姫が。

 滝行で身を清めている最中だったのだろう。

 水を吸い込んだ白装束は肌にピタリと張り付いて透けている為、健康的な色と身体の凹凸がはっきりとわかる。

(な、な、な、な???)

 困惑と気まずさで混乱する空也。

 それは巫女姫も同じで硬直したまま。

 止まった時を動かしたのは尾が長いミミズク――雷鳥の甲高い鳴き声。

 巫女姫を守る為、空也に連続嘴突きを仕掛ける。

「い、痛い。ごめんなさい。」

 謝りながら巫女姫から視線を外すが、攻撃は止まない。

「ちょっとえるくん、落ち着いて。」

 巫女姫が間を取り持ってくれたことでようやく攻撃が止み、ほっと安堵。

 危機は一先ず去った――――のも束の間、

「巫女姫!どうかなされましたか?」

 草むらの向こう側から声とこちらに近づいてくる気配が。

「こちらへ。」

 慌てる空也の反面、巫女姫は冷静。

 空也を滝の奥へと押し込んで身を隠す。

 流れ落ちる滝の向こう側には人一人が隠れるほどの空間が存在していた。

「巫女姫様、大丈夫ですか?!」

(あの狛犬、俺を襲ってきた狛犬達によく似ている。)

 滝の向こう側の注意深く観察しようとしたが、巫女姫がそれを許さない。

 自分の背を空也に押し付け姿を隠す。

「何でもありませんよ、えるくんが誤って眼に水が入ってしまい騒いでいただけです。ね、えるくん。」

「くえ!?(コクコクコク。)」

 謂れのない事実に驚く雷鳥――えるくんであるが、巫女姫からの無言の圧に慌てて何度も頷く。

「そうだったのですか・・・。」

「騒いでしまってごめんなさい。」

「いえ、何事もなければよいのです。」

「あの、もう少し清めを行いたいので先に戻っていてほしいのですが・・・。」

「わかりました。お着替えはここに置いておきます。」

 狛犬は巫女姫の言葉に素直に従い、この場を後にする。

「・・・・・・・・、もう大丈夫ですよ。」

 完全に気配が消えた事を十分確認した上で空也を滝から引き上げる巫女姫。

「あ、ありがとうございます。」

「いえいえ・・・・・・・・、あの何でそっぽを向いていられるのですか?」

「いや、それは・・・・・・。」

 口の濁す空也。

 指差す方―――巫女姫が自分の身恰好に気付くのは数秒後だった。

「あっ、そういえばそうでしたね。」

 少し顔を赤らめるも立ち振る舞いは堂々としたまま。

「少し待ってくださいね。」

 水から上がり、その場で着替え始めたので空也は慌てて背を向ける。

(何でここで堂々と着替え始めるだよ!行動が紅葉と全く同じじゃないか!)

 服の脱ぐ音が想像力を滾らわる。

 そして先程まで触れていた巫女姫の体温と感触が蘇り――――――煩悩退散と滝の中へ再びダイブ。

「おまたせしました。・・・・・・・あの何をしているのですか?」

「いえ、気にしないでください。」

 滝行のおかげで静まり、冷静さを取り戻すことが出来た。

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