19話 第参種目の開催場所
「さてさてさて、次の種目は何かね、建御雷神。」
「楽しみじゃのう。」
重鎮達の期待が膨らむ中、建御雷神は席を立ち、重々しく答える。
「次の種目は宝探しだ。」
「「「「宝探し?」」」」
「そうだ、この宝玉を予め隠しておく。それを見つけ、時間内まで持ち続けた者が突破だ。」
「成程、奪い合いありか。これは面白そうじゃ。」
「罠とかあれば盛り上がりそうじゃな。」
重鎮達が各々盛り上げっている最中、徐に手を挙げたのは大黒天。
「一ついいか建御雷神よ。宝探しを行う場所は何処か決まっておるのか?」
「ケイドロで使った場所をそのまま使う予定だ。せっかく作ったのだからな。」
「そうか・・・・。」
「不満か?」
「いや、実はなその場所について提供してくれる者がいるのだが。」
別部屋にて控えていたある者をこの場に呼ぶ。
「重鎮方々様、本日は若輩者の私めに御時間と作って戴き、誠にありがとうございます。」
「カムイではないか。」
「神獣の森の神官が一体何用か?」
「今回、私めがこの場に来させて頂いたのは第参種目を行う場所の提供でございます。」
「ほほう。」
カムイの発言に一番最初に喰らいついたのは建御雷神。
「一体何処を提供するのだ?」
「何を隠そう、神獣の森でございます。」
「なんじゃと!!」
重鎮達が騒めくのも無理もない。
神獣の森は神でさえも滅多に入ることが出来ない、特別な場所なのである。
「私は今回のこの戦遊戯について大変感銘を受けました。素晴らしい催し物、そしてそれを見事に取り仕切る重鎮方々の手腕。拝見させて頂く中で是非とも協力を致したい、という気持ちが高まりまして。こうして大黒天様に取り計らってもらった次第でございます。」
カムイの絶賛に気を良くする重鎮達。
「如何でしょうか?」
「森を使わせる、という事はもしや神獣達も・・・・・・。」
「ええ、勿論。宝を守る番人としてどうぞご利用ください。」
「皆の者、どうかね?」
「ほほう、それは面白そうじゃ!!」
「大黒天よ、よき者を連れてきたな!」
「じゃが、神獣の森は広大過ぎないかのう。あそこを歩き渡るのには半月以上かかる。何も起こらず時間切れになる可能性があるだろう。」
「その点につきましては予めこちらで範囲を決めておきます。範囲外に出た場合、開始地点に強制転移するように術を施すなど対処すればいいでしょう。」
「成程、その案は良いぞ。カムイ。」
「お褒め頂き、ありがたき幸せです。恵比寿様。神獣に関してもこちらで厳選しておきましょう。」
「それはよい。どれほど危険な神獣でも構わん。」
「そうじゃそうじゃ。死んだとしても現界へ帰るよう手配しておる。」
「左様じゃ。全て九尾の狐が何とかするであろう。」
大黒天の言葉を肯定するように高笑いする重鎮達。
「では第参種目、宝探しは神獣の森にて開催でよろしいですかな?」
採は満場一致であった。
「ふ、簡単だったな。」
会議が終わり、一足先に退出したカムイ。
重鎮達は恒例の宴会。
それを遠目で嘲笑う。
(これで種は撒けた。後は・・・・・・。)
「カムイ様、一つお耳に入れたい事が。」
一体の狛犬がカムイに報告する。
「どうした?」
「実はこの街にあの者が・・・・・・。」
「何だと・・・。」
「どうされましょうか?」
「密かに始末しろ。」
「御意。」
姿を消した狛犬の先を見つめるカムイ。
「これでいい。これで・・・。」
そう、全ては神獣の身心のままに。
神獣の森の平穏の為に。
「ふざけるなあ!!!!!!!!!!」
「凄い声ね。」
「何かあったのかな?」
いつものように美奈子と手合わせていると突然、敷地内に響き渡る陽弥瑚の怒号。
それは何かあった事を知らせる合図であった。
しばらくして陽弥瑚に飛び出された二人。
上座に腰掛ける陽弥瑚と向かう合わせに正座。
「先程、運営から次の種目についての通達があった。今度は宝探しのようじゃ。」
「宝探しですか?」
「そうじゃよ美奈子よ。」
陽弥瑚から詳しいルール説明を聞く。
「奪い合いありの宝探し、か。で陽弥瑚様、それでさっき激怒していた理由は?」
「実はな空の字よ、その宝探しを行う場所がのう、神獣の森で行うのじゃ。」
「神獣の森・・・・・・、あの紅葉に瓜二つの巫女姫がいる場所ですか!」
おもわず立ち上がる空也。
実は空也はケイドロが終わった後、神獣の森に向かおうとしていた。
だが陽弥瑚に阻まれ、断念していた経緯があるのだ。
「そうじゃ。空の字には以前説明したが、神獣の森は恐ろしく強い神獣達が住まう森。神とてそう簡単には足を踏み入れることは出来ない、危険で神聖な場所なのじゃ。」
「そんな場所で宝探しを?」
「そうじゃよ美奈子。妾も猛抗議したが全く耳を貸さん。困ったものじゃ。」
何度も首を横に振り、嘆く陽弥瑚。
「美奈子、空の字。妾は今回、棄権を考えておる。」
「ど、どうしてですか陽弥瑚様?」
「お主たちが心配なのじゃ。先程申した通り神獣の森はとても危険じゃ。妾でも太刀打ちできぬ神獣がわんさかおる。そんな危険な場所に其方達を送るのは心痛いのじゃ。」
陽弥瑚の真剣な眼差しにどのような返答をすべきか悩める美奈子。
無意識に空也をチラ見。
「ありがとうございます陽弥瑚様。俺達の事を心配してくれて。」
両手を床に置き、礼をする空也。
しかし空也の決意は固かった。
「だけど俺、神獣の森に行きます。あの場所に紅葉がいるかもしれない。せっかく入れるこのチャンス、逃したくないです。」
「空の字よ、お主は未だに巫女姫が探し人だと考えておるのか?」
「確証はありません。でも、彼女に直接会わないといけない。そう勘が叫んでいるのです。」
「・・・、美奈子はどうじゃ?」
「私は・・・・・・。」
一瞬空也の方を見る美奈子。
彼の確固たる決意が籠った眼差しを前に彼女自身の意思も固まる。
「私も行きます。もしあの巫女姫様が紅葉なら・・・。紅葉がいるのなら私は行かないといけません。会って話さないと・・・。」
「そうか。」
陽弥瑚の頭が重々しく垂れる。
二人の固い意思に自分の言葉など何も意味はなさない。
「ならば妾がやるべき事はこの勇敢な若者達を導く事じゃな。」
「陽弥瑚様?」
「何でもないぞ美奈子。よし!二人の決意、しかと受け取った。」
膝を一つ叩き立ち上がる陽弥瑚。
「ならば妾はお主達が生き残れるよう、手伝うのみじゃ。二人共、妾の修行について参れ。」
「「はい!!」」




