目覚め
目を覚ました時には、眠りについた時には見えなかったはずの風景と呼ばれるものが僕の視界を支配した。
捨てられた街とは、比べるまでもなく静かで、空気の綺麗な世界。
まるで、自分が生きていた世界とは別の世界に来た気持ちだ。
(頭がボーっとするな…)
そんなことを考えながら、視界を後方へと移そうとする。
しかし、頭は疎か、胴体すら自由に後ろへと向かせることができない。
(…これは、どういうことだ?)
必死に動かそうとするが、一向に動く気配がない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、向くことのできない後方から、聞いたことのある男の声がした。
「おお!起きたか、坊主!」
粗雑な言い回しだが、確かに安堵したような優しい声色をした男の声。
僕達双子を拾った夫婦の、男の方の声だ。
(…うん?双子……)
─姉さんどこ行った?
今更ながら、重大な事実に気づいた。
どうやら僕は夫婦の家の二階にある寝室に寝ていたらしく、男に抱きかかえられながら階段を下りる。
姉さんがいなかったことに、多少(とても多少ではない)焦りを覚えたものの、どうやら先に起きて今はリビングで朝食を食べているらしい。
「それにしても、元気になってよかったな~!」
階段から足を踏み外さないように注意しながら、男が僕に語り掛ける。まあ、多分本人は語り掛けるというよりも、独り言のつもりで言っているのだろうが、何故か僕には最初から夫婦の言葉が理解できていた。
しかし、身体が子供だからなのかしゃべることはできない。
「レミア、坊主も起きたぞ。」
リビングに着くと、弾ませた声で男が女性であろう人物の名前を呼ぶ。
すると、眩しいほどの笑顔を浮かべた女性が振り返って、嬉しそうな表情で言う。
「元気になってよかったわ~。」
想像通り、女性の声は街で僕達双子を拾った女の声と同じで、男と同じようにピンク色の髪が生えた女の子を抱えている。
(よかった…。)
姉さんが無事だったことに安堵感を覚えて、思わず息を漏らす。
一応、僕の焦った表情を見た男が、何となく訳を察したようで伝えてはくれていたが、実物を見るまではどうしても不安だったのだ。
「ふふふ、その子とても安心した表情をしているわ。起きた時に、この子が居なくて不安だったのかしら。」
ミレアと呼ばれた女性が、抱えた女の子と僕を交互に見やりながら微笑ましそうに呟く。
「ああ、どうやらそうらしいな。俺が見に行ったとき、滅茶苦茶焦った表情してのたうち回っていたから、すぐにこっちに連れてきたんだが、どうやら正解だったらしい。」
まあ、のたうち回ってたのは寝返りをうつためで、実はあなたが喋っている途中に気づいたわけだが、喋ることができないし、自身の非を認めるようで悔しいので黙っておくことにする。
「そうだ!」っと女性が思い出したように声を上げる。
「その子、一週間も寝ていたんだからお腹がペコペコのはずよ!」
え……、確かに頭が異常にぼんやりするなとは思っていたが、まさかそんなに長く寝てたのか。
驚愕で声を上げそうになるが、やはりしっかりとした言葉にはならず霧散してしまう。
「美味しいか?」
哺乳瓶の口を僕に咥えさせながら、男が僕に言う。
その問いに対してうんと言葉を返そうとするが、やはり上手く発せずに「あう!」という返事になってしまった。
そんな自分の言動に、少しの恥ずかしさを感じたが夫婦はそんな僕の心情を知る由もなく、幸せそうな笑みを僕達双子に交互に向けてきた。
「可愛いわ~。もし私たちにも子供がいればこんな感じだったのかしら。」
明るい笑みの中に、儚げな雰囲気を纏わせた眼を姉さんに向けながらミレアが言う。
そんな彼女の独白ともとれるような問いに、男は困ったような表情を浮かべながら答える。
「ああ、きっとそうなんだろうな。」
その言葉を発した時、男の僕に向けられた瞳に憂いが帯びられたような感じがしたのは、きっと気のせいではないのだろう。




