第五劇 指名手配犯制圧
1946年 東京都東京市
コンコン
鋼鉄製の重いドアがノックされる
黄土色のスーツを身にまとった、ちょび髭の男が口を開く
男「あぁ、入りたまえ」
ドアが開き、将校の格好をした軍人が入る
軍人「総統閣下、どのようなご用件でしょう?」
男「来てくれてありがとう、さぁ、かけたまえ」
軍人が椅子に座る
男「私は君に頼みを聞いてもらう立場なんだ、もっと楽にしてくれていい」
軍人「何なりとお申し付けください。いかなる任務でも必ず遂行してまいります」
男「それは頼もしい。では本題に入ろう。先日の軍事博物館での騒ぎを耳にしたか?」
軍人「はい、同胞達を殺害し、そのうえ最新の爆撃機を奪って逃走した事件ですね」
男「そうだ。その機体に取り付けられていた追跡装置は、ここ、東京から発信されている」
男「場に居合わせた兵の証言によれば、将校姿の女がいたという。覚えはないか?」
軍人「はい、私の秘書でしょう。戦闘能力が高いのも納得できます。」
男「そうだ。彼女の他に、二人の同行者がいるらしい。イタリア軍の格好をした女と、日本兵の男だ」
男が髭を指で撫でる
男「彼らは帝国にとってかなりの脅威だ。現場に向かい、見つけ次第全員殺せ」
軍人「はっ」
男「やってくれるな?情けを掛けるな中尉。あぁ、失礼。今は大尉だったな」
軍人が立ち上がり、右手を高く掲げる
軍人「Sieg Heil!」
――――
東京都 立川市
太陽の余韻が辺りを照らし、薄紺色に染まった空を一機の爆撃機が切り裂く
若い女「あの通りに不時着するよ!捕まって!」
Ju 187のタイヤが地面に接地する
だが、散らばった瓦礫がそれをへし折った
ガリガリガリ!!!
シュトゥーカが胴体を地面に擦り付け、プロペラが曲がる
火花を散らせながら、数十メートルほど滑り、機体が停止する
青年「...10年振りだな」
辺りには瓦礫と燃え滓が広がり、バラック小屋がポツポツと建っている
一行は爆弾倉から各々の武装を取り出した
若い女「あぁ、そうだ。これ」
若い女がコートの内ポケットからカール・ツァイス製のサングラスを取り出す
若い女「コックピットで見つけたんだ。姉ちゃんにあげるよ」
――――
3人は五日市街道を進む
青年「うっ、ひどい匂いだ」
女「ドイツは現在ソビエト連邦と交戦中だ。管理する人員が足りないのだろう」
腐りかけの屍の上を無数のハエが飛び回っている
ふらふらと歩き回る男、レンガを枕にして寝る少年、すでに息を引き取った我が子に乳を与えようとする母親.....
若い女が煙草を取り出す
その時、痩せこけた男が飛び掛かる
男「よこせえええええ.....!」
若い女「うわあああ!!!」
青年が男を羽交い絞めにする
青年「この野郎!離れろ!」
青年が男のみぞおちを殴ると、男は動かなくなった
青年「ちくしょう...」
子供「もし、もし」
齢10歳ほどの子供が女に近づく
女「物乞いか?悪いが、あげるものはないんだ」
子供「ギブミア!ギブミア!」
女がしゃがみ込み、目線を合わせる
女「坊や、お母さんのとこに行っておやり」
子供がバッグから拳銃を取り出す
子供「ケチんぼ!殺してやる!」
女「それは人に向けるものじゃないぞ、ゆっくり下ろすんだ」
子供「うっさい!説教すんならアメをよこせ!」
女が距離を取る
女「(これぐらい離れれば、避けられる...)」
青年「このねぇちゃんの言う通りだぞ、それを置くんだ」
子供が指に力をかける
女「(やはり撃つ気か...)」
若い女「危ない!」
若い女が飛び出す
タァン!
子供が仰向けに倒れる
若い女「うぐぁっ...」
コートに赤い染みが広がる
青年「クソガキがぁ!」
青年が足で子供を蹴っ飛ばす
子供「ギャッ」
女が妹の腹を布で押さえる
女「嘘だ...嘘だ...」
青年「と、とりあえずどこかに寝かせよう!」
女「嫌だよ...行かないで...」
青年が女を揺さぶる
青年「しっかりしろ!死なせたいのか!」
青年が若い女を抱きかかえ、近くの瓦礫の上に寝かせる
若い女「い...痛いよ...」
青年「大丈夫だ。診てくれる所を探す」
その時、遠くからエンジン音が響く
青年「キューベルワーゲンだ!」
青年は自動小銃を構え、運転席を狙って発砲する
運転手が身を隠す
青年「こっちに突っ込んでくる!」
女と青年は寸前で避ける
辺りに砂埃が舞う
女「くっ...」
女がStG-44をキューベルワーゲンに向ける
???「こっちだ」
女が振り返ると、青年のこめかみにライヒスリボルバーを押し付けている中年の将校が現れた
青年がホルスターに手を伸ばす
女「動くんじゃない!こいつは本当に撃つぞ!」
将校が撃鉄を起こす
女「中尉...」
将校「久しいな、今は大尉だ」
女「...あなたにだけは出会いたくなかった」
ガァンッ!!
キューベルワーゲンが建物に衝突する
将校「―――准尉、28歳だな?ご同行願おう」
女「...その青年は無関係です。放してもらえませんか?」
将校「無駄だ、ドイツの情報網を舐めるな。彼らも関係者だろう?」
パァン!
瓦礫に血しぶきが散り、青年が倒れる
女「貴様ァ!!!!!」
女がホルスターからマウザーC96を抜く
ダン!
将校が人間の処理能力を超える速度で動き、弾を避ける
ダン!ダン!ダン!
女は怒りに任せ連射する
将校「...4、5、6、7、8、9、10!」
将校がサーベルを抜き、女に切りかかる
女「ぐっ!」
女も素早く刀を抜き、受け止める
ギィン!
双方は素早く距離を取る
将校「ここで無駄死にするんじゃない、投降しろ」
女「ふざけるな!!殺してやる!!!」
女が振りかぶる
将校「甘い」
将校が足で女の腹を蹴る
女「ぐはっ...」
女がよろめく
将校「お前を殺したことにして、ソビエトに亡命させてやる」
女「黙れェ!!!このクソ野郎!!!」
女が姿勢を低くし、将校に突っ込む
薙ぎ払おうとするその刃を将校は鎬で受け止める
将校「お前も理解しているはずだ。弟子が師を超えられると思うな」
女が刀を引き、そしてその切っ先を将校に向ける
女「風穴開けてやる!」
刀を突き出すが、将校は軽々と避ける
将校「弾丸より遅いものをなぜ避けられないと思ったのだ?」
女「うああああ!!!」
女が体を回転させ、刀をサーベルに当てる
ガッキィーン!
サーベルの刃が空を舞う
将校「...っ!」
将校が腰からハーケンクロイツの紋章が埋め込まれたナイフを取り出す
女「殺す...殺す!!」
女が切りかかる
将校はナイフを使い、攻撃を受け流す
将校「力が弱い!女が帝国軍人になれるとでも思ったか!」
ホルスターからライヒスリボルバーを抜き、女の背中を狙う
パァン!
女は間一髪で弾を避ける
女「2発目は撃たせない!」
女が回し蹴りで拳銃を叩き落とす
将校が女を突き倒し、喉にナイフを突き立てようとする
女がブーツからバタフライナイフを取り出し、右手で刃を展開させる
将校「バタフライナイフか」
将校が左腕で刃を受け止める
女「あ...」
将校はナイフを投げ捨て、女の側頭部を殴る
女「ガッ...!」
将校「せめてもの情けだ...楽に終わらせてやる...」
将校が拳銃を拾い上げる
タァーン...
将校の頭が吹き飛ぶ
女「...えっ?」
遠くからナガン小銃を抱えたソ連兵が走ってくる
ソ連兵「よぉ、手が血塗れじゃねぇか」
女「そうだ!妹が!」
瓦礫の上に横たわる若い女に駆け寄る
女「もう全部終わった...ほら行くぞ」
だが、返答はない
女「あぁ...そんなわけない、そんなはずはない!」
女は冷たくなった家族を見つめ、崩れ落ちる
そしてソ連兵の服の裾を掴む
女「どうして?なんで私を置いていくの?みんないなくなった!戦友も!家族も!!!」
ソ連兵「...」
女「嫌だよ...もう置いていかないで...お母さん...」
ソ連兵「...俺達は負けたんだ...もう行くぞ」
――――
二人の兵士と遺体を乗せたキューベルワーゲンは、深い夜の道を征く




