54 今後の方針
「先輩って、これからどうするんですか?」
大学の昼休み。
偶然出会った春野と一緒にご飯を食べていたところ、そんな質問をされた。
「どうするって...。昼休みの後に1限だけあるから、それが終わったら帰るか、ダンジョンに行くかだな。」
「あ、今日の予定を聞いているわけじゃなくてですね。」
「ん?」
「探索の方針のことです。そのまま先に進むのか、攻略を止めてレベル上げとかをするのか気になって。」
「んー、そうだな...」
学食で買った海老天うどんを口に運びながら、少し考える。
正直、このままガンガン攻略を進める気はあまりない。
「しばらくは100階層以下の探索かな。」
「レベル上げですか?」
「それもあるけど、まだ探索しきってないところとかあるし。あと、解説してない階層もまだまだあるからな。」
補佐システムの話によれば、100階層突破の時点でエリクサーを作る材料は集まるらしい。
攻略を進めたところで、どこで次のエリクサーの素材が手に入るかわからないので、それならまずは100階層までのエリクサーの素材を探したい気持ちだ。
「最初の頃に言ってましたね。探索が大変だから、他のチームも来てほしいって。」
「そうだな。そのための解説配信だし、先に進む気があまりないのはそれが理由でもある。」
「というと?」
「俺一人で先に進んでも、結局探索しきれないんだよな。そしてそのまま探索を疎かにして進んだ結果、重要なアイテムとかを見逃してしまう、なんてことがあるかもしれない。」
というか実際80階層台は探索せずに進んだ結果、ドーピングアイテムや帰還の宝玉を見逃していたわけだし。
その時は大きな問題にならなかったが、もしこの先で同じようなことが起きた時、「重要アイテムを見つけていなかったせいで危険な目に合う」という事態になるかもしれない。
「だから、できれば他のチームが来てから足並みをそろえたいと思ってる。」
「なるほど。確かに未知の場所に一人で行くのは危ないですよね。何があるかわからないですし。」
「ああ。俺は自分の後を追ってきてほしいんじゃなくて、一緒に探索を進めてほしいと思ってるんだよ。あ、チームを組みたいってわけじゃないぞ?」
「もちろんわかってますよ。」
春野はそう言って、笑いながら頷いた。
そして春野は自分の頼んだカツ丼を口にかきこんだ後に、思い出したように言う。
「でも、他のチームって確か最高でも80階層でしたよね?100階層まで待ってたら、もしかしたら年単位かかるんじゃないですか?」
「そうなんだよな。そこが悩みどころでもある。」
把握できている限り、俺以外の最高到達階層は80階層だ。彩風三花、烈煌四雅、海外チームあたりだな。
天譚九曜もそのうち来るとは思うが、現状は到達していない。
そして海外チームのことは分からないが、彩風三花と烈煌四雅はおそらくレベル70~75あたりのはずだ。つまり、80階層の適正レベルではない。
このことについては、病室で歌と三羽つばきとダンジョンの話をしていた時にも少し話したことだ。
『天譚九曜を抜かせるかもしれない、ってことで、半ばノリと勢いで80階層まで行ったんですよね。なので、しばらくはレベル上げになると思います。私も大怪我しちゃいましたし。』
『というか、歌に関しては前に56階層で危ない目にあったのに、またこんなことになったわけだから。次無茶をしたら、何言われるか分かったもんじゃないわよ。』
『80階層まで進んだのも、ちょっと賛否別れてたもんねー。そのうえでこの大怪我だし。先に進みたいって言っても事務所からストップかかるだろうねー。』
と言っていた。
そのレベルで80階層まで来れたこと自体すごいのに、そこからさらに先に進むのはさすがに無茶だろう。
その2チームは半年ほどで攻略階層を20~25階層伸ばしたが、これからもそれが基準と思ってはいけない。
レベル上げをしてから、慎重に階層更新を進めるとすると...。
「1年半か、2年くらいは見といたほうがいいかもな。」
「それくらいなんですかね?自分で言っといてなんですけど、あんまり感覚わかってないんですよね。僕たちはまだまだ低階層ですし。」
「春野たちは今何階層なんだ?」
「20階層越えたところです。と言ってもサークルの人たちのサポートありきなので、僕と結の二人だけの実力だと、20階層越えられるか怪しいところですね。」
「おお、それでもボスオオカミは越えたのか。おめでとう。」
20階層のオオカミは、低階層の壁として有名だ。俺も当時は苦戦したし、突破に時間がかかった。
春野たちは探索を始めて半年足らずだったと思うので、サポートありとは20階層を突破できたのはすごいな。
「ありがとうございます。とはいえ、まだまだ先は長いですけどね。」
春野は少し照れたように笑う。
20階層を越えたばかりの春野たちと、100階層を越えた俺。
数字だけ見ればかなり差がある。だが、少し前まで俺も似たようなところで苦戦していたのだと思うと、不思議な気分だった。
「でも先輩が待っていてくれてるって思うと、なんか安心しますね。」
「待つっていうか、先に行っても俺が困るだけだからな。さっきも言ったけど、一人だと探索しきれないし。」
「それでもですよ。目標がずっと先にいるっていうのは、やっぱり心強いです。」
そんなものか、と思いながらうどんの汁を飲む。
そして頭の中では、次にどこを探るべきかを考えていた。
100階層まででエリクサーの素材は揃う。
それならば現状で怪しい場所と言えば...
(87階層の隠し部屋だな)
以前見つけた、入口のない空間。
あそこに何かがある可能性は高い。
とはいえ、以前行ったときは色々と試しても道は開けなかった。
もう一度行ったとしても、無計画なら結果は変わらないだろう。
(ほかにありそうな場所と言えば、90階層台だな)
90階層台は、80階層の時と同様に駆け抜けた階層で、探索はほとんどしていない。
80階層台でドーピングアイテムや帰還の宝玉を見つけた時のように、90階層台にも何かしらのアイテムがあると睨んでいる。そして、それがエリクサーの素材だという可能性も充分あるだろう。
87階層の隠し部屋と、90階層台の未探索エリア。どちらも同じくらい怪しいと思っている。
「ふー」
うどんの汁を飲み干し、小さく息を吐く。
87階層に関しては、一旦保留にしておこう。今は何も目途が無いし、そのうち海外チームあたりが到達して秘密を解いてくれるかもしれない。
他のチームにも情報を集めてもらいたい、というのが俺の希望だ。
87階層の隠し部屋も90階層台の探索も全て俺がやってしまうと、当初の目的の意味がなくなってしまう。
なので、俺はひとまず90階層台の探索をしようと思う。
その合間に解説配信や、稀に階層更新だな。
解説はまだ70階層台だし、70階層台もどこかに隠し部屋があると思っている。さすがに70階層台にエリクサーの素材はないと思っているが、有用なアイテムがあるかもしれない。解説ついでに探してみるつもりだ。
方針も決めたところで、俺は手を合わせて食後の祈りを済ませ、席を立った。
「もう行きますか?」
「ああ。おかげさまで考えはまとまったよ。」
「おかげさま...?何もしてないと思いますけど。」
「何気ない会話で気づかされることもあるってことだよ。じゃあな。」
「そ、そうですか。お疲れ様でした。」
頭を下げる春野に手を振りながら、俺は次の講義の教室まで歩いていった。
そして教室に着き席に座ったところで、ポケットのスマホが震える。
(連絡?誰からだ?)
取り出して画面を確認すると、そこには「花咲 歌」の表示があった。
病院でのやり取りの最中に連絡先を交換したのだが、連絡なんてめったに来ないだろうと思っていた。
なので、何の連絡だろうと気になって画面を開いてみると。
『こんにちは。80階層の変異体のドロップ品ですが、私たちが回収し忘れたのを烈煌四雅が拾ったようです。それで、烈煌四雅が私たち彩風三花とレイさんに渡したいって言っているんですが、どこか会える日はありますか?』
そう書かれていた。
(そうか...たしかに拾ってなかったな...)
歌の腕がなくなったことや、レベル100になって強くなったことなどに気を取られていて、ドロップ品のことは頭から抜けていた。
変異体のドロップ品か...。興味あるし、烈煌四雅に会いにいってみるかな。




