47 100階層へ
4日後
(...大丈夫そうだな。)
ダンジョン一階層にてしばらく体を動かし、状態を確認する。
もう反動は抜けきった。問題なく動ける。
前回は変異体相手に過剰駆動を重ね掛けするという無茶をしたわけだが、反動としては通常の過剰駆動より少し重いくらいのものだった。
正直もっと壮絶なものが来ると思っていたが、想像よりかなり軽い症状だ。
これは、間違いなくレベル100になった影響でスキルや身体能力が強化されている。
実際、昨日の時点で身体は動いたので少しスキルの検証をしてみたが、創れるスキルの最大数は一つ増えていたし、創ったスキルの内容もいつもより強化されているように感じた。
レベルは10上がるごとに、少し壁を越えたような成長の実感を得られる。だが、レベル100の成長度合いはそれよりもはるかに大きいようだ。
(...逆に言えば、これだけ成長しないと倒せないようなやつがいるってことだろうけどな。)
これから向かう100階層。行くための条件は『レベルが100になること』。つまり、レベル100以下では到底倒せないような魔物がいるということだ。
(...危険だが、安全マージンを取ってる時間はない。帰還の宝玉もあるし、大丈夫だとは思うが...)
こうしている間にも、花歌さんぽは腕がなくなった不自由な生活をしている。当然、探索ができるわけもないし、段々と体も鈍っていくだろう。そうして時間が経ってしまえば、たとえ腕が治ったとしても再び前線に立つのは難しくなる。
俺の油断が招いた結果だ。できるだけ早く治すための手段を見つけないといけない。
相手が強大で一発突破が無理でも、帰還の宝玉で逃げることはできる。そう考えれば、完全な無謀ってわけでもない。
(さて...行くかな。)
体の動きを確認して、荷物もチェックした。少し緊張の気持ちはあるが、あまり時間をかけても心配が大きくなるだけだ。こういう時はさっさと行ってしまうに限る。
深呼吸をして、マジックバッグから99階層の転移石を取り出す。
そしてドローンを起動して画面に転移石を映し、いつものように階層宣言をする。
「99階層」
:こんにちは
:あれから彩風三花とどうなりましたか?
:もう体は大丈夫なの?
:待て。99階層???いきなり???
視聴者が少しずつ増えていき、コメントの流れも加速しだしたところで。
転移石が起動し、俺は光に包まれて姿を消した。
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ダンジョン99階層
霧の濃い、湿地のような景色が広がる階層。
視界が悪く目立った地形が少ないため、現在地が分かりにくい。
そんな中で魔物を倒しながら次の階層へ進む魔法陣を探さなければいけないという、なかなかめんどくさい階層だ。
:なんでいきなり99階層?
:99階層まで行ってたんですね。もしかしてこれから100階層に行くんですか?
:彩風三花から声明がほとんどないけど、何か知りませんか?
:隠し部屋とかヤマタノオロチは?
ドローンのコメントが忙しなく動いているが、霧のせいでなかなか上手く読めない。
だがよく流れてくるコメントは、「彩風三花はどうなったのか」「何故99階層に来たのか」というものだ。
実は三羽つばきから、『歌の容態についてはまだ言わないでおいて』と言われている。公式の発表としても、「現在治療中。命に別状はナシ」とだけ言っているようだ。
なので、彩風三花についてはあまり配信で話すことはできない。
「彩風三花は治療中。99階層に来たのは、100階層にはレベル100にならないと行けなかったんだけど、この前ようやくレベル100になって行けるようになったから。隠し部屋とかヤマタノオロチは一旦後回し。」
じっくり話す余裕はないので、簡潔に答えるだけした後は移動に集中する。
コメント欄はまだまだ質問だらけだったが、それを放置して100階層へと続く魔法陣を探し続ける。
以前来た際に地形のメモなどはしているのだが、如何せん視界が悪いし似たような景色が多い。なのでメモの場所を探すのに一苦労だ。
そして当然、魔物も襲ってくる。霧に紛れてやってくる、白色の人型の魔物。湿地の地面から襲い掛かってくる、ミミズのような細長い魔物。
99階層だけあって一体だけでもそれなりに強く、だからと言って手こずって戦いが長引けばまた別の魔物がやってくる。そして戦って移動しているうちに、現在地がわからなくなってくる...といったややこしい階層だ。
ぶっちゃけ、めんどくさい。時間と手間がかかるし、慣れない地形での戦いだし、60階層台の洞窟のように休憩も満足にできないし。
たしかに難易度は高いが、100階層という大台に向けての階層にしては、地味な嫌らしい階層だと思ってしまう。
(その難しさも、今となっては大分マシだけどな)
以前はなかなか魔物を仕留めきることができずに、次第に魔物が増えていって処理しきれなくなり逃げ帰る、といったことが多かった。
だが成長した今なら、他の魔物が集まってくる前に倒しきることができる。
魔物を各個撃破しながらメモを確認しつつ、索敵・視界補助のスキルで魔法陣を探し、走り回ること3時間後。
「ふー。ようやく見つけた」
100階層へと続く魔法陣の前に立ち、大きく息を吐いた。
:おお、あったか
:わかりにくい階層だな。洞窟みたいな感じだ
:配信としては最悪な階層だね。見えにくいし、見えたとしてもなかなか景色変わらないし
いつの間にかコメントは落ち着いていて、視聴者数はかなり減っているようだった。
そりゃ霧の濃い風景をずっと見せ続けられるのは退屈だろうからな。洞窟も似たようなもんだったと思うけど、99階層という大台に向けての階層で期待があった分、がっかり感は強いだろう。
「ちょっと休んだら100階層に行く。100階層には何がいるだろうな」
水分補給をし、軽く身体を伸ばしながらぼそりと呟く。
階層主はそれまでの階層にちなんだものが出てくることが多いが、90階層台はコンセプトがバラバラだ。
99階層は霧だが、大雨の階層もあれば真夏のように日差しが差して熱い階層もあった。
これだけバラバラだと、ボスを予想するのはちょっと難しい。案外道中の階層とは全く関係ないやつの可能性もあるからな。
:鬼、蛇と来たら...。なんだろうな
:蛇の天敵のマングースとか
:100階層に相応しいような魔物か...
:地獄の番犬、ケルベロスとか?
コメント欄も疑問や予想が流れていくが、見事にバラバラの意見だ。やはりみんなも予想できないらしい。
「まあ答えはこの後分かるな。」
ドーピングアイテムを摂取し、帰還の宝玉をすぐに取り出せるようにマジックバッグの位置を調整する。
そして剣と盾にも破損がないことを確認し、少し目を瞑り集中した後。
「よし、行くか。」
俺は100階層へと続く魔法陣に足を踏み入れた。
以前のようにメッセージウィンドウが出て転移が止められるようなことも起きず、魔法陣は正常に起動する。
そのままこれまでの階層と同じように魔法陣に光が広がり、俺は100階層へと進むことができた。
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ダンジョン100階層
99階層の、霧の深い湿地帯とは打って変わって。
100階層は、穏やかな平原だった。
:これが100階層?
:もっと禍々しいと思ったけど、普通だ
:1階層っぽい
コメントの言う通り、雰囲気は1階層に似ている。
足が取られることもないし、視界も良好。風が草木を揺らしていて、気持ちよく感じられる程度の日差しが差している。
パっと見で、何か嫌らしいギミックのようなものがあるようには見えない。
(...ほんとに何もないのか?)
それでもしばらくは疑ったまま周囲を確認していたが、どうやら本当にただの平原っぽい。
となると、ボスの間までの道中の魔物が厄介だとか、ボス自身に何か仕掛けがあるとかそんな感じだろうか...。
そう思い、とりあえず少し探索をしてみようと歩き出したところで。
「っ!?」
背筋を冷たいものが走り、反射的に空を見上げる。
上から強烈な気配...。何かが落ちてくる。
地面に影ができていき、上から来るものの正体が次第に見えてくる。
それは落ちてきたのではない。
空を飛んでいたものが、こちらへ降りてきたのだ。
赤い体表。背中に翼があり、爪や牙は鋭い。全長は十五メートル、いや二十メートル近いかもしれない。
その生物は、空から俺を見下ろしながら地面に降り立った。
ドラゴン
ファンタジー世界の中でも、最強に分類される生物の一種。その生物が、俺の前に突如として現れた。
(まだボスの間じゃないぞ...!?こいつが通常魔物!?それとも、もしかしてブルーオーガみたいに変異体!?それか、100階層は階層全体がボスの間なのか!?)
突然の出来事に、頭が混乱する。頭に浮かぶのは、数日前にボスの間から出てきていた変異体のブルーオーガ。まさかこのドラゴンも、変異体...?
可能性は限りなく低いとは思うが、0とは言い切れない。そのことが俺を焦らせていた。
そして俺が落ち着く時間なんて与えてくれるはずもなく。
ドラゴンは大きく息を吸い込むと、つんざくような咆哮を上げた。




