44 必然の救援
(そろそろレベル100になるかな...)
レベルが99になってから10日が経った。この間にも遺跡探索や70階層台の解説を行い魔物を倒していたので、感覚的にはそろそろレベルが上がるころだ。ソロは経験値独占だからレベルが上がりやすいしな。
(レベル100への相手は、あいつにしようかな。)
90レベル前後の時にレベル上げのお世話になったブルーオーガ。記念すべきレベル100の相手としては、あいつがちょうどいいだろう。
ヤマタノオロチは...まだ安定して勝てるわけじゃないし、今回はパスだ。
ダンジョン80階層
というわけで、準備をして80階層へと来た。
一時期はよく来ていた階層だが、なんだか久々に来るような気がする。
(...こんな雰囲気だったか。)
赤黒く、ひび割れた地面。階層全体から感じるプレッシャー。よく来ていた時は慣れてなんとも思わなくなっていたが、久々に来ると『圧』を感じるな。
:こんにちは
:今日は80階層なんだね
:最初の配信を思い出すな
:結構久しぶりじゃない?
「ああ、久々にブルーオーガと戦おうと思ってな。というのも今レベルが99で、多分そろそろ100になるんだよ。その相手としてブルーオーガを選んだ。」
:おお!!とうとう100か!
:レベル100になれば何か変わるのかな?
:何かありそうな気もするけど、どうなんだろ
:80階層主に何か思い出があるの?
「思い出...ってわけじゃないけど、一時期よく戦っていたし、勝った時の達成感もあるからな。ヤマタノオロチは、どっちかと言えば疲労感とかの方が強いし。レベル100の達成感を味わうのはブルーオーガがいいかなと思っただけだよ。」
:そうなんだ
:俺らからしても、最初の配信で見たボスだから思い出ある
:最近は海外が到達して何度か戦ってるけどまだ突破してないね
:天譚九曜もそろそろ到達するよな
「天譚九曜、ちょっと前は75階層だったよな。2週間で80階層までは...まあ来れなくもないか。」
:なんなら、少し前に彩風三花と烈煌四雅が80階層に到達してたぞ
:もうちょっとタイミング早ければ会ってたかもね
:マジで?知らなかったわ。天譚九曜超えたのか
:合同チームだから、天譚九曜が負けたとも言えないのが難しいところ
「...その二つのチームも二週間前は75階層だったよな?レベルとか大丈夫なのか?無理してなきゃいいけど」
:一番無理してそうに見えるのは主だけどね
:多分主よりは無理してないよ
:80階層に行って、異様な雰囲気にめっちゃ警戒して、転移石確保したらすぐ退散してたし無理はしてなさそう
「まあたしかに雰囲気というか、プレッシャーみたいなのはあるな。俺も久々に来たけど、改めて感じてみるとすごい圧だ」
そんな話をしながらボスの間へと進んでいく。
何か少し引っかかるものがあったが、それが何なのかは掴めないままだった。
「さあ、着いた...な...?」
そしてボスの間に着いたところで、一瞬で異変に気付いた。
:ん???
:ボスいなくね?
:どこ行った??
ボスが、いない。
普段ならばボスの間で佇んで待っているはずのブルーオーガの姿が、そこにはなかった。
「...誰かが撃破した、のか?」
ボスは撃破されれば一度消える。だが、討伐者がこの場を離れれば再出現するはずだ。
そして今、この場には誰もいない。
:彩風三花か烈煌四雅か?
:さすがに違うだろ。配信もつけてないし
:じゃあなんでいないの?
:ていうかさ。ここまでの道中、魔物が全然いなくなかった?
コメント欄も同じことを考えたようだ。そして最後のコメントを見てハッとする。
そうだ、道中の魔物が極端に少なかった。これは。85階層の時にもあった...
そう考えたところで、突如として。
後ろから猛烈な殺気が突き刺さった。
素早く振り返る。
視線の先にいたのは、四本腕のブルーオーガのシルエット。
だが、いつもと少し違う。
体には黒の斑点がついており、盛り上がる筋肉は通常よりも大きく、持っている装備も普段とは違うものに見える。
(あれは...まさか...)
:え?ボス?
:なんで最初からボスの間の外にいるの?
:外見違うくね?
:ちょっと待て。おかしいだろこれ
そして、ブルーオーガは俺を睨みつけたかと思うと。
「ゴアアアアアアアアッ!!」
叫び声をあげて、突撃してきた。
黒い斑点、通常個体とは違う異形化。そして本来ありえない挙動。
それらを合わせると、答えは一つ。
こいつは...
「変異体!!!!」
思わず大きな声を出し、瞬時に剣と盾を構えた。
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振り下ろされた剣を、俺も同じく剣で受け止める。
だが、重い。受け切れない。
通常よりも明らかに力が増している。
瞬時に体を逸らして受け流しにシフトし、次に来るナックルに備える。
続いて襲い来る拳を盾で防ぐが...
「くっ...!」
体が浮かされる。盾で防ぎきれない。
少し吹き飛ばされたことで距離があき、再び剣と盾を構える。
:変異体!?!?
:マジかよ初めて見たかも
:強そうだけど、90階層ボス倒せるなら倒せるんじゃないの?
これが通常魔物の変異体なら問題なく倒せただろう。
だがボスの変異体となると話は別だ。
変異体は、通常の魔物が十階層先のボス並に強化されるものだ。
それがボスに適用されたらどうなるのか。そんなもの、まともに測れるはずがない。
(いつもの戦法で倒しにかかる!)
時間をかけると何をされるかわからない。ここは慣れている戦法で削っていくべきだ。
俺はブルーオーガの周りをぐるぐると走り、一瞬の隙をついて側面から攻撃を仕掛けようとする。
体の片側からなら、相手をする腕は二本で済む。二本なら対処しつつ攻撃を当てることができる。
そして攻撃を仕掛けたところで...
ブルーオーガは瞬時に体をこちらに向け、四本腕を向けてきた。
(反応が早い...!)
咄嗟に足を止めるが、ブルーオーガが前に出たことにより射程距離に入ってしまう。
繰り出される剣と拳。剣で、盾で防ぐが、そのたびに衝撃が襲い来る。
(試しに魔法だ!)
通常のブルーオーガは、隙が無い限りは魔法を放っても『魔法反射』のついたナックルで弾かれてしまう。だが変異体は装備が違うように見えるので、もしかしたらそのまま魔法が当たるかもしれない。
そう思って杖に持ち替え、雷の魔法を放つ。
だがその魔法は当たり前のようにナックルに弾かれた。
いや、弾かれるどころじゃない。『反射』の名の通り、俺へ向かってそのまま返ってきた。
慌てて避けたところで、ブルーオーガが急接近して剣を振ってくる。
(シールドバッシュ!!)
『高速思考』からの『シールドバッシュ』。相手の攻撃をはじいて体勢を崩し、剣で斬りかかりに行く。
ナックルが繰り出されるが、それを躱しながら一太刀入れる。この辺の動きは、通常個体と変わらない。
わずかに傷がつき、ブルーオーガから血が流れる。これを続けられればなんとかなるが、そう何度も同じ手を食らってくれるかどうか...。
次の攻防。攻撃を受けようと盾を構えたタイミングで、ブルーオーガは一瞬剣を止めた。そしてそのまま剣ではなくナックルを出してくる。
(やっぱり盾で受けるのは警戒されるか)
露骨なシールドバッシュ狙いは回避されてしまう。
それならばと思い、いつものように武器を変え技を変えて攻撃を仕掛けるが、変異体にはほとんど通じない。
槍、ハンマー、弓、斧...。どれも熟練しているわけではないとはいえ、通常個体なら一発は当てることができる。だが変異体には、ほぼすべて防ぎ切られた。
その間にも、俺は攻撃を防ぎ衝撃が重なっていく。
このままでは、俺の体力と戦術の方が先に底をついてしまう。
:え、ヤバくないかこの状況
:変異体ってこんな強いの?
:なんだかんだで勝てると思って余裕で見てたのに、もしかしてピンチ?
:本気を出せ!本気を!!
...使うしかないか。
こちらは何度も衝撃を受け息も乱れてきているのに、相手はまだほとんど削れていない。このまま続けていても碌に傷つけることはできないだろう。
切り札を自分で使うのと、相手に使わされるのではまるで違う。この状況は後者だが、それでも使うしかない。
「過剰駆動」
その瞬間全身から魔力が吹き出し、あふれんばかりの力が俺に宿った。
一気に間合いを潰し、そのまま斬撃を叩き込む。
血が舞ったところで、ほんの一瞬遅れて変異体が拳を繰り出す。
それを一歩下がり避けたところで、今度は突きで腹を突き刺す。
強靭な腹筋により突きは途中で止まったが、それでも傷を負わせることはできた。
:本気きたああああああ
:出た!!!これで勝つる!!
:一気にやっちまえ!!!
相手の剣を、拳を防ぎながら、次々に『瞬迅斬』で斬りつけていく。
次第に傷が増えていく変異体だったが...
(倒れる気配がまるでないぞ...!?)
確実にダメージは与えている。血だって出ている。
だが変異体は倒れるどころか、鈍ることさえせずに動き続けている。
それどころか...
(見切られてきてる?)
動きが見切られてきている。超スピードの斬撃である瞬迅斬自体は見切られていないが、それをくらわせるための動作が読まれてきている。
俺が避けるのに合わせて、相手も半身を引いて斬撃にそなえる。俺の体勢から剣の軌道を予測して、その場所に盾を構えて置く、など。まともに瞬迅斬が当たらなくなってきている。
(過剰駆動でも対応されるなら、この状態で戦術を変えていくしかない!)
超スピード、高火力による、技の連打。先ほどまでより素早い動きのおかげで、槍は肩に刺さり、斧は脇腹を切り裂いた。
だが、倒れない。
攻撃は当たるが直撃しない。すんでのところで身体を動かし、致命傷は避けられている。
(くそっ!)
俺は被弾覚悟でナックルを装備し、至近距離まで近づく。
細かいフットワークで攻撃をかわし、ゼロ距離で『パワーフィスト』を使う。
近づいた甲斐あって、その技は変異体に直撃させることができた。
:決まった!!!
:まともに入ったろ!!
:そのままたたみかけろ!!
拳は変異体の腹に深くめり込んだが...。
動じない。
変異体は少し前のめりになったものの、吹き飛ぶことも倒れることもせずに、そのまま剣と拳を俺に向けてきた。
「おおおお!!」
『瞬間装備』で剣と盾を装備し、その攻撃を防ぐ。のしかかる衝撃の中、俺は再び瞬迅斬を繰り出す。
だが変異体はその軌道上に盾を置き、俺の剣が受け止められる。そしてその瞬間。
ガアン!
と、俺の剣が大きく弾かれた。
「...え?」
剣が弾かれ体勢を崩されたことで、俺は呆然とする。この動きは、今まで俺が何度もやってきた...
(シールドバッシュ!?)
変異体の盾にも、この技がついていたのか!?
呆然から驚愕へと変わった瞬間
二つの拳が俺の胴体に突き刺さった
「ごはっ!?」
血を吐きながら大きく吹き飛ばされる。
着地をすることも受け身を取ることもできずに、そのまま地面を何度も転がった。
:あああああ!!!
:直撃か!?
:やばいやばい!!
:嘘だろ!?
(まずい...。ダメージもそうだが、過剰駆動の限界も...)
胴体が裂けるようだ。痛いではなく、熱い。それと同時に、麻痺してるように感覚も薄い。
過剰駆動も、長時間使用によりそろそろ性能が落ちてきてしまう。倒せないにしても、なんとか隙を作って逃げ出すくらいはしないと。
急いでポーションを取り出そうとするが、手が上手く動かない。
拳を食らっただけでこのダメージ。通常個体とは、あまりに違いすぎる。
(まだだ...。まだ負けてない!)
走ってきて剣を振り下ろす変異体。俺はその剣を転がって躱しながら、『瞬間装備』でポーションを手にもつ。
(はは、『ポーションを装備』なんて考えたことなかった。咄嗟にやったけど上手くいくもんだな。)
転がったまま急いでポーションを飲むことで、ようやく体が癒えていく。
だがそこに変異体の蹴りが襲い掛かる。
慌てて盾を構えるが、再び吹き飛ばされてしまった。
その衝撃で剣を手放してしまう。
:ダメだ!逃げろ!!
:この人の全力が通じないとか嘘だろ?
:あれだ!瞬時に帰れるアイテム使え!!
:そのアイテムは、89階層以降じゃないと使えねえんだよ!!
吹き飛ばされた先で急いで起き上がるが、変異体は勢いそのままに走ってきていた。
盾を構えようとするが、今の一撃で腕が痺れて上がらない。剣は手放してしまったので、急いで装備を...ダメだ、もう敵は目の前だ。
(間に合わない!!)
剣が直撃する。そう思った瞬間
ゴウッ!!と、巨大な風が変異体の腕に当たり、剣の軌道を逸らした。
(...?風の魔法?こいつが使ったわけじゃないよな?)
軌道がずれて紙一重のところに振り下ろされた剣を見て、一瞬呆けてしまう。
だがすぐに頭を切り替え、再び攻撃されないためにも慌てて一歩下がる。
そして一歩下がった俺と変異体の間に、一人の人物が上から現れて地面に着地した。
「本当は今の救援、私がしたかったんですけどね。」
どこかで見た姿、どこかで聞いたことのある声。
「ただタイミング的には、魔法が使えるふーちゃんにしかできなかったから仕方ないですね。だから私の出番はこれからです。」
それは、俺がかつて助けた人物。
「お待たせしました。今度は私が、あなたを助けます。」
花歌さんぽが、そこにいた。




