第7話:ゲームマスター
[西暦2050年:地下万博・中央管制室]
静寂に満ちた中央管制室。壁一面に広がる巨大なスクリーンには、地下万博の各エリアを監視する無数の映像が、音もなく映し出されている。
その中央に立つ、プロジェクト・アークAI部門総括、星影燈は、手元の端末に表示された参加者リストを眺め、静かに口を開いた。通信相手は、この空間のどこにも姿は見えないが、常に存在している、この計画の主催者だ。
「参加者一覧の最終確認が完了しました。……一点、ご判断をいただきたい事項があります。リストによると、アンドロイドが『参加者』として一体、『保護者』として一体、参加するとなっています。これをどう判断しましょうか?参加不可としますか、それとも……」
『――そのままで問題ない』
凛として、それでいてどこか温かみのある、壮年の男性の声が、室内のスピーカーから響き渡る。
『参加者のアンドロイドに関しては、あくまでも『義体』としての参加だ。アンドロイドと本人をリアルタイムで接続し、インプット・アウトプット、その全てが本人の意思を反映する仕組みであるならば、それは生身の人間と何ら変わらない。参加を許可しよう』
「承知しました。では、保護者のほうは?」
『保護者のアンドロイドは、謎解きに関する思考補助機能を、会場内では全て停止させる。参加者本人の意思と知性のみで謎を解くことが、この試験の絶対条件だからね。多少の不利にはなるだろうが、それは致し方ないものとする』
「しかし、その参加者は8歳と記録にありますが……」
燈がわずかに懸念を口にする。
『……事情は汲みたいところだが、その部分で優遇はできないだろう。そうは思わないかい?燈ちゃん』
主催者の穏やかな問いかけに、燈は「はい」と短く頷いた。
「そうですね、理解しています。……この資料によると、保護者のアンドロイドは春凪共和国製……ですが、『フルオーダーメイド』!これは珍しいです!こんなカスタム機、コストがいくら掛かったのか想像もできません……!し・か・も!」
燈の声が、どんどんオタク特有の早口になる。
「父親モード、母親モード、友人モード、親や友達と共に食事をするための『ご相伴に預かります』機能まで!うんうん、食卓を囲むのはとても大切ですもんね。素晴らしいです!さらに、家政婦モード、執事モードまで実装済み!?どうなってるんですか、この多機能性!どこの大富豪がこんなことを!すごい!すごい!」
データシートを食い入るように見つめながら、燈は興奮を隠せない。
『……燈ちゃん、少し落ち着きなさい』
「はっ!も、申し訳ありません……おほん。……ですので、保護者アンドロイドへの機能制限は、こちらから容易に実行可能です。参加者の方は……台湾製のようですね」
『春凪のシステムなら、エリア指定で自動的に制限を掛けられるので問題ない。地下万博エリアに入ったと同時に、思考補助をロックするように設定しておいてください。参加者の台湾製というのは……義体番号は?』
「はい。『TMYMDT_ADRD_0011_HRHLT』となっています」
『ああ、それは台湾のハイテク民間企業の義体だな。彼らの優秀な義体に、我が共和国のAI技術をアドオンした、特別製だ。末尾のHRHLTは『Harunagi Republic for HeaLTh』。健康に問題を抱える利用者が、その人らしい人生を送るために開発された、我が国の最新AIだよ。こちらも、ある意味世界の最先端技術だ。会場に到着したら、燈ちゃんは見に行きたくなるんじゃないかな(笑)』
主催者の楽しそうな声に、燈は少しだけ顔を赤らめた。
「えっと、あ、はい……(苦笑)。そうなのですね。では、保護者アンドロイドについては、会場入場と同時に制限モードに移行する旨を、事前に参加者へ通達しておきます。そして、参加者アンドロイドについては、会場内での双方向リアルタイム生体リンクが、常に有効であることを常時チェックする、ということでよろしいですね」
『その対応でお願いします。それと、地下万博協会には、アンドロイドが二体参加することを伝達し、手荷物検査時の金属探知機など、生体認証の部分で特別な配慮をするよう、指示しておいてください』
「承知いたしました」
こうして、二体の特別なアンドロイドの参加は、静かに承認されたのだった。




