第6話:最初の試験
そのとき、関係者専用のドアがすっと開き、何かが現れた。青い体に、赤いポンデリングのような形の――ミャクミャクである。
見た目からは想像もつかない、女の子のような可愛らしい声で、ミャクミャクが喋りだす。
「こんにちはぁ……ぼく、ミャクミャクって言います。2025 大阪・関西万博のイメージキャラクターをやっています。初めましての方は初めまして! お久しぶりの方は、また会えましたね、こんにちは!」
その言葉に、参加者のうち数名から、自然と温かい拍手が湧いた。二十五年前、実際にこの場所でミャクミャクに会ったことのある者たちだろう。彼らの真ん中で、悟が少し涙ぐんでいるように見えたのは、きっと気のせいではない。
「実は、ミャクミャク、ずっと心残りなことがあるのー」
ミャクミャクが、少し悲しそうに続ける。
「二〇二五年の五月十三日にね、会場のバルト館から、ミャクミャクのぬいぐるみがいなくなっちゃったのー。誰かが、連れて行ってしまったみたいなの……」
悟がピンときて、小声で呟いた。
「おや? これはイベント発生や。要、聞き逃さんようにするんやで」
要もすでに集中モードに入っている。
「もちろん。極悪なゲームだと、ストーリー進行NPCが一度しかヒントをくれないこともあるからね。それで詰んだ人に、何度アドバイスを出してあげたことか」
ミャクミャクの心残りは、かの有名な『万博バルト館ミャクミャク誘拐事件』だ。開催中のバルト館から、白昼堂々、入り口のカウンターに置かれていたぬいぐるみが拐われた。当時は大きなニュースになり、防犯カメラに犯行の様子までしっかり残っていたにもかかわらず、犯人もぬいぐるみの行方も分からず、いつしか迷宮入りしたとされている事件である。
「でもね、後から聞いたんだけど、連れて行った人が、こっそりミャクミャクを返してくれたみたいなのー。どこにあるかは分からないけど、この会場のどこかにいるのは、確かなの。だから、みんなには、バルト館のミャクミャクを探してほしいのー!」
それを聞いて、悟が思わず声をあげる。
「この会場の……どこかに、やと!?」
無理もない。万博会場の広さは、隣のUSJの三倍。東京ディズニーランドとシーを足し、さらにもう一つランドを足した広さに匹敵する。東京ドーム約三十三個分。一日や二日で回れる広さではない。
しかし、悟はすぐに思い当たった。
「なるほどな……。そういうこともあって、最初から一週間っちゅう期間が設定されとるんか。だとしたら、不可能やないかもしれん。……でもな、ミャクミャクさんよ。あの盗まれたミャクミャクは、他のぬいぐるみと見分けがつかんかった記憶があるんやけど、何か特徴はあるんか?」
核心を突く質問に、ミャクミャクは得意のステップを軽やかに踏んで答えた。
「探してくれるの? ありがとう〜! 特徴はね、あるよ。でも、それが何かは言っちゃダメだって言われてるから、今は言えないのー。ごめんね」
そこで言葉を切ると、人差し指(のような部分)を立てて、ヒントを告げる。
「でもね、『現場百回だよ』ってことだけは、言ってもいいって」
その言葉を聞いた瞬間、悟と要は顔を見合わせ、ほぼ同時に深く頷いた。他の参加者たちがまだ戸惑いの表情を浮かべる中、二人だけがすべてを理解していた。
「「わかった。ありがとう」」
ミャクミャクが示した、最初の公式な試験。そのヒントを聞いて、参加者たちの動きは三つに分かれた。
何人かは「現場百回」を信じ、足早にバルト館のあったエリアへ向かう。別の数名は「ぬいぐるみ」という言葉に引かれたのか、あるいは別の思惑か、点在するオフィシャルショップを目指して散った。そして残りの者たちは、まだ状況が飲み込めず、その場で立ち尽くしている。




