第37話:この地下(ばしょ)で、必ず
東ゲートへと向かう道中、アイラはアルスラーンの左腕にちょこんと座るようにして運ばれていた。
「ねぇ、アルスラーン。男の子の背中って、何歳くらいから広くなってくるのかしら?要の背中、アルスラーンよりは小さいけれど、思った以上に広くて、逞しくて……温かかったのよ」
「……アイラ様。個人差はありますが、高校生になる頃には体格が完成する方もおられるようです。……良い経験をされましたね」
「そうね……良い経験、だったのかしら。よく分からないわ……」
一方そのころ、璃奈は迎賓館を出ると、警備ロボの視線を避けつつ、大屋根リングの上、スカイウォークを移動していた。メンテナンス用のドローンが飛び交う中、パビリオンの灯りが消えた夜の万博は、大屋根リングの優しいオレンジ色の帯だけが、視界の端から端までを照らしている。
ふと、リングの対面、直線距離で700メートルほど向こうに、人影が見えた。璃奈は無意識に、義体の視界ズームモードを起動する。
(……要くん……!)
その姿を捉えた瞬間、璃奈の目から、大粒の涙が、ぽろり、ぽろりとこぼれ落ちた。
(私は、こんな機械の目で君を見たいんじゃない。自分の、本当の目で、あなたを見たいよ……。要くん……私は、私は必ず、この病気を克服する……!)
込み上げる想いにたまらず、璃奈は西ゲートに最も近いエスカレーターに向かって、走り出した。
要もまた、反時計回りのルートで、スカイウォークを西ゲート方面へと向かっていた。そして、遥か向こうのリング上に、小さな人影を捉える。
(あれは……璃奈さんだ……!)
じっと見ていると、その人影が、不意に西ゲート方向に走り出すのが見えた。それを見て、要もなぜか、つられるように走り出していた。
作戦実行まで、時間はまだ充分にある。走る必要などどこにもない。
だが、二人はただ、互いの距離を縮めるためだけに――ひたすらに、走った。
要がエスカレーターの降り口にたどり着いた時、璃奈はもうそこにいた。
大屋根リングのオレンジ色の照明が、彼女の体を柔らかく照らし出す。その光を受けて、美しい銀髪が、まるで自ら輝きを放つ金色の髪のように見えた。 彼女は、そんな幻想的な光の中で、両手を広げて要を待っていた。
要は最後まで走りきり、彼女の元へと飛び込んだ。その体を璃奈はぐいと引き寄せ、両手で力強く抱きしめた。
「要くん……要くん……っ」
要の腕に、璃奈の涙が、ぽた、ぽたと落ちる。
「要くん!私を……助けて!病気を……治したいの……!」
要は、震える彼女の頭を優しく撫で、ポケットからハンカチを取り出すと、溢れ出る涙をそっと拭ってやる。
「……わかった。璃奈さんの病気は、僕が治す。**この地下**で、必ず治療法を見つけよう」




