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スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話  作者: 明和里苳
第7章 鍛冶編

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第87話 教育現場

 まず配布したのが、クリーンの魔法陣。セルバンテス魔導伯がかつてドイブラーで徴税官を務めていたとき、「民間伝承」として伝わっていたクリーンのスキルを習得された。しかし習得のスピードには個人差があり、どうにかして万人に広められないかアルブレヒト魔導伯に相談したところ、いにしえの魔導書が光り、魔法陣が現れたという。——なんだか当初の話から随分と尾ひれ背びれが付いているが、徴税官だったことと習得に個人差があったことは本当だ。噂を流す時には、真実を混ぜるのがポイントである。


 とはいえ、クリーンの魔法陣はここドイブラーでも普及している。既にクリーンの魔法陣に親しんでいる子供たちは、当然のごとく「スキルは魔法陣で発動する」という「常識」を持っている。一方クリーン村から来た子供たちは、「あれっ、クリーンは『シュッとしてファー』じゃないの」と戸惑うのだが、みんなと一緒に繰り返し魔法陣を使うことによって、魔法陣を使うのが「普通」で「当たり前」という意識に変わっていく。


 そうなったら第二段階、次はソイルとライトとウォーターだ。植物魔法を生やし、土魔法レベル1の土壌改良を覚えなければならない。各自ツボを配布し、ソイルの魔法陣を使って土で満たしてもらう。いっぱいになる頃には土魔法レベル1の土壌改良を習得するので、次の段階へ。


 鑑定とアカシックレコードで、あらかじめ麦の生育に適した土壌成分は調べてある。彼らに配布するのは、あらかじめ特定の成分になるような土壌改良の魔法陣だ。ここに麦の種を蒔き、ライトとウォーターの魔法陣で定期的に光と水を注ぐ。同時に使うのがポイントだ。100MPを消費すると、植物魔法が生えてくる。


 ここで満を持して植物魔法レベル1成長促進の魔法陣を配布したら、ツボ農家の完成だ。


 なお、彼らには大麦の種を渡してある。この辺りで栽培されていいるライ麦やスペルト麦、また他領から入ってくる小麦などの価格暴落や市場の混乱を避けるためだ。いずれ「あれ、これって他の麦もいけんじゃね」ってバレるだろうが、時間差でのソフトランディングを期待している。それより大麦だ。これでビールを醸造し、そのまま消費する分を除いてあとはドワーフの蒸留所へ送り込む。農業コースは、そのために作ったと言っていい。


 在学中の衣食住は無償で供与、その上各自ツボで栽培した大麦は買取だ。いい小遣い稼ぎになる。その上、隣接して建てられた醸造所でバイトをすればもっと稼げる。そして美味しいバイトに味を占めたら、醸造コースへいらっしゃい。酒造職人ゲットだぜ。




 こうしてドイブラーは、数年で一挙にビールの一大産地にのし上がった。もちろん街道が整備されたとはいえ、ビールのままデルブリュックまで運搬するのは難しい。というわけで、こっちにもドワーフと蒸留所を誘致した。蒸留酒ならかさが減るから、運搬も多少容易になる。そもそも移住したドワーフたちがほとんど飲んでしまうが。


 ドワーフたちは、腐ってもみんな名工だ。いくら飲んだくれて酔っ払っていても、一度ひとたびハンマーを握れば鬼神のごとく集中力を発揮し、一振りで目ん玉が飛び出るくらいの剣や王都に屋敷が建つほどの鎧を打つ。金払いは最高だ。販路なんか開拓せずとも、酒は作れば作っただけ買ってくれる。


 税収の管理も楽々だ。大麦は直接買い取り、醸造所も賃金労働。全部行政が握ってるから誤魔化しようがない。そして領民にとっても、その方が楽でいいのだ。帳簿を作って検閲を受けてビクビクしながら納税期を待たなくてもいい。意外なことに、商業ギルドもこの運用には協力的だ。彼らは庶民の購買力が上がることを歓迎しており、業績もうなぎのぼり。経済が回るのはいいことだ。


 なお、対アルコール教育もばっちりだ。こっちの世界の人はアルコール耐性が強いようだが、しつこいほど「飲酒は二十歳を超えてから」と刷り込んである。若いうちから酒を飲むと脳萎縮、依存症、性機能の障害が起こるリスクがある。もちろん大人になっても肝機能障害を始めとした生活習慣病、精神障害への影響は避けられない。年頃を迎えた中等部では、男子は性機能障害への恐怖から、女子は将来の美容のために、禁酒に対する強いモチベーションが生まれたようだ。まあ、近所の蒸留所でドワーフたちが昼間から酒盛りしてバカ騒ぎしているんだ。「ああはなりたくない」という見本には事欠かない。


 ドワーフ、酒さえ絡まなければいい奴らなんだがな。しかし酒さえあれば協力的なのだから、それも長所といえば長所なのだろうか。

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