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スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話  作者: 明和里苳
第4章 脱出編

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第38話 街道整備その後

 時は流れて、俺は10歳になった。しかし、当初の予定である貴族学院への進学は見送った。なぜって、俺の身の回りがそれどころではなくなってきたからだ。


 順を追って振り返ると、あの後俺はデルブリュック公爵家に街道の整備をお願いした。転移陣でいつでも帰省できるとはいえ、移動が不便なのは御免だ。色々試行錯誤ののち、


「土壌改良→ロックウォール(水平方向、3m×3m)→○ココ」


 という魔法陣を編み出し、故郷の村から公共事業に従事する人員を募った。みんな村からほとんど出たことのない生活をしているので、最初は躊躇する向きもあったが、デモンストレーションを交えてプレゼンした結果、10名ほどの希望者が現れた。


 とはいえ、ロックウォールは土属性スキルのレベル3に相当する。いかに彼らが普段農業でスキルを使っているとはいえ、ロックウォールまで発動することができる者は3名にとどまった。小さな農地で自分たちの食べる分の作物を育て、年貢を納めるくらいなら、そうせっせとスキルを使わなくても良いのだ。最初こそ物珍しくて、あらゆる作物を貪欲に育てていたが、人間が刺激に飽きるのは早い。結果、スキルを使うこと自体に興味を持つ3名に絞れたのは、良いことだったと言えよう。


 


 さらに素晴らしいことは、農閑期には狩猟に出るのが通例の彼ら、レベルも申し分ない。レベルが上がるほどMP(まりょく)最大値も上がり、さらにMPを使い切るたびに上がっていく。幅6メートルの道路を1日で舗装できる距離は、仮眠や自然回復を含め、3人で80メートルほど。そして日を追うごとに、その距離は伸びていった。


 また彼らには、4キロごとに一里塚ならぬ道の駅を設置してもらった。


「ロックウォール(垂直方向、3m×3m)→○ココ」


「ロックウォール(水平方向、3.3m×3.3m)→○ココ」


 この2つの魔法陣を用意すると、簡単に要領を覚えて、道の駅を建設できるようになった。街道に面した辺には壁を置かず、奥に4枚、その横に2枚ずつ。その上に水平方向のロックウォールを展開して、屋根に。基本、ロックウォールのスキルで出した壁は岩盤のような質感で、最初から頑丈に出来ている。この辺りには地震の記録はないので、このままでも十分に使用に耐えるのではないかと思うのだが、後で視察について行って、こっそり転移陣と鉄筋を仕込んで回った。


 なお、彼らは各道の駅に寝泊まりし、作業の進捗に沿ってじわじわと移住しながら公都へと進んで行った。デルブリュック公爵の計らいで生活必需品は頻繁に運び込まれ、生活面も何不自由なく。予想を上回るペースで、着々と街道が舗装された。


 例の如く、魔法陣はアレクシス様の功績に。道路の整備はディートリント様の功績にツケてもらった。貴族の足の引っ張り合いは怖いものがあるが、幸いアレクシス様のご実家は謎の失踪者が多発しててんやわんや、しかも領地が王都を挟んで反対側にある。以前のようにあれこれ妨害が入る様子はなかった。




 のだけれど。


 足が引っ張られなかった代わりに、俺の手はあちこちから引っ張られた。王宮、デルブリュックさん家、アルブレヒトさん家、そしてドワーフの親方。そりゃあ、公爵領に立派な道が出来たら「うちもうちも」ってなるよね。あちこちの貴族から突き上げを喰らった王宮から、「一人でいいから寄越してくれんか」と泣きが入った。既にレベル3以上の土属性の魔術師はあらかた貴族に捕ま…雇用され、すべからく舗装事業に駆り出されている。馬車を走らせるための道路を作るのに馬車馬のように働かされるのは本末転倒と言えよう。


 もちろんデルブリュックさん家だって、街道を舗装したらハイ終わりとはいかない。領都は栄えているが、石畳が敷かれているのは一部のメイン街路のみ。立派な街道を見れば、誰だって「うちの前も綺麗にして」と言うだろう。しかし、開拓村の村民をおいそれと貸し出して、村の秘密を漏らすわけにはいかない。というわけでアレクシス様監修のもと、魔術師ブートキャンプが開催された。とはいえ、ブートキャンプといっても「ひたすら限界までスキルを使う」というだけなんだけど。各属性それぞれレベル1のファイアボール、ウォーターボール、ウィンドカッター、土壌改良の魔法陣を作り、MPが枯渇するまでスキルを使ってもらった。


「クラウス。魔法陣を使えば、誰でも一定のクオリティのスキルが使えてしまうんだが」


「こんなの大問題ですわよ?!」


 黙らっしゃい。他に優秀な魔術師を育てる手段が思い浮かばないのだから仕方ない。富国強兵は正義。未来のデルブリュック家への投資なのだ。手柄をなすりつけられたアレクシス様とディートリント様は、尊い犠牲ということで。




 それからアルブレヒトさん家。こちらはご出身の侯爵家ではなく、アレクシス様がご当主を務める伯爵家のほう。ここの使用人さんたちは、デルブリュック家同様に俺のレシピや脳汁の味を知っている。


 元来彼らは、アルブレヒト侯爵家からアレクシス様が引き抜いてきた「親・アレクシス派」というか「反・第一夫人派」と呼べるごく少数と、あとはデルブリュックさん家から派遣された人員で構成されている。常に暗殺の脅威に晒されていたアレクシス様とベルント様をお守りするため、みんな忠誠心の高い人たちだ。その彼らが現代日本の味と麻薬的快楽を知り、ほとんどアレクシス様と俺の狂信者みたいになってしまった。


「お帰りなさいませ、坊ちゃん!」


 みんな熱量がすごい。いろいろと秘密を漏らされては困るので、熱い忠誠心はとても嬉しいんだけど、これではまるでカルト集団だ。俺は身支度も終わらないうちに、「さあ新しいレシピを」と厨房に引っ張られたり、「先日お教え頂いた化粧品の試作品が」とメイド部屋に引っ張られたり。アレクシス様が、「これじゃあ主人が誰だか分からないな☆」と遠い目をしているが、匙を投げないで助けていただきたい。


 それだけじゃない。アルブレヒト邸には、王家をすっ飛ばして他家からタブレットの催促に使者がわんさか詰めかける。みんなそれっぽい用事を作って来るもんだから、始末に負えない。そしてそこに、物珍しい食べ物でも並んでいようものなら尚更だ。


 しかしそれらに輪をかけてしつこいのが、ドワーフの親方だ。


「お前ェさんは絶対ェこっちの道が向いとる。てか、こっちに進まなきゃいけねェ」


 親方の工房は、今やすっかり蒸留所になってしまった。とはいえ鍛治工房を訪ねるお客さんは後を絶たないので、お弟子さんのうち何人かがローテーションで鍛治を続け、残りはみんなで蒸留に精を出す始末。稼いだお金は原料となるお酒にほぼ全ツッパだ。それどころか、本国から噂を聞きつけたドワーフが工房に集い、結局郊外に大きな蒸留所を作ってしまった。そして蒸留したそばからガンガン酒盛りして、樽で熟成計画は未だに実現していない。


 しかし蒸留技術が安定し、蒸留酒の生産が軌道に乗っても、彼らはそれで満足しない。


「お前ェさんが繰り出してきた、雑味のない酒。あれこそ至高だ。あの神の水を俺たちの手で!」


 あの錬金で作ったエタノールは、アレクシス様が実験していてたまたま出来た奇跡の産物ということになっている。ウォーターボールでちゃちゃっと水を生成し、それに魔力を込めてエタノールに錬金すれば、ものの数秒で出来ちゃうなんて。しかも同じ要領で希少金属も出来ちゃうなんて。とても言えない。言えないのだ。


「えっとそれは…是非ドワーフの皆さんの手で…」


 だってほら、俺お酒飲めないし。子供ですから。てか、エタノールの原液なんて飲めねぇよ。


「そこを何とか!」


 しかし親方は、一歩も引かない。それどころか、本国からやって来たドワーフたちが一緒になってデルブリュック城に押しかけて、ものすごい熱量で迫って来る。親方が増殖した。助けて。




「こうなってはもう、亡命しかないじゃろうのう…」


 先代ことディートヘルム様が遠い目をしている。彼もどっちかっていうと「親方側」というか、大声で迫って来てはワガママを押し通す系の暑苦しい人だけど、その彼をもってしてドワーフ軍団には太刀打ち出来ない。


 もちろん彼が辟易しているということは、現当主のディートフリート様はとっくに白旗を上げている。アレクシス・ディートリントご夫妻はもちろん、ディートリント様のお姉様夫妻こと国王陛下と妃殿下もだ。あっ、元徴税官さんは今や子爵位を賜り、もうすぐアレクシス様と同格の「魔導伯」に引き上げられようかというところ。しかしいざ爵位を賜ると、他の貴族から「側室が必要だろう」と縁談をねじ込まれそうになり、お子さんは貴族学院で「あの魔法陣の」とちやほやされたりして、お家の中がてんやわんやらしい。本当ごめんよ。


 というわけで、俺もおいそれと学院に通っている場合ではなくなってしまった。国王陛下とデルブリュック公ディートフリート様には申し訳ないけど、俺とアレクシス様、ディートリント様、ベルント様、そして先代ディートヘルム様は、外交特使という名目で国外に脱出することとなった。まあ、脱出って言っても転移陣があるからいつでも戻れるし、旅に出たってほとんどの時間は辺境のあの1LDKで引きこもりになるんだろうけどね。


 スローライフなんて夢のまた夢。つくづく、異世界で平和に暮らすって難しいものだ。

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