9.「2箇所目」一時の休戦とうどんの時間
この作品はフィクションです。
どこまでも続く通路。前を逃げる魔物の私。後ろから追いかけてくる人間の少女。
ぱちん。
「はーーーいストップーーー!」
指を一つ鳴らすと、私はふわりとジャンプした。
「いっ!?!?!?」
猛烈な勢いで私を追い掛けていた少女が、ジャンプした私の下を駆け抜けていく。どうやら急には止まれなかったらしい。
「これが猪突猛進ってやつ?」
「誰がチョロ過ぎ行進だぁぁぁ〜〜〜………」
少女は走り抜けていってしまった。…いやいや、どれだけ思い切り走ってても、その辺で止まれるでしょ、普通
っていうか…チョロ過ぎ行進って、何?
「……………ーーーーーーっっっ!!!!」
走り去って姿の見えなくなっていた彼女が、走って戻ってきた。
「おかえり〜。」
「………っ、めぇなぁ!!!」
喉元を掴んでこようとした彼女をひらりとかわす。
「おっと。」
「だぁぁぁーーーっ!?!?」
勢い任せに掴もうとした手は空を切り、
バランスを崩した彼女は、
思いっきり転倒した。
「大丈夫?」
「あ…………、あが、………」
「いきなり人の喉元掴もうとするからだよ?…っていうか、掴もうとした勢いで転ぶとか、どんだけの勢いで掴もうとしたのさ?首がもげちゃうよ。」
「う…………、うっへー!!」
顔面からすっ転んだ彼女だったが、すぐに起き上がるとこちらに向き直った。
「いっつもいっつもいっつもひらひらひらひらかわしやがって!!たまには真正面からぶつかり合いたいとか思わねぇのか!!」
「思わない。ぶつかったら痛いし。」
「うるせー!!そんな意見は聞いてねぇっ!!」
「いや、聞いたでしょ…。」
行動も会話も勢い任せな少女。そんな彼女をまぁまぁとなだめる。
「まぁまぁ。そんなに怒鳴ってばっかじゃ疲れるでしょ?そろそろ休憩しようよ。」
「はぁ!?」
「ほら。あれが見えたってことは?」
視線で通路の奥を見やる。そこにあったのは、
湯気の立ち上る、木製の屋台。
「……………ちっ。」
舌打ち一つ。ふん!と鼻を鳴らすと、少女は屋台に向かって歩き出す。
「……………ふふ。」
無機質な通路が、いつの間にか、岩肌剥き出しの洞窟に変わっていることには、特に感想はないらしい。いや、そもそも気付いていない、のかな?
「いやぁ…、さすがに、ね?」
「お、」
「どーもー、アルジ。」
「いらっしゃい。いつもの二人だな。」
「一緒にすんなっ!!」
先に屋台に座っていた少女が睨みつけてくる。
これはいわゆる、
「照れ隠しってやつだね?」
「んなわけねぇだろっ!!」
顔を背けられてしまった。
素直じゃないなぁ、もぅ。
勢いが良すぎるのも考えもの。