341 戦いの意味(メルド視点)3
アンベール戦終結に向けて更新頻度上げております。
暗い話が続きますがもう少しお付き合いください。
アンベール王城には有事の際に王族が安全に王城を抜け出せるようにと、隠し通路や隠し部屋が存在する。
俺は今その通路をカリマー公爵と足早に歩いていた。
その隠し通路と隠し部屋には、高い王位継承権を持つ王族にしか伝えられないところもあった。
今でこそ俺の王位継承権は限りなく下がったが、幼少期の頃はかなり高かった。そのため俺は幼い頃祖父に連れられて隠し通路や隠し部屋を教えてもらったことがあった。
おそらくだが、その隠し部屋にサマールは何か隠しているはずだ。
さきほどの映像に映ったサマールには、城を反乱軍に包囲されたというのに、追い詰められたという悲壮感がなかった。
まだあいつにはこの状況を逆転するだけのモノがあるのだろう。
このアンベール王城は増改築を繰り返してきたため、複雑な作りになっている。
迷路のような分かれ道が続く隠し通路を記憶通りに辿っていくと、幼い頃に教えられた扉が見えた。
その扉を開けると、天井の高い空間に出た。
もともとここは数百年前、王城内に大聖堂として建築されていたのだが、建築途中で女神様信仰を捨てたため、そのまま封印されたという経緯がある。表向きの扉は塞がれ外から出入りすることは不可能な作りとなった。外から入れないということは王族にとって都合が良い。やがて大聖堂は王城の複雑な作りの中に取り込まれ、秘密の部屋として王族だけが知る隠し通路に繋げられた。そして王族のいざという時の避難場所となり、時には秘密のものを隠す場所となったのだ。
私とカリマー公爵がここに着いた時、ちょうどサマールと腰巾着らも別の入り口……王の執務室から繋がる道の扉から入ってきたところだった。
やはりサマールはここに何か仕掛けていて、作動させるために来たのだろう。
「お前たちがなぜここに!?」
サマールが俺とカリマー公爵を見つけ、驚愕にその紫色の目を見開く。
まあ、そうだろうな。俺はこれまで隠し部屋や隠し通路があることを知らないふりをし続けてきた。この隠し通路を教えられること自体が、先の王や王族から、『王位に限りなく近い者』として認められた証なのだから。
「忘れたのか? 俺とて王族の一人。いざという時のためにここに通じる隠し通路を教えられていたんだよ」
「ちっ、誰かは知らんが余計なことを」とサマールが吐き捨てる。
そして俺を睨みつけながら、
「メルド! どうやって結界を破った!」と叫んだ。
「見たんだから分かっただろ? 浄化魔法を使ったのさ。アースクリス国の手を借りてな」
「この売国奴が! あんな奴らと手を組むとは!」
「あんな奴ら? アンベールを含む三国がなぜこのアースクリス大陸にあると思っている。かつて住まう地を無くし、流浪の民となった我らの先祖を受け入れ、国土を分けてもらったがゆえだろうが!」
「笑止! 我らは至高の民だ! 誰よりも優れた民族! なればこそ、この大陸を支配して然るべきだろう! 何故にそれが分からない!? 我らがいる地は我らだけのものなのだ!」
はあ。こいつには何を言っても無駄だったな。話が通じない。
「……ああ。お前はそういうやつだったな。セーリア大陸を侵略しようとした先祖の気質そのものってやつか……。改めて見ると本当に酷いな」
セーリア大陸でも、そしてアースクリス大陸においても、先住の民と調和するつもりは最初から念頭にない。
『ここは自分たちだけのもの。だからそれ以外の者はすべて排除する』と、自分勝手に決めて、侵略を仕掛け虐殺を繰り返した。
だから先祖はセーリア神の怒りを買って追い出されたんだな。恩知らずの上、思い込みが激しく厚かましいことこの上ない。銀色の神様が『視界に入れたくない』と、俺たちの先祖を遠くに追い出したというその理由が分かった気がする。
そう呟くとカリマー公爵が深く同意した。
「同感ですな。しかし女神様からのご神託は『やり直しは一度きり』。三柱の女神様は寛大ではあらせられるが、セーリアの二柱の神様よりも手厳しいと聞いています。やり直しの機会が一度きりである以上、もうアンベール国は間違いを犯すことは許されない。なれば間違いの温床となるものを取り除かねばなるまい」
「ああ、そうだな」
あの北の森を脱出し、アーシュさんと一緒に王城近くにある女神様の神殿に初めて訪れた時のこと。
俺とカリマー公爵、そしてクロムは女神像の前で跪き、これまでアンベール国が犯してきた様々な罪に関して、心から謝罪をした。
そして、これからはアンベール国を正しき方向へと導くと誓った時、不思議な声が脳裏に響いたのだ。
『やり直しは一度きりよ』――と。
それが誰からのメッセージなのかは、すぐに分かった。
女神様は長きにわたりアンベール国がしてきた過ちを許し、俺たちにやり直しの機会をくださったのだ。
……ただそれは、『一度きり』という厳しいものであったが。
そのためには、目の前にいる自分本位の考えに凝り固まった奴を排除しなければ、その先を望めないのだ。
「は? 神託だと!? 何をふざけたことを! この国の王である私に下されない神託が、末端王族のメルドになどおりるわけがない! 私は至高の一族アンベールの王! 誰よりも賢く誰よりも敬られる存在! 誰よりも神に近い存在なのだからな!」
その言葉に思わず固まった。……まさかここまで思いあがっていたとは思っていなかった。
「お前、正気か? ……自分が神に近い存在って、本気で言ってるのか?」
「……ここまで傲慢だったとは思わなかったですな」
カリマー公爵も唖然としている。
「のこのこと現れたのが運の尽き! ここで貴様らの息の根を止めてやろうぞ!」
サマールはそう叫び、側にいた側近を突き飛ばすと、背後からその身を短剣で貫いた。
「「……っ!」」
一瞬の出来事にだれもが固まる。
刺された者も、何が起こったか分からなかったのだろう。……背後から心臓を一突きにされた男は、床に崩れ落ち、驚愕に目を見開いたままこと切れた。
「へ、陛下!! 何をなさいます!」
腰巾着の臣下たちが悲鳴を上げた。それに対しサマールは平然と答える。
「言ったであろう。どんなに不利な状況であろうと、ひっくり返す秘策があるのだと。その力を得るには命が必要なのだ!」
「で、ですが……その者は陛下が幼き頃からずっと付き従ってきた者でございましょう! その者を……! なにゆえそんなことができるのですか!」
「……私のすることに意見するつもりか? 捧げる命は一つでなくともよいのだぞ?」
臣下たちは血に濡れた剣を手に、怪しげに嗤う己の主を見て、震えた。
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