第一章 キング・オブ・クラブ開催
第一章 キング・オブ・クラブ開催
「あ!十円め~けっ!」
満子ちゃんが十円玉目掛けて一目散に疾走した。そして、周りをまるで餌を守る犬の様に敵意をむき出しにして威嚇する。
誰も来ないのを確認すると素早く十円玉を拾い上げた。
「はぁ~ラッキーぃい。十円様を拾ったわ。私は最高に幸運な女だわ」
まるで絶頂しているかの様な恍惚とした表情をしている。
「十円程度で良くそんなに喜べるね」
僕こと、御堂太一は呆れた様にそう呟いた。すると、満子ちゃんが鬼の形相でこちらを振り返った。
「あんた今、十円様を、十円程度って言ったわね?」
物凄い勢いでこちらに詰め寄ってくる満子ちゃん。正直怖い。
「い、言いました……」
「はぁ!あんた馬鹿じゃないの?あんたがどうして今生きていれるか、分かってんの?」
「え、えっと……両親のおかげ?」
「ばっか!話の流れを考えなさいよ。普通この流れだとお金様でしょ!あんたはこのお金様に生かされてるのよ!」
満子ちゃんはさっき地面から拾った汚れた十円玉に頬ずりする。
「はぁ~冷たくて気持ちいい。感じちゃう……」
トロ~ンとした目をする満子ちゃん。周りを歩く人達が、不審な目で眺めている。それに満子ちゃんは気付かず、キッとした目をこちらに向ける。
「金、カネ、かね、お金様なのよ世の中は!そこんとこ、分かってんの?あんたわ!」
満子ちゃんが、唾を飛ばしながら怒鳴る。黙っていれば可愛い顔なのに台無しだ。
「わ、分かりました」
僕はあまり納得してないけどそう言った。満子ちゃんに逆らうと後が怖いからだ。
「ふん!分かればいいのよ……」
満子ちゃんはそっと、財布の中に十円玉を入れた。
彼女の名前は小金井満子。満子ちゃんは僕が通う高校でも一番可愛い。学園でアイドル的存在の満子ちゃん。しかし、彼女には一つ、非常に変わった所があった。それは。
お金への執着心が異常だと言う事……。
彼女のお金に対する執着心は半端ではない。高校にはいつも水筒を持参し、お弁当も持ってくる。もちろん、これくらいなら、大した事では無いだろう。しかし、もちろんこれくらいで
は無い。
僕は、満子ちゃんとは保育園からの付き合いだ。その頃から満子ちゃんは可愛く、そしてケチだった。彼女がお金を使っていてる所を僕は一度も見た事が無い。
とにかくお金が大好きで、可愛い女の子。それが満子ちゃんだ。
「みぃちゃん……」
弱々しい声で、スーツに髭面の男が名前を呼ぶ。しかし、それに答える者は居ない。男は机の下、椅子の後ろ、ゴミ箱の中まで漁りながら、みいちゃん。みいちゃんと必死に探している。
「何やってんすか?校長」
すると、いつから居たのか、ジャージに竹刀を持った男が若干気持ち悪い物を見る目で、男、つまり校長を見ていた。
「おお!体育の古市先生!聞いてください!私の!私のみいちゃんが居ないんです!」
髭面の校長が、ジャージ姿の体育教師、古市に詰め寄る。それに古市は顔を引きつらせながら、後ずさった。
「ああ、校長が飼っていたペットの猫ですか……校長、学校内でペットは辞めてくださいとあれほど……」
「ばかもの!みいちゃんはペットじゃない!家族だ!」
ペットという言葉に過敏に反応する校長。
「す、すみません」
理不尽な仕打ちに古市はかなりイラっとしたが、それは顔には出さない。こんな変な校長でも、上司なのだ。これが社会のルールなのだ。
「ああ、どうしよう。どうしよう。みいちゃん。迷子になっちゃたのかな?ああ!きっと今もお腹を空かしているに違い無い!私に会いたくて寂しいに違い無い!」
「そんな事は無いと思いますけど……」
ぼそっと呟く古市。
「ああ、駄目だ!不安で仕事に手がつかない~!もうお終いだ!私、本日付けで校長をやめる~!」
わあわあ、子供の様に駄々を捏ね出す校長。古市は、面倒に巻き込まれないうちにそっと校長室を出ようとした。
「どこに行くんですか?古市先生?」
ガシっと物凄い力で肩を掴まれる。古市自身、体育教師故、力には自信があったが、そんな物とは比べものにならない程の力。
「え~ちょっと次の授業の準備を……」
冷や汗を垂らしながら古市が言うと。
「そんな物、どうでもよろしい」
ぴしゃりと校長に話をぶった切られる。
「古市先生。そんな事より。このチラシを学園中に配りなさい」
「……チラシ?」
校長は一枚の紙を、古市に手渡した。古市はそれを受け取り目を落とす。
『学園最高の栄誉を競え!賞金総額百万円!キング・オブ・クラブ開催!』
「…………何ですかこれ?」
「見れば分かるでしょ?学校行事ですよ。今日開催の」
「いや、分かりませんよ!ていうか、ありえないでしょ。今日開催って!誰も知りませんでしたよ!どうするんですか授業は!」
「授業より大切な事を教えるのが、教師の仕事じゃないんですか!」
「逆切れですか!ていうか、言ってることはまともだけど、別に今日教える必要は無いでしょうが!」
「私は今日みいちゃんと会いたいの!」
「本音出た!すげえ勝手だよこの人!」
「いいから、続きを読みなさい。古市先生。疑問はそれからでもいいでしょう」
校長がともすればヤクザの様な眼光で古市を見る。古市はしぶしぶチラシの続きを読んだ。
「え~と、ルールはただ一つ、私のペットのみいちゃんを探し出して、私の元に連れて来る事。可愛らしい子なので一目見れば分かります……」
チラシの表紙にでかでかとみいちゃんと校長が頬ずりしている写真が貼ってある。校長は満面の笑みだが、みいちゃんは滅茶苦茶威嚇している。
「なお、みいちゃんを不用意に傷つけた物は退学処分にする……って!処分重い!何この企画!滅茶苦茶だな!」
古市は苦々しい顔で校長にチラシを突き返す。
「校長……いくら何でも、これは無茶ですよ。こんなのしたら絶対問題になります」
しかし、校長は全く表情を変えず、古市を見た。
「ほう……問題になると?」
「ええ、常識的に考えてそうでしょ。第一高校生に賞金っておかし……」
そこで、古市の言葉が不意に途切れる。
「何ですか?校長、その顔は」
古市がそう言う校長の顔は、不敵に笑っていた。まるでその表情は悪魔の様だった。人間を悪事に誘う悪魔の様な。
「ふふふ、先生が常識を語るなんて可笑しい事も有ったもんですな~」
校長は懐から一枚の写真を取り出した。
「こ、これは!」
古市の顔から血の気が引いた。
それは、体育倉庫から出てくる古市とこの学園の女生徒。二人は笑い合いながら手を繋いでいた。
ぶるぶると体が震える古市。そんな古市に、校長は肩に手を回した。
「いけませんね~教師が神聖な学びやで、こんなふしだらな事を~」
「…………お、脅す気ですか?わ、私を……」
その言葉に校長は頭を抱えて笑う。
「脅す?私が?あはははは!そんな分けないでしょ?古市先生は大事な職場の仲間じゃないですか……ただ」
肩を握りしめる手に力が篭る。苦痛で古市は顔を歪める。そんな古市の耳元に、校長は囁きかける。
「ただ、少し私に協力してくれればいい……」
悪魔の囁き。協力すれば、見逃すしかし、協力しないときは。
「……分かりました」
古市は絞り出す様な声でそう言った。彼は理解した。この男に自分は逆らえないと、自分は一生この男の下で生きていくしかないと。
「そうですか!やってくれますか!それは心強い。ではさっそく準備の方をよろしくしますよ」
校長は古市の肩をぽんぽんと叩くと満足そうに笑う。
校長の動機はともかく、古市はこの校長がこの学園の校長たる所以を垣間見て、冷や汗を流しながら深く頷いた。
「えー何これ?」
「今日こんな行事あったっけ?」
「ちょっと、この校長の顔キモいんだけど」
ざわざわざわ。僕と満子ちゃんが学校の校門をくぐって下駄箱に来た時だった。何やら掲示板の前に大勢の生徒が集まり賑わっている。
「何だろう?何かあったのかな?」
僕は隣に居る満子ちゃんに話しかける。
「さあ?どうでもいいわ」
しかし、満子ちゃんは興味の無さそうな顔で、さっさと靴を脱いで、上履きに履き替える。
僕は置いていかれない様に急いで靴を履き替えた。
満子ちゃんは僕が履き替えるのを確認すると、そのまま歩き出した。そして人ごみには全く興味を見せず、その後ろを通り過ぎようとした時だった。
「でも、凄くねえ?百万円とか書いてあるぜ」
ぽつりと響いたその声を僕が聞いた瞬間。目の前を歩いていた満子ちゃんが……消えた。
「あ、あれ?満子ちゃん?」
僕は慌てて左右を見渡した。すると、満子ちゃんは、さっきしゃべっていた男子生徒の胸倉を掴み、般若の様な顔をしてその生徒の襟首を締め上げていた。
いつの間にあんな所に?驚くべき速さだ。人間離れしている。
「百万円様って何?」
満子ちゃんは低い声で男子生徒に尋ねる。
「ひ……は、離して……」
満子ちゃんよりも二回りも大きい男子が怯えきった苦しそうな顔で言う。
「いいから、話なさい。あんた、百万円様ってどういう事よ?」
すると男子生徒はガタガタと震えながら掲示板を指差した。満子ちゃんは手を離すと掲示板に向かって歩く。すると、さっきまで居た人垣が、波を割る様に道を開けていく。誰もが顔に
恐怖の色を宿していた。
満子ちゃんは掲示板の前に行くと、腕を組み仁王立ちをして、貼られているチラシを見た。
満子ちゃんは掲示板を凝視したまま、ピクリとも動かない。やがて、周りがざわざわとざわついて来た。
僕はまるで結界の様に人が近づかない満子ちゃんの元に歩いていく。そして、仁王立ちで立っている満子ちゃんの顔を覗き込んだ。
「うわ……」
僕は思わず引きつった様な顔をした。僕が覗き込んだ満子ちゃんの顔。
その顔は恍惚に歪んでいた。口から涎をダラダラとたらし。目の中はお金の形にキラキラと
輝いている。人間の金欲を集約した様な顔をしている。
花の女子高校生が人様に見せられない様な顔をしていた。
「満子ちゃん……満子ちゃん!」
僕は見るに耐えず、満子ちゃんの肩をゆさゆさと揺さぶった。
「…………はぁ!」
すると、満子ちゃんは、正気に返った様に声をあげると、キラキラした目で僕の方を見た。
「太一!見なさい!賞金百万円様よ、百万円様!」
チラシを指差して興奮した様に叫ぶ、その様は子供の様に可愛らしい。動機が不純だけど。
僕は満子ちゃんが指差した方を見た。
校長先生の飼っているみいちゃんを探し出して、連れて来たら賞金百万円……確かに書いてある、しかし、学校がこんな事をやっていいのだろうか?ギャグなのだろうか?しかし、それ
にしては何だか本格的だった。
その時だった。バシバシバシと、竹刀を叩く聞き覚えのある音がする。
「おーい!お前ら!何やってる。早く教室行け!」
それは体育教師の古市先生だった。蜘蛛の巣を散らす様に生徒が去っていく。
「おい、お前らも戻れ。ホームルームが始まるぞ」
古市先生が掲示板の前に陣取っている僕らに話しかけて来る。
「先生、このチラシ本当なんですか?賞金百万円って」
先生は若干戸惑った様な顔をすると、苦々しい顔で頷いた。
「ああ、そうだ。それの説明をホームルームでするつもりだったんだがな。まあ、説明も何も有ったもんじゃないんだが」
そう言う古市先生の顔は浮かない物だった。しかし、その先生の前に物凄い勢いで迫る人影が。
「本当?本当に百万円様が貰えるの?」
満子ちゃんだった。目をキラキラさせて古市先生を見ている。その有る意味邪気の無い瞳に、古市先生の状態が仰け反る。
「あ、ああ……本当だ」
「いひ……いひひひひひひ!」
すると不気味な笑い声が。僕は見る。やっぱり満子ちゃんだ。目をトロ~ンとさせ、視線はイっちゃてる様に空中を彷徨っている。
「百万円様……お風呂……お風呂に百万円様を入れて、そこで泳ぐの……」
ぶつぶつと呟く満子ちゃん。何故百万円の使い方が泳ぐなのだろうか?使うとかそういう発想では無い所に、満子ちゃんのお金への執念が見える。
いつまでも奇妙な笑い声をあげたまま、夢の中を彷徨い続ける満子ちゃんを、僕と古市先生の二人は気味悪そうに見ていた。
「…………御堂」
「はい、何ですか先生?」
「こいつ、連れて行け……」
「……はい」
僕は満子ちゃんを抱える様に教室まで運んでいった。先生にはその時、特別に食品搬入様のエレベーターの使用が許可された。
ホームルームの教室で、僕らは担任の先生に、掲示板に貼られていたチラシについて説明された。
この行事の趣旨としてはナンバーワンの部活、クラブを決めると言う物らしい。そして肝心の賞金百万円という金額だが名目上、部費として計上されるらしい。それはそうだ。さすがに
個人に百万円って、意味が分からない。
帰宅部は各々好きな部活の手伝いをする様にというお達しだった。報酬はきちんと山分けされるから、しっかり働くようにとの事だ。
説明を終えた先生は古市先生と同じように少しやつれていた。何があったのだろうか、いつもは生徒に笑顔を振りまいているのに……。
「じゃあ、一時間目からスタートだから、皆、頑張って頂戴」
そう言ってスタスタ去っていった。その顔は青ざめていて、僕達に付き合っている場合では無いと言っている様だった。
クラスは騒然としていた。ざわざわと、まずは会議だとか、猫を捕まえる作戦を考えようとか、百万円を何に使うかで賑わっていた。僕は正直お金にはあんまり興味が無いのでそんな様
をぼんやり眺めていると。
「何だか凄い事になっちゃったね……」
隣の席から僕に話しかけてくる可愛らしい声がして、僕はそちらを振り返る。
肩にかかる位の黒い髪の毛、おっとりとした目には眼鏡をしている。大人しい可愛らしい容姿をした女の子。しかし、そんな大人しい容姿とは反比例する様に自己主張する部分が。
それは胸だ。
ブラウスを着た上からもはっきりと分かる程の大きな胸。今もそれを無意識だろう。机の上に乗せている。男子の視線を釘付けにする様な胸。
そんな魅惑の体と、おっとりとした性格を同居させる彼女の名前は枝葉翠、
文芸部所属の可愛らしい女の子だ。
彼女も恐らく賞金には興味が無いのだろう。困ったような顔をしている。
「そうだね~」
僕はのんびりとした口調で答える。
ちなみに僕の右隣がこの枝葉翠ちゃん。左隣が小金井満子ちゃん。タイプの違う美少女二人に僕の席は挟まれている。
困っている翠ちゃんとは対照的に左隣の満子ちゃんは未だトリップから帰って来ない。
「ねえ、翠ちゃんは百万円手に入れたら何に使いたい?」
僕は興味本位でそう翠ちゃんに尋ねる。
すると翠ちゃんは困ったように人差し指を唇に押し当てる。
「う~ん。何かな~。う~ん。とりあえず部室に本棚が欲しいかな。それで、自分が好きな本を並べるの、それを放課後読めたらいいかな~」
満子ちゃんとは違い、何とも欲の無い答えが返ってくる。
翠ちゃんの所属する文芸部の部員は翠ちゃん一人だ。だから、今回の催し物にも積極的では無いのだろう。
「そっか~いいね。そしたら、僕にも読ませてよ」
「うん。いいよ~」
僕らは二人でのほほんと笑い合う。
「その願い叶えてあげるわよ」
しかし、そのほんわかした空気を切り裂く様に、聞き馴染みのある凛とした声。
僕と翠ちゃんの視線の丁度中間に満子ちゃんが立っていた。
「どうしたの満子ちゃん?」
戸惑っている翠ちゃんの代わりに僕が尋ねる。
「だから、翠の願いを叶えてあげると言ったのよ。本棚が部室に欲しいんでしょ?」
「あればいいとは思うけど……」
翠ちゃんは困った様な顔をして答える。
「じゃあ決まり!太一。私達は今から文芸部に入るわよ!」
「ええ?いいけど……文芸部って部員は翠ちゃんだけだよ?僕らを合わせても三人、野球部とかに勝てるとは思えないんだけど……」
「馬鹿ね!だから良いんじゃない!人数が少なきゃ、それだけ報酬はでかいわ。それに、猫一匹くらい探し出すのはわけないわ。私と太一の二人で充分よ!」
「ええ!僕も探すの?」
「当たり前でしょ!何よ!嫌なの?」
「嫌じゃないけど……」
「じゃあ決まり。報酬は私が八で翠が二でいいわね?」
「何その比率~僕の報酬が無いし。満子ちゃんだけ八だし」
「いいでしょ、あんたは私の手下だし、翠は本棚が欲しいんだけなんだから、二十万有れば、充分でしょ?」
何故か僕が手下にされてしまっている。
「それに、私はお札様のお風呂に入らなければならないのよ!八割でも足りないくらいだわ!」
無茶苦茶な理屈を言う満子ちゃん。
僕は不快な思いをしてないかと思って翠ちゃんを見る。翠ちゃんは案の定、困った様な顔をして口を開いた。
「私は、本棚が出来るならとっても嬉しいけど……御堂くんが貰えないなんて可哀想だわ……」
満子ちゃんとは違い、優しい事を言ってくれる翠ちゃん。
「それなら大丈夫よ!太一は私の物なの。だから太一が手に入れる物は私の物なのよ!」
訳の分からない事を言って、僕の頭を抱え込む様にして抱きしめる満子ちゃん。小さくは無い柔らかい胸が頬に当たる。
周りの男子からの怨嗟の視線が突き刺さる。ふと視線を上げると、正面に立つ翠ちゃんも若干悲しそうな顔でこちらを見ていた。
僕は周りに愛想笑いを振りまきながら、満子ちゃんから離れた。
「絶対に猫は私が見つけて、百万円様をゲットしてやるんだから!」
満子ちゃんはそんな周りの様子も気にしないで、高らかに宣言した……。
「御堂君、私も探すの手伝うよ?」
翠ちゃんが申し訳無さそうにそんな事を言ってくれる。
「大丈夫だよ。どうせ、捕まえられっこないし、僕と満子ちゃんだけで探してくるから、翠ちゃんは部室で本でも読んでてよ」
一時間目の開始と同時に、生徒たちは教室から飛び出して行った。普段授業中の使用は禁止されている携帯電話も今日は解禁らしい。学園始まって以来の活気に満ち溢れていた。
そんな中、僕と翠ちゃんは教室に残って話していた。教室には今、僕と翠ちゃんしか居ない。
満子ちゃんは僕に死ぬ気で探すようにとそれだけ言い残すと、クラス中の誰より早く飛び出して行った。その形相はまさに鬼神の様で、あんなに殺気を出していたら、猫は確実に逃げて
いくだろうなと僕に確信させる物だった。
僕がそんな事を考えていると、翠ちゃんが真剣な顔で僕を見つめていた。
「どうしたの?翠ちゃん?」
僕がそう聞くと、翠ちゃんは迷ったように手を前に出したり、戻したりした後、意を決した様に口を開く。
「ねえ……御堂君と満子ちゃんって付き合ってるの?」
僕はあまりに唐突な質問にしばらく呆然とすると、可笑しくなって笑ってしまう。
「あははは!そんな分けないじゃない」
「そうなの?でも、御堂君と満子ちゃん。いつも一緒に居るでしょ?」
「まあ、満子ちゃんとは幼稚園からの一緒だからね~でもそれだけだよ」
「本当?」
「うん。本当だよ」
僕があっけらかんとそう言うと、何故か翠ちゃんはほっとした様な顔をする。
「じゃあ……私にもまだチャンスはあるよね」
翠ちゃんが何かをポツリと呟いた。僕は良く聞き取れず、もう一度聞き返そうとしたその時。
『ピピピピピピピ』
特に着メロを設定していない僕の携帯の電話が鳴った。着信の画面を見ると、そこには満子ちゃんの文字が。
「ごめんね」
僕は翠ちゃんにそう断って、携帯電話に出た。
『どこほっつき歩いてんのよあんたは!』
通話を押した瞬間に聞こえてくる怒鳴り声。
「ごめん満子ちゃん。今、翠ちゃんと教室だよ」
『はぁ?あんた何やってんのよ!まだ教室ってやる気あんの?』
「もちろんあるよ。すぐ行く」
『あったり前よ!柔道場の前に居るから十秒以内に来なさいよ!いいわね!』
それだけ言うと満子ちゃんはプツリと携帯を切った。
僕は翠ちゃんを見る。
「ごめんね。満子ちゃんが怒ってるみたい。もう行くね」
「うん。気をつけてね」
翠ちゃんは少し微笑む。
僕は手を振って教室を出た。




