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口裂け女は整形したい  作者: 一ノ瀬 このは


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3/3

第4話 手術日

カウンセリングから、二日後。


その日もユキは、いつものように路地へ足を踏み入れた。

あれだけ怖かったはずなのに、もう何も警戒していない自分に、ふと気づく。

慣れというのは、おそろしい。


路地に入ると、女が居た。

落ち着きなくその場をうろうろと歩き回っていて、ユキの姿を見た瞬間、ぱっと顔を上げる。

マスクの上の目が、きらきらと輝いていた。


「ユキちゃん!」

「うわっ、は、はい」


女がずんずんと近づいてくる。

そして、堰を切ったように喋りだした。


「聞いて!カウンセリング、行ってきたの。

 それでね、先生に診てもらったら、治せるって!ほんとに、治せるって言われたの!

 こんなの、絶対無理だと思ってたのに、最新の技術ならいけるって、傷の縫合となんとかかんとかで、何回かに分ければちゃんと閉じられるって、それで——」

「お、落ち着いて、落ち着いてください」

「ごめんなさい、つい。でも、でもね、嬉しくって」


女は胸の前で両手を握りしめて、飛び跳ねんばかりだった。

あの初日の、泣きそうに歪んだ口元と同じ人物とは、とても思えない。


「手術の日もね、もう決まったの。来週の、水曜日」

「えっ、来週なんですか?」

「キャンセルが出たんですって。早いほうがいいって言ったら、すぐ入れてくれて」


よっぽど待ちきれなかったのだろう。

気持ちが、声の弾み方から伝わってくる。


ユキはその勢いに少し気圧されつつ、


「あ……うん……よかった、ですね」


と、引き気味に相槌を打つことしかできない。


ひとしきりまくし立てて、ようやく女は、ふう、と息をついた。

そして、不意に居住まいを正す。


「……ユキちゃん」

「は、はい」

「ありがとう。本当に、ありがとう」


さっきの浮かれた声とは一転。

真面目な声で言い、深く頭を下げた。


「ずっと諦めてたの。こういうものなんだって。

 もう、しょうがないんだって。でも、あなたが声をかけてくれたから」

「い、いや、私は別に、そんな……ただ、調べただけで」

「それでも。あなたがあのとき、逃げずに『どうしたんですか』って聞いてくれなかったら、私、今もあの路地で、同じことを繰り返してただけだと思う」


ユキは、少し照れくささを感じつつ声をかける。


「……手術、うまくいくといいですね」


女は顔を上げて、マスクの上の目を、ふにゃりと細めて笑った。


「うん。いってくる」


そう言って、くるりと背を向ける。

路地の奥へと歩いていくその足取りは軽やかで、どこか弾んでいた。


コートの裾が、夕陽の中で揺れる。

ユキは、その背中が見えなくなるまで見送っていた。

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