神様に出会った日
ふわふわとした場所にいた。太陽の光がピカピカと輝いて、優しい風が頬を撫でる。土の匂いが近くにあって、同時に草の匂いもする。ここはどこだろうか。そう思って体を起こす。
私はベル、鈴木ベルと言う名前の女の子だ。名字が漢字で名前がカタカナであることから気が付く人もいるかもしれないが、ハーフだ。日本人とアメリカ人の。髪の毛は金色、瞳は緑色。でも使う言葉は日本語だけ。
学校に通っていたころは、髪の色とか目の色を異端みたいに言う子供がいた。でも私は正しく日本の生まれの日本育ちだったし、ちょっと付き合えば見た目だけだってすぐわかってくれた。
あいにく絶世の美人と言うわけではなかったが、周りにない色と言うのは惹かれやすいのか、告白も適度にされてきた。でも私は誰かとお付き合いする気持ちにはなれなくて、そのすべてにお断りをしてきた。女の子たちに嫌みを言われたこともあったけれども、私には気が強くて優しい幼馴染の女の子が居たからスルー出来た。
大学生になってから私は幼馴染の影響で小説や漫画を読むようになった。ゲームは隣で見てるだけのほうが好きだったけれども、いろいろ見てきた。特に魔法を使った物語が好きで、幼馴染に薦められたものは全部読んでいた。
ちょっとだけ、自分でも書いてみようかなと思った。そう思った日に私はストーカーに襲われた。大学生になったと同時に一人暮らしを始めたところ、ストーカー被害が始まった。日のあるうちに帰宅して、出来るだけ人通りの多い場所を通すようになった。でもそのストーカーは私に向かってナイフを突き出してきた。
一瞬だったな、と、私は自分の胸に手を当てた。そのストーカーは昔自分を変な髪だと言ってきた男の子が成長した姿だと気が付いたのはいつだろうか。あの頃よりうんと太っていて、息が荒くなりながら近づいてきたのは本当に怖かった。けれどもそいつから逃げなかったのには訳があった。幼馴染が、背後から私の名前を呼びながら駆け寄ってきたのに気が付いたから。
避けたらきっと幼馴染にナイフが向かうと気が付いた。だから、避けなかった。私は運動神経があまりよくなかった。相手を拘束する手段がなかった。だから、そのナイフを受け入れた。
今思うと、幼馴染は空手を習っていたし、以前にも私を襲った痴漢相手に堂々としていた。あんな素人のナイフさばきなんて目じゃなかったはずなのに。私でも幼馴染を守れたと胸を張れるんじゃと、勘違いをしてしまった。
刺された後のことは覚えていない。
「あら、起きたの?」
ちょっとスパイシーで、でも柔らかな匂いがした。風の吹く方向を見れば、そこには綺麗な人がいた。
「……神様?」
真っ白な髪の毛、真っ白な肌、真っ白な服。けれども髪の毛にも服にも惜しみなく色とりどりの生花が飾られていて、瞳はそんな花々の色をちりばめていた。神様としか、言いようのないほど美しい人だった。
「おはようベル、よく眠れた?」
「は、はい」
「痛みとか、だるいとかもない?」
「……あ」
痛み、と聞いて私は自分の胸をまた触った。そこは痛くはない、けれどもナイフが刺さった生々しい感触があった。その違和感はあるけれども、言うほどでもない。そう思っていたが、神様の手が私の手に重ねなり、暖かな光に包まれた。
「ベル、貴女は死にました」
「……はい」
正直にそう言った神様は、微笑みを崩さなかった。私は神様の顔を見ながら、その次の言葉を待った。
「ですが貴女は大切な人を守りましたね」
「え、と、でもあいつは私を狙っていたし」
「あそこであなたが避けていたら、貴女の幼馴染は亡くなっていました」
え、と声を上げてしまったのを胸を押さえていないほうの手で自分の口に手を当てた。
「貴女の幼馴染は正義感の強い方、だから、貴女が避けた後あの男を拘束しようとして前に出て、貴女の代わりに刺されます」
「――っ!」
「そして彼女の後は貴女が」
神様が空を見上げると、そこに丸い、水晶でできたレンズのようなものがたくさんあった。その中で一番大きなものに、血まみれになって倒れている私と幼馴染の姿があった。
「あるいは勢いあまってナイフが男に刺さってしまい亡くなり、彼女は近くの交番に自首し、貴女の元には帰らなくなります」
「そんな……そんな……」
「あるいは……、またあるいは……」
レンズにはいろいろな可能性があった。幼馴染が私をかばって亡くなり私が男を殺す可能性。刺された私がナイフを自分で抜いて男を殺して自分も死ぬ可能性。どれも、これも、誰かが死なないと終わらない可能性ばかりだった。
「必ず二人以上が死ぬ可能性がありました。しかし貴女が選んだ選択が、犠牲を貴女一人だけにした」
ぴかっと光ったレンズには、幼馴染の姿があった。しかし私が知っている幼馴染よりもうんと高齢になっているように見えた。それに、彼女の服装は……。
「彼女は貴女を助けられなかったことに悔み、警察官になりました」
大学を辞めて警察学校に入り、そこから現場を経て上り詰めていくのが断片的に映されていく。背筋が伸びて鋭い目つきで前を見つめる彼女が、とてもとても美しかった。
「特にストーカー被害に悩む女性の保護に尽力し、またストーカーの加害者にも精神的なケアを求め続けました。彼女は定年退職に至るまでそれを続け、女性の希望とも言われました」
彼女らしい、と思った。そして彼女が私の死で職業を選択したという事に心が痛んだ。また、神様の手が温かくなった。
「貴女のおかげです、とは言いたくないですが、でもたくさんの人が救われる結果となりました」
私が死んだおかげ、と神様は言わなかった。その言葉に私が傷つくと思っての事だろう。それはいいのだ。だって、今ようやっと、私の胸には誇らしさでいっぱいなのだから。
「貴女には選択肢をいくつか用意しました」
神様の手が私からそっと離れる。そうして私の目の前に指を一本立てた。
「ひとつめ、同じ世界に生まれ変わること。今からだと、彼女の娘に生まれ変わることもできます」
「え、そんなこともできるんですか!」
「貴女が望めば」
神様がにこにこ笑って、そうして立てる指を一本増やした。
「ふたつめ、この世界――天国で、私と過ごすこと」
「神様と?」
「ええ、貴女は天使になれる素養がありますから」
自分が天使になる?と思って浮かぶのはどうしても半裸で赤ちゃん、弓矢を構えたキューピットの姿だった。神様は続けてもう一本指を増やした。
「みっつめ、別の世界に転生すること」
「えっ!」
「ふふ、貴女ならこれに食いつくと思ってました」
つまりそれは異世界転生ってことじゃないかしら。そう思って神様を見れば、可笑しそうにころころと音をたてて笑っていた。いや、いや、お恥ずかしいことに、私はみっつめの選択肢に心動かされた。
小説や漫画が好きだ。特に魔法が好きだ。だから、異世界と言うのは、あこがれる。
「特に魔法に特化した世界にしましょうか」
神様の指が一本に戻り、くるりくるりと宙に円を描いた。すると私の背後に大きな円が出来ていて、その向こうにぐるぐるとした原色の絵の具を混ぜたような空間が見える。あれに飛び込んだら、異世界に行けるのかしら。
「貴女に加護をあげましょう。向こうに行ったら、まず魔力測定されるけれども、そこでの結果はあくまで仮だからがっかりしないでね。……あと、貴女には双子の姉が出来ます。仲良くしてあげてね」
そういうこともわかるのか、と思っていると、神様の手で立ち上がらせてもらった。息をのんでそのゲートらしい円に向かう。神様が小さく頷いたのを見て、私はそこへと飛び込んだ。
ぐるぐる、ぐるぐる、でも温かい。おそらくそこが、母になる人のお腹の中なのだと思った。
長編に書きなれてないので試行錯誤していきます。読んでいただきありがとうございます。




