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7. 途切れた連鎖、なら花見で気分転換でしょ! 前編

 

 覚醒した巫女6人が、昼休みに中庭の側、園芸部の部室に集まった。

 そこで改めて、今後の方針を話し合う。


「で、アタシもみんながやって来たように、次の巫女候補を提案する。

 それが最後の仲間になるんだね」


「そう。陰陽五行の7つの力のうち、陰の属性。

 つまりは影や闇を司る巫女が最後の一人。

 その存在になりうる資質のある人を指名してくれれば、御ムスビ様の力で縁が結ばれている今なら、その指名がどんぴしゃで命中する可能性が高い」


「けどアタシ、その『陰』の巫女の候補とか思いつかないよ?

 闇の力で妖怪とバチバチにやりあえそうなのなんて、アタシの周りには一人もない。心当たりが本当に一切ないんだけど」


 どこか申し訳無さそうな、しかし思いつかないものは思いつかないんだからしょうがないよねと開き直ってもいる態度で、多々良ゴールドは言い切った。

 これを受けて、不知火ほたるがたずねる。


「どうする? きずなちゃん」


「思いつかないならしょうがないわ。

 縁に頼っている以上、つながりがないなら、たどることも出来ない。

 だからこそ、これからは足で稼ぐ!

 御ムスビ様の力に頼るのではなく、私たち自信の力で探す!」


「意気込みはいいと思うけど、なにかアイデアはあるの?」


「ない! とりあえず占いで待ち人探しをしてみるけど、この世とあの世のバランスが乱れてるせいで当たらない可能性の方が高いからね!」


 そう専門家に言われては、霊能力の知識などない他の少女たちに打つ手はない。

 じゃあどうしようかと、守り神である御ムスビ様に一斉に視線が集まった。


「よし、じゃあみんなこうしよう!」

「なんやええアイデアでもあるんでっしゃろ」

「お花見だ。気分転換も兼ねて、みんなで桜を見に行こうじゃないか」

「巫女として戦うわたくしたちが、お遊びの相談をこの場でしてよいのですか?」


「何を言うか。たしかに君たちに使命を背負わせたが、決して君たちは奴隷ではない。

 この世を生きる上で遊び、笑い、楽しむ。神様の力とは心身を健康に保ち人生をおもしろおかしく楽しむための補助器具だ。

 いいかい、君たちは自分の人生を楽しむ自分本位さを忘れてはいけないよ」


「公と私、世間と自分。どちらをどんだけ優先するか。

 結局はバランスが大事、ということやろか」


「そういうこと。そしてお花見に関しても適当な提案ではない。

 八百万の神々の力を宿す君たちにとって、四季の移ろいを感じ大自然の中で感覚を研ぎ澄ますことは、力の同調とつながるからね。つまりより強くなれる。

 それにもちろん、これから共に戦っていく仲間とコミュニケーションをとることもすごく大事! というわけでお花見だ。

 おむすび山の隣の山、さくら公園はちょうど満開だよ」


 その後、反対意見が出ることもない。

 よって御ムスビ様の提案に賛成し、お花見に行くことになった。


「お弁当とかどうします?」

「みんながそれぞれ持ち寄るのでいいんじゃない?

 当然ぼくの巫女はおむすび担当なわけけど、他のみんなは一品だけ持ち合って交換し合えばいいのではないか?」

「では、そんな感じで日曜日、さくら公園に集合しましょうか」


 そんな感じで解散してから当日。

 少女たちが並べたシートの上に、みっしりとお弁当が並べられた。


 上白きずな。

 もってきたもの、重箱三段。

 一段目にはおむすび、二段目にはお稲荷さんと太巻き。

 そして三段目には、おはぎがぎっしり詰まっている。


 不知火ほたる。

 もってきたもの、手作りお弁当。

 お米担当のきずなに合わせて、おかずを主に持ってきた。

 ゆで卵やウインナー、唐揚げがお弁当箱に詰められている。


 龍水しずく。

 もってきたもの、寿司。

 どこかのお店の高そうな寿司が人数分、寿司桶に鎮座している。

 怖くて誰も値段を聞けていない。土居ヤマトですら気を使っていた。


 そして土居ヤマト。

 もってきたもの、ケンタッキー。

 パーティ用のバケツで6人分。ポテト、ナゲットなどのサイドメニュー付き。

 かなりの量が、ガッツリあった。


 茂木みどり。

 もってきたもの、花見だんごが人数分6本に自家製の草餅が6個。


 多々良ゴールド。

 もってきたもの。大量のお菓子と炭酸ジュース人数分。


「なぜだ、異様に量が多い!」

 太陽が真上に登ったお昼頃。

 シートの上のお弁当を目前に、きずなの声が太陽にまで響いた。


「それはね、きずなちゃん。一人一品て話だったのに、みんなが員分もってきてるからだよ。

 どうするのさ、残したらもったいないのに全部食べたらカロリーオーバーだよ!

 自分こんなに食べられないし、食べたら太っちゃうのは嫌なんだけど」


 ちゃんと全員分もってこなかったのは、不知火ほたるただ一人であった。

 そんな彼女も、みんなと交換する用に1.5人前はある。


「順に言い訳を聞こうか。まず、きずなちゃん」

「だってお花見なら太巻きといなり寿司は外せないし、おむすび神社の巫女としておむすびは絶対だし、デザートにおはぎもいるかなって」

「なんで重箱使ったの?」

「外でみんなと食べるならやっぱり重箱でしょ?」


 重みを感じる三段重箱をちらりと見て、ほたるは沈黙。

 しばしの間を置いてから、しずくの方を向いた。


「次、しずくちゃん」

「友達との初お花見ということで、じいやに相談したところ凄く感動されました。

 そして、ご学友の皆様とお嬢様の好物を共有してはいかがかと、家族で行きつけのお店に注文してくださって……」


 寿司桶からあふれ出る高級感から目をそらしつつ、ほたるは注意する。


「今度からちゃんと予算を決めようね。

 こういうので差ができると、どうしたってトラブルが起こるんだから」

「は、はい、かしこまりました」


「じゃあ次、ヤマトちゃん」

「うちの爺さまに友達と花見に行くっ()ったら、黙ってみんなで美味いもん食って来いって3千円わたされた。

 残す金じゃねーし、肉が食いたかったから全額ケンタッキーにぶち込んだ」


「多いなぁ。油もの、こんなに食べれるかなぁ。胃もたれしそう」

「そう言われると思って、蒸しササミのさっぱりサラダも持ってきた。

 あたしはプロテイン料理だけはできるんだ」

「さらに一品増えたーっ!?」


 ヤマトが取り出したサラダのつまったタッパー。

 これに対し、ほたるのツッコミが飛び出た。


「次、みどりちゃん……は全員分あるけど、量が少なくて幸いだね。

 それぞれ一本と一個、お花見だんごと草もちだけ。

 他の人のに比べたら、食べる量が少なくてすむ」


「何となくやけど、みなはん、ようけ持ってくる気がしとったからなぁ」

「じゃあ何で一種類だけにしなかったの、そしたら半分で済んだのに。

 というか何で先に言ってくれなかったの」


「せやかて、そっちの方がおもろいやろ?

 せっかくの行事なんやけん、笑い話のひとつくらいあった方が盛り上がるやん」


「分かっててやったんかい! もう、それで最後にゴールドちゃんは――」


「お菓子とジュース! ポテチとコーラは忘れちゃ駄目だよねー」

「開封さえしなかったら、どうとでもなるね。よし」


「せっかくもってきたのに!?」


「他のを全部食べてから、保存の効くやつは後回し!

 というかおはぎ、だんご、草もちで既にカロリーオーバーなんだって!」


 もー、どうしたらいんだよぉと、頭を抱えるほたる。

 広がるのは、シート1つを埋め尽くすお弁当たち。

 これを見て彼女とは裏腹に、きずなの方は冷静だった。


「案外だいじょうぶだと思うよ、ほたるちゃん。

 だって私たち――巫女として覚醒してるからね」

「?」


 ほたるは一時間後、食事を終えた時にその意味を理解する。


「……ウソ、全部食べちゃった。

 おかしいな、自分の食べざかりはちょっと前に過ぎたと思ってたんだけど」


 彼女の表情は、自分でも信じられないという驚愕で満ちていた。

 シーツに広げられた20人分相当のお弁当を、6人がかりで完食したからだ。

 ゴールド持参のお菓子とジュースは残っているが、それ以外は全て完食。

 今日の自分は、いつもの二倍以上も食べていた。


「霊能力者は通常消耗しないはずの、体力ではない霊力とかを消費する。

 だからその分を補うために、たくさん食べる人が多い。

 霊力は『神様勾玉』から補給されるとは言え、私達も同じ状態なわけ」


「それ、もっと最初の方に言っとくべきでは?」

「だってご家族の目があるのに、みんなはそんな一気に食事量を変えられないかなって。『神様勾玉』のおかげで緊急性はないし……」

「なるほど、それは確かに」


 きずなの説明を受けて、納得したほたる。

 すると、やることがない手持ち無沙汰なしずくが尋ねた。


「それで、お食事が終わったわけですが、これから何をするのでしょう?」

 友達と遊んだ経験に欠ける彼女には、ここから何をすればいいのか分からない。


「弁当は食った、桜も見た。――帰るか!」

「いやいや、ヤマトはん。それはちゃいますやろ」

 対照的に、一人が全く苦にならないヤマトが、そこで雑に言い放つ。


「ふっふっふー、みんなしょーがないなー。

 アタシがいないとダメなんだからなー」


 これに反応したのが、誰よりも大きな荷物を持ってきた多々良ゴールドだった。

 作品に向き合う時と雰囲気の違う彼女が、これ見よがしに遊び道具を取り出し始めた。

 ソフトバレーボールやバドミントンといった、スポーツ用品が並べられる。


「あなた、こんなに持ってきたのね。荷物が妙に大きいとは思ってたけど……」

「とりあえず腹ごなしにラリーしよ! 目標は30回!」

「うっしゃやるか!」


「つまり、みんなでボールをパスしあって、地面に落とさなければいいということでしょうか?」

「だねー。ただし、バレーらしくトスとレシーブ以外したら駄目」

「ええやないの。ほな、やりまひょか」

「せーのっ! トス!」


 そして、6人は円を作るように並んだ。

 さくら公園の芝生の上で、ソフトバレーボールが宙を待う。



 ☆☆☆☆☆



「春には春のこの季節感。……いいねぇ、花見ってのはこうじゃなくきゃな」


 山の麓にある、広大なさくら公園の端の端。

 幾層にも重なる桜の花が陽光を和らげる木陰にて、柔らかな風が吹く。

 その中で、妖怪ソウリュウは三色だんごを楽しんでいた。

 重箱から取り出した一本を陽の光に透かし、まず目で楽しむ。

 次に桜の香りと一緒に、その甘いを香りを鼻で楽しむ。

 最後に口に運んで、もちもちとした食感と一緒に舌で楽しむ。


 一本食べるだけに多くの時間をかけて、ソウリュウは味わった。

 そんなことをしているうちに、ミカゲとダルダルがバリバリとほとんど食べてしまっていた。


「アーッ、こらテメェら! せっかく用意したのにバカスカ食うんじゃねーよ。

 ちったぁ遠慮ってものを知らねぇのか! つーかダルダル、串ごと食ってんじゃねぇ! ミカゲが真似するだろーが!」


 串をへし折るようにしてボリボリとだんごを食う老爺、ダルダル。

 その隣では何も考えてなさそうな謎の少女、ミカゲが掃除機で吸い込むかのように、だんご数本を串ごと吸い込んでいた。


「味わえ! せめて味わえ! わざわざ買ってきたんだぞそれ!?

 ――たっく、残りはもうやらん! 全部俺様のだからな!」


 とうとう、最後に残った数本をソウリュウが取り上げた。

 尽きぬ飢餓を持つダルダルと、そもそも腹に底がないミカゲのため、多く買っておいたのだが、だんごはもうそれだけしか残らなかった。


「初めっから、そうすりゃよかったんダル。どうせ儂は悪霊。

 お前さんが望む反応なんぞしてやれんし、花見なんぞ楽しくもない。

 腹が減るだけ、ダルいしんどい面倒くさい……。

 まぁ、だんごは美味かったダルが」

 そう言って、陰鬱な目のダルダルは影の世界に帰っていた。


「じゃあボクも帰るね。ばいばいごちそーさまでした」

 続いて魂のこもっていない言葉と共に、ミカゲもまた影の中に沈んでいく。


「ッたっく、アイツらは本当によぉ。素直じゃないようでいて、どこまでも妖怪としての自分に素直なんだからよぉ」

 白い竜の爪で頭をガリガリかきながら、一人残されたソウリュウはぼやく。

 だがまぁ自己満足でやったことだしなと、すぐに彼は気持ちを切り替えた。


「ふん、まぁいい。それはそれとして気分転換は終わった。

 今日は巫女の討伐じゃねぇ。オソレを集めてやる」


 そうしてソウリュウは立ち上がり、さて何に『お札』を使おうかと当たりを見渡した――その時だった。


『…………』


 どこからともなく聞こえてくる、かすかな声をソウリュウは聞いた。

 興が乗った彼はその声に導かれるままに、桜公園を離れ山の中に侵入した。


 獣道すらなく、人が通るには厳しい。しかしソウリュウには関係ない。

 草やぶをかき分け斜面を降りる。すると、やがて開けた場所に出た。

 その公園からそう遠くない位置には、一本の桜の古木があった。


『わすれないでくれ……。わたしもここにいるのだ……』

「へぇ、何だお前。こんなところで独りぼっちかよ」


『――誰か、いるのか? ならば誰でもいい、聞いてくれ。

 わたしはずっとこの場所にいた。かつて山の上方にいたわたしは地すべりで滑り落ち、なぜだかわたしだけがこの場所に来てしまった。

 だれもわたしを知らない。だれもわたしを見ない。

 そうしてそのまま――寿命が来た。わたしは今にも生を終えるだろう。

 イヤだ! 誰にも知られないまま、みなに忘れられたまま逝きたくない!

 誰か知ってくれ、()()()()()()()()()()()と――』


 その言葉に、ソウリュウが反応した。

 感傷をごまかすような野卑な笑みを浮かべて、彼は桜の古木と肩を組む。

 そして語りだした。


「わかる、わかるぜお前の気持ち。そうだよな、忘れられたいはずがないよなぁ。

 ずっと見ててほしい、ずっと愛されたい。そう考えるのが当たり前ってもんだ」


 振り返り、木々の隙間から桜公園を見上げると、そこにはまだ花見客と桜の花が見えた。


「四季を感じどんちゃん騒ぐ。俺は好きだぜ、そういうの。

 けどなぁ、わびさびだけは理解できん。

 滅びの美学? 時の流れに身を任す矜持? いずれ終わるからこそ美しい?

 くだらねぇ。まったくもってくだらねぇ。

 永遠不滅! だれの心にもずっと残り、俺様が俺様として存在し続けること以上に大切なことなんざねぇ!

 だから俺様は、お前に手を貸すぜ。桜の古木よ、お前の欲望は正当なものだ」


 そして、ソウリュウは『お札』を、枯れかけの桜の古木に貼り付けた。

 本来であれば、妖怪になれるほどの年月を重ねていないありふれた桜の木。

 平凡な一本が今、『お札』の力により一ツ目の妖怪として成立する。


(オン)切切(キリキリ)婆沙羅(バサラ)(ウン)(ハッタ)。――(オソ)レ、(タテマツ)ル!

 最後にパァッと思いっきし、お前という存在を世間に知らしめてやりなぁ!!」

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