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4.荒ぶる大地の巫女、我威亜の暴力 前編

 

「私たちには今、流れが来てるわ!」

「覚醒したのが水の巫女なだけに?」

「そう!」


 放課後。新しく覚醒した龍水しずくを加えて、3人は河川敷に集まっていた。上白きずなの頭の上には、いつものように御ムスビ様もいる。


「実際、いいことが起きている時はいいことが、悪いことが起きてる時は悪いことが続くもの。物事というのは連鎖的に起こるものなのさ」

「だからしずくちゃん、今度の巫女候補はあなたが選ぶべきだと思うの。身の回りに誰か心当たりはいない?」


 補足的な説明を終えた御ムスビ様から続く形で、上白きずなが提案した。

 これを受けて、龍水しずくは何とも言えない表情を浮かべた。


「……すごくバトル向きな性格のお方を、一人知っております。その方はちょうど名前に『土』の字が入ってもいます」

「何でそんな嫌そうな顔してるの?」

「わたくし、そのお方のことが正直かなり苦手でして……」

「なら他の人でもいいわよ? 無理に合わない人をいれる気はないし、別の人でも構わない」


「ですが一度浮かんでしまうと、他の方が思いつかないぐらいに強烈な方でして。そして縁が重要なのでしたら、この学校で最も縁深いのは間違いなくあの方。でしたら――」


「その人を選ぶべき、か。いいんじゃない? ダメで元々、場合によっては別のやり方を選ぶだけ。失敗したところで何もない」

「しずくちゃんは、その人が適任だと思ってるんでしょ?」


「はい、それはもちろん! それにあのお方、土居ヤマトさんなら、妖怪との戦いに巻き込んでも心が痛みませんし!」

「「……へぇ」」


 そこまで言うとかどんな人なんだろ。

 そんなことを思う2人の顔は引きつっていた。



 ☆☆☆☆☆



 そしてその少女は、ジャージのズボンを常用していた。きずなたちと同じセーラー服の、更に下に学校指定のジャージを履いていたのだ。

 短パンやスパッツではなく雑に長ジャージを着用し、見えていても気にしない点が、彼女のおしゃれに対する無頓着さを表していた。


 髪もまた、雑に短く刈られたざんばら髪。美容院にいかず、はさみを使い自分で切っただけに見える。セーラー服は腕まくりされており、鼻のあたりには絆創膏ばんそうこうが貼られていた。

 そのまま口に枝でもくわえれば、どこぞの少年漫画の不良のような中学生だ。目つきは悪く、ガタイもいい。他の少女たちより頭ひとつ大きい。最初、本当に同級生かと、きずなは思った。


「何か用か、天才サマの方から呼び出すとは珍しい。そして周りにいる奴らはもっと珍しい。お前、そいつらと友達だっけ?」


 外見の印象と相違ない、ハスキーな低音ボイスが飛び出した。

 彼女の視線は、まるで値踏みするようであった。


「アンタは確か、氏神ンとこの神社の娘。そして図書委員の赤頭。なんだ、アンタらもあたしと勝負してくれんのか?」

「勝負って、なんの話?」

「あたしは殴り合いの喧嘩が好きなのさ」


 獰猛な笑みを浮かべて、土居ヤマトは言い切った。

 その態度は恥じるでなく、むしろそれを誇っているかのようだった。

 理不尽な不良のような物言いに、きずなの口調が少し荒くなった。


「で、かつてそこの天才サマが強いって聞いて、付きまとって勝負を挑んで――ボコボコにされた」

「あなたがボコボコにされた側かい!」

「だって、あまりにしつこいものですから。力の差を見せつければ終わるかと思いまして」

「しずくちゃん、その物言いはナチュラルにキングだよ」


 こともなげに、力の差を分からせたと言ってしまう龍水しずく。そんな才ある者の態度に、そういうところだよと不知火ほたるがツッコんだ。


 そして、そんなことはどうでもいいとばかりに、土居ヤマトが切り出した。


「で、だ。アンタらはそこの天才サマと同じく強いのか?」

「あなたの言う、強さって何なの」


「当然、暴力の強さだ。殴り合いに取っ組み合い。そういうのが結局、一番楽しいだろ?」

「強さは暴力だけじゃないよ。強さにはもっと色んな種類がある」


「知ってるさそのぐらい。これは単にあたしが暴力的な強さが好きってだけの話。お前らはアレだろ? 一般的な、優しさとか労りとかが好きなんだろ? じゃあいいじゃねぇかそれで、好きに好きでいればいい。あたしはあたし、アンタはアンタ。

 だから、あたしも好きにする。好きなものを好きなままでいる。それでいいじゃねぇか、すみ分けしようぜ。他人の好みにアレコレ言ってどうなるよ」


「それは、そうかもしれない。けど――」

「けど?」

「わたしはあなたを肯定できない」


 そして、きずなは彼女に巫女のこと、ひいては妖怪との戦いについて話さないことを決めた。



 ☆☆☆☆☆



 放課後、河川敷。

 セーラー服のまま、帰宅して着替えることもなく、3人は河川を見渡せる土手に並んで座っていた。


「ごめんね、しずくちゃん。せっかく紹介してもらったのに、勝手に断ること決めちゃって」


「いえ、それは構いませんが……よろしいのですか? 武道を習っているので分かりますが、戦いというものは性格こそが重要です。強いパンチを繰り出せるのは、力持ちではなく殴ることをためらわない人です。土居さまの益荒男的かつ好戦的な性格は、妖怪と戦う上で非常に適していると考えたのですが」


「それは私もそう思う。けどそれ以上に、『神様勾玉』は適正さえあれば中学生の女の子をめっちゃ強くする神器。それこそ今の私達なら、俵藤太とか頼光四天王に匹敵するぐらいにね」


「改めて考えると、御ムスビ様からおむすびの具みたいに飛びだしたとは思えない代物だよね。だてに八百万の神様に作られた勾玉じゃない」


「なので、暴れん坊を仲間にするのは危ないと思うわけです! やっぱり強力な力は理性的な人に託すべきだと思うんだよ。でないと――その力をどう使われるか、分かったもんじゃないから……!? これは!」


 そう言って、唐突にきずなは立ち上がった。

 目線は座ったままの友達ではなく、河川敷の鉄橋の上に向けられている。

 そして突如として、彼女がまとう雰囲気がトゲトゲしくなったことで両隣の2人も気づいた。上白きずなが見ている場所へ、慌てて視線を移すと――そこに妖怪がいた。


「よーう、お前ら。昨日はよくもやってくれたな!」

「妖怪ソウリュウ!」


 ほたるの声が、河川敷に響く。


「おい『水』の巫女、お前にやられた腹の傷はまーだズキズキ痛んでやがるぜ!」

「それで、報復に来たというわけですの」

「そう受け取ってもらって構わない」

「また悪さをするなら、私たちが止める! この町は大切な場所なんだ!」

「ああそうかい、けどそれは的外れだぜ。なんせ今回俺様は――『オソレ』の収集ではなく、お前らを倒す目的で来たんだからなぁ!!」


 そして、ソウリュウの手に取り出された『お札』が握られた。


「いくよ、2人とも!」

「「了解!」」


 これに対し、3人は迷わずお守りの中の『神様勾玉』を握りしめた。

 見つめ合う中、しばしの静寂。

 呪文と卍句が唱えられたのは、まったく同じタイミングだった。


オン切切キリキリ婆沙羅バサラウンハッタ! ――オソレ、タテマツル!」


「『変身、月の白兎』!」

「『変身、命の不死鳥』!」

「『変身、海原の姫』!」


 鉄橋から手放された、一ツ目が描かれた古びた和紙。河川の空を舞うそれがヒラリと落ちたことで、川の水が墨を垂らしたかのような濁流と化した。そのまま水面の奥、川の中に巨大な一ツ目が浮かび上がり、水の体を持つ海ボウズのような妖怪としてせり上がる。


「オソレロ!」

挿絵(By みてみん)

 一ツ目の川妖怪が、大口を開けて威嚇した。


 一方、3人の巫女の変身も終了している。

 白のツインテールを持つ、軽量化された巫女装束の白兎。速く動ける自慢の脚力の持ち主の、袴のすそが風で揺れた。

「宙まで届く純白の決意.『陽』の巫女、ラビットW(ホワイト)!」


 赤い鶏冠トサカのような髪型の、不死鳥の巫女。自らの威容をアピールする彼女の衣装は、大胆かつ豪華なドレスとして翻された。

「燃え盛る命の炎。『火』の巫女、ザ・フェニックス!」


 完全な海色に染まった、泡が散りばめられたかのような乙姫の髪。彼女を彩る流水のヴェールは、彼女自身がそうであるかのように、光の反射によって表情を変えた。

「ふり注ぐ恵みの雨。『水』の巫女、アクア・レイン!」


 三人の巫女が変身を終えた中、鉄橋の上でソウリュウは不敵な笑みを浮かべたまま変わらない。


「今度こそお前らをぶっ倒してやる! 自然の暴威、その一端を食らうがいい!」

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