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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第3章 夏休み~文化祭後

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第48話 事を進めたいJK

心がわかるDKとわからないJK

第3章 夏休み~文化祭後

第48話 事を進めたいJK

「……萩之先輩から、なにか話、ありました?」

「ぐっ」


 口に運ばれていた箸と焼きそばは中途半端な空中で停止し、少し口に含まれていた分が通常通りじゃない動きをしたのが原因で、部長はせき込んだ。


「……聞いたんですね?」

「えっと、げほ、そのぉ」


 むせている。あまり無理しないでほしいが、聞きたいことがあるのも事実だし、少しあたしが喋ることで時間を稼いで、落ち着いたタイミングで話してもらおうか。


「実は、よく分かってないんです」

「げほ……ん?」

「萩之先輩が何をしたいのか、よく分かってないんです」


嘘じゃない。ほんとに分からない。

 萩之先輩が部長のことを好きなら、何故あたしを巻き込んだのか。自分で「諦めようとしている」と言っていたくらいだから、チャンスがあれば萩之先輩が告白してもおかしくない。

でも現実は、萩之先輩は部長の意思を尊重しているように見えた。

藤くんのおかげで、作戦の最有力候補は部長であることはほぼ確実。でも念のため、確実にしておきたいのは、あたしのわがまま。

 萩之先輩の思惑と最有力候補の状況を知るには、あたしが何も知らない状況で質問をしていると思わせて、部長が今知っている情報を探ること。

 あたしの思惑通り、部長は呼吸を整えて、答えてくれた。


「多分だけど、ボクが……柏原さんと話したがっていると、萩之さんは思っている」

「思っている?萩之先輩が勝手にそう考えている、ということですか?」

「……半分当たってる、状況かな。でも、ボクが頼んだとかじゃなくて、萩之さん一人が行動した結果だよ。予定とか、色々、断りたいって思ってるなら、来なくても、大丈夫」


 部長もあたしも、大丈夫だとは思ってない。あたしはこのまま話が進めば作戦通りに事が進むし、部長も、来てほしいんだろう。

主に昨日の萩之先輩の話からの推測になるが、部長は自分自身に自信がない。断られても仕方ない、聞いてもらえると思ってない。なんか、藤くんにも似たようなこと思ったことある気がする。


「ちなみに、話したいことって、ここでも話せます?」


 お昼時が近くなり、客足が増えつつあるが、この会話を聞かれるのはプライバシー的に問題があるように思えたので、少し声を小さくした。


「いや!その、ここでは、ちょっとぉ……」


 なるほど。やっぱり、萩之先輩から好意があるだの指摘されて、告白を促されている可能性が高いな。

一応、作戦だとあたしから行動をとることになってはいる。理由は、視てもらうタイミングを限定するため。急に告白されても、あたしの思考がまとまらないかもしれない。だったら、あたしから告白して、返事を聞いた瞬間に限定したほうが、あたしの心の準備ができているような気がしたからだ。

だからこそ、最有力候補とか、確実に好きかどうかにこだわっている。返事を予想しやすくするために。


「分かりました。特に友達と予定とかないので、話、聞きに行きます」

「いいの!?」

「はい。イベントに出る友達もいないし、それに」


 これは、即席の理由。


「お客さんが来ない場所にいたほうが、逃げられるので」


 あの子たちから逃げる様子を、部長に見られたのは幸運だったかもしれない。坂下ちゃんから協力の申し出があった時点で、告白する場所に逃げ込むことも考えていた。そして、今すぐにでも逃げたくなる子がこの高校に来ていることが分かっているから、部長を断る理由なんて持ってない。


「あ、そっか……」


分かってくれたようで助かります。


「すみません。部長のこと、利用してるみたいですよね」

「ううん!柏原さんに、その、理由があって、よかったです」

「……理解してくださって、ありがとうございます」


イライラしちゃダメ。空井くんと話したせいで自分勝手なことしてるって意識が強くなっちゃってる。作戦に集中したいのに、空井くんがチラついてイライラする。

落ち着け。冷静に。自分勝手なのは分かってたことじゃん。それでもあたしは、知りたいんだよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


びっくりした。まさか、2人がいるなんて思わなかった。

 文化祭だからと遊びに来た友達を連れて、早めの昼飯にしようとして入ったところに、柏原さんと、写真部の部長さんがいるなんて、びっくりした。

 思わず“視た”けど、視えた内容にもびっくりしちゃって、友達が不思議がってた。誤魔化せたはず。ちゃんと焼きそばを買って、喋りながら会話できたはず。

 その友達を送ったから、ここからは柏原さんの作戦に集中するぞ。まず、焼きそばのところで視えたことを伝えたいんだよな。これを知ったら、確実であることを柏原さんも信じられると思う。確実であることにこだわってるみたいだし。

 どこにいるかな。1組?いや、たしか、自分のクラスのことは午前中に全部済ませるって話だったから、いるなら写真部のほう?普通に、友達となにかしら予定があるなら他の1年の出し物とか?それを考えだしたら候補が多すぎるから、まずは写真部に行ってみようか。そこにいなかったら、また考えよう。

 さっきの飲食のところまで戻って、そのあと階段をのぼって、


「あ」

「あ」

「あ!」


柏原さんと八乙女さん!?


「え、なにー?かじわらに用事ー?」


 ぼくを見つけてからすごくテンションが高い。あと笑ってるし。


「あの、その、ちょっと、今時間があって」

「どうぞどうぞ。あと10分くらいでかじわら当番だから、それまでには帰ってきてねー」

「ちょっと!」

「いってらっしゃーい」


 柏原さんの背中を押して、八乙女さんは写真部が使っている教室に入っていってしまった。用事があるのはそうなんだけど、八乙女さんに見つかるなんて。


「……用事があるんだね?」

「あ、はい!」

「八乙女ちゃんにはバレてんだから、そのまま言えばよかったでしょ」

「いや、たぶん、隠れたほうがいい」


 呆れに似た感情が出ていたのに、ぼくの発言で真面目な顔になってくれた。理解してくれた!助かります!


「……移動しよう。ついでに打ち合わせもしちゃおう」

「はい!」


 柏原さんは写真部の方に向かわず、どんどん人込みの中を進んでいく。このまま行けば、立入禁止の場所に行く気がする。


「写真部の、普段の部室に行くよ。そこで実行するから」

「わかった」


 それなら、歩いている方向に納得できる。体育祭のあと、ぼくが写っている写真が貼られるとかで場所の確認をしておいたから、なんとなく覚えている。

 そこまで遠いわけでもないので、すぐにたどり着いた。


「しつれいしまーす。……誰もいない。来て」


 案内してくれた教室は、不自然に机がまとまっていた。入った扉側は教室の後ろ側に当たる場所でスペースが空いているけど、それ以外は机が積みあがっている。あれ?黒板に近い方と、今ぼくたちが入ってきた方で、机の種類が違うような?


「どうしたの?」

「えっと、ここ、なんの教室?」

「2クラス分くらいが合同で授業ができるように作られてるんだって。黒板に近い側が、元々ここにあった机。で、昨日、展示をしている教室から使わない机といすをここに運び込んで、今は机といすの倉庫ってわけ」


 なるほど。今、ぼくたち側にある机の方が、いつも使っている机と同じものだろうな。馴染みがある。あと、もう1つ気になったことがある。


「気づいた?」

「……もしかして、この、奥の方に歩けるようになってるのって」

「仕込み。歩いてみて」


 最初は、黒板の方に用事があるから、積みあがっている机があっても、黒板にたどり着けるように道を開けているんだと思った。でも、実際に歩いてみれば、黒板にたどり着くことはなく、積みあがっている机に隠れられるような小さな空間に行きついた。


「そこに隠れられる?」


 体育座りをしてみれば余裕はある。床に座ることにはなるけど、そこまで長時間じゃないだろうし、全校朝会に比べたら、集中できることもあるから大丈夫だろうな。


「うん、いけそう」

「よかった」


 これを柏原さん1人でやってくれたんだからすごいよな。ぼくの役割は“視る”ことだけど、ちゃんと、役に立ちたいな。


「で、用事ってなに?」

「あ、そう。11時すぎかな。お昼にやきそば食べたでしょ」

「え?なんで知って……いたの」

「うん。ちゃんと“視た”」


 友達と列に並んでやきそばを売っている教室に入ったら、机を合わせて簡易的なテーブルにしているところに、柏原さんと男子がいた。柏原さんは後ろ姿だったけど分かった。それに、部長さんの顔が見えたから“視る”ことができた。


「一緒にいたの、部長さんだよね?」

「そう。……覚えたの?」

「え、うん。写真くれたでしょ?」


 部長さんが最有力候補になったきっかけの、体育祭の騎馬戦の写真。柏原さんがちゃんと送ってくれたから、何回か見て覚えた。それに、昨日の前日準備のときに、クラスと部活ごとに出し物の説明をしたので、そのときに写真部の説明をしたのが部長さんだった。ちゃんと覚えていたことの証明にもなったし、予想外だったけど助かった。


「……羨ましい」

「え?」

「それが出来れば、こんなに苦労しないのに」


 本当に覚えるのが苦手なんだ。でも珍しい気がする。そういうこと、口に出すタイプだったっけ?いや、それより、伝えなきゃ。


「部長さん、確実だよ」

「やっぱりか」

「うん。……やっぱり?」

「ちょっと、思わぬところから情報を得たので」


 なんか疲れてる?まあ、昨日の空井のこともあったし、作戦当日だから気を張ってるのかも。……昨日、な。


「よし。打ち合わせは終わり。他に気になることある?」

「……作戦に関しては、大丈夫だと思う」

「2時前にここに来てくれたら大丈夫。というか、2時にここに集まるように誘導できたから、1時……50分とかに来たほうがいいかも?」

「部長さんを、直接誘導できたんだ?」

「まあ、直接話したしね」


 そっか。焼きそばを一緒に食べたのか。だったら話す時間もあったし、時間を指定することもできたのか。すごい、順調だ。


「……長居したくないから、これくらいでいい?」

「うん。50分くらいにはいるようにするよ」

「狭いところに座らせてごめんね」

「見つからないのが第一だし、大丈夫だよ」


 誰かの告白の現場に、隠れている生徒がいるなんて、双方恥ずかしいことになる。仕組まれているとはいえ、部長さんにぼくのことがバレるわけにはいかない。

そもそも、狭いって言ってるけど、このスペースを、違和感なく作れたことがすごいんだから、文句なんてない。


「作戦、がんばろう」

「……うん。がんばろ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


順調、なんだろうか。

やるべきことはやってると思う。もし上手くいかなかったらとか、ハプニングみたいなものが起きたらとか、考えることは多い。でも藤くんが、確実だって教えてくれた。

だったら、やるしかない。


「あ、おかえりー」

「……ああいう気遣いはいらないよ」

「えー?あった方がよくない?」

「いいです。こっちのペースで進めるので」


 八乙女ちゃんのおかげで打ち合わせができたけど、夏休みの撮影会みたいに、2人っきりになるよう気遣われるとかはもういい。だって今日、藤くんと別れることを想定しているんだから。


「時間だけど、はまべは?」

「少しおそくなるって。昨日聞いた」

「へー。謎解きだっけ?」


 覚えていないのでパンフレットを見てみる。スカートのポケットにも収まるように折りたたまれて皺がついたが、どこも敗れていないので情報を見るのに問題はない。


「……そうみたい」

「行ってこよーかな。かじわらも行く?」

「これから当番」

「終わったら。どお?」


終わったら作戦があるのでお客さんは立入禁止の写真部の部室にいます、とは言えない。


「うーん。2時前後、用事があるんだよね」

「へー。……へぇー」


何故ニヤニヤしているんだ?これ、八乙女ちゃんが余計な事考えている顔っぽい。


「なに?」

「いいえー。楽しんでー」

「……絶対、考えていることと違うから」

「いいって。お客さんどころか、先輩もいないんだよ?隠さなくっていいって」


 たしかに、今、写真部が使っているこの教室には、あたしと八乙女ちゃんしかいない。みんな、お昼ご飯を食べたりで出払っている。


「八乙女ちゃんは用事ないの?」

「1時半からの当番まで暇」

「……あたしたちの当番中は暇ってこと?」

「そーいうこと」


 9時半から開始の1時間ごとに当番が組まれているため、今12時半から1時半までの当番であるあたしと濱辺ちゃん。その次の1時間が八乙女ちゃんと相田ちゃん。そして今は12時半を少しすぎたころ。この1時間なにをしようと言うのか。


「まあ、1時からのイベントステージは見に行くよ。なんかね、アイドルの女装して踊るらしいんだよね。面白そうじゃん?」

「女装?……男子生徒がやるってこと?」

「そう。女子アイドルアニメのコスプレして、踊るんだって。美術部の友達から聞いた」


 はしゃいでるな。女装する男子生徒たち、恥ずかしくないのか?


「当番には間に合うの?」

「大丈夫。女装しながら1時間も踊れないでしょ」

「たしかに」


 どんな曲を踊るのかは想像もつかないけど、2,3曲踊れば、生徒の出し物としては充分なのかもしれない。そうなってくると30分もイベントが出来るかどうかだ。

 まあ、10分も連続して踊り続けるなんて体力がないあたしからすれば、30分ステージにいることも、体育祭でダンスを披露していた応援団も、同じような立ち位置にいる。


「だから、私のことは気にせず、かじわらも楽しみなって」

「……」


 これ以上何か言っても、結果は変わらないような気がしたので、黙ることにした。

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