05馬鹿みたい。こんなに地味なドレスでパーティーに出るなんて
「メルベリ様、また何か新しいお菓子を作られるのですか?」
目を輝かせながら尋ねてきた彼女へにこりと微笑んだ。
「今度はもっとたくさんの人に、お菓子を届けたいと思って」
クララへ伝えて店の厨房で計画を立てる。それは公爵令嬢として、年に一度の社交界デビューパーティーを店のお菓子で彩る計画。
パーティーは公爵家の一大イベントであり、王族や名だたる貴族たちが一堂に会するし、ゼルベンとコッポラももちろん出席するだろう。あんな人たちでも王侯貴族だから。
「パーティーでお菓子を全員に振る舞う」
クララは言葉に驚きを隠せない。
「でも、それでは、あの人たちにも」
「今回はお客様として、ではなく公爵令嬢メルベリ・チェーチェルとして振る舞うつもりで」
超高速思考でパーティーで振る舞うお菓子の種類を瞬時に決めた……見た目も華やかで、誰もが喜ぶような特別なケーキを。
パーティー当日。会場は王都で最も豪華な宴会場にて公爵令嬢としてのドレスを身につけるが、心は一人のパティシエール。
パーティーが始まり、ゼルベンとコッポラが挨拶を求めてやってきたのでなぜ、近寄ってくるのかと呆れる。
「メルベリ、久しぶりだな」
気まずそうに声をかけたがこっちはピカピカの笑顔で応えた。
「ゼルベン様、本日はご列席いただき、光栄でございます」
コッポラはこちらのドレス姿を一瞥し、鼻で笑う。
「馬鹿みたい。こんなに地味なドレスで、パーティーに出るなんて」
「お、おいっ、やめろ」
「ふん!」
しかし、隣に置かれた華やかなケーキの数々を見て彼女は言葉を失った。
「え、これは……!?」
「本日は、わたしが作ったお菓子を皆様に振る舞わせていただきます」
会場中がざわめくと一斉に作ったお菓子へと群がる。
「なんて美しいんだ!」
「この香りは……ああ!」
一口食べると皆、美味しさに言葉を失う。
特にゼルベンとコッポラは顔色を変えた。自分たちが口にできなかった、あの憧れのお菓子が今、目の前にあるのだから。
「メルベリ……このお菓子はまさか……」
王子が震える声で尋ねるが何も答えず、ただ微笑んでいるだけ。パーティーはお菓子のおかげで、大成功を収めそうして、一つの目標を立ててみる。
「今度は子供たちのためのお菓子を作ろう」
腕をまくる。子供が大好きな、可愛らしい動物の形をしたクッキーやカラフルなキャンディー、どんな子供でも食べやすい優しい甘さのプリンを作った。
店の横に子供たちが自由に遊べる小さな庭を作る。
「わーい!うさぎさんクッキーだ!」
「こお菓子、とっても美味しい!」
子供たちが店に集まり、笑顔で走り回るところを見て心から幸せを感じた。一人の少年が尋ねてくる。
「お姉ちゃんは、なんでこんなに美味しいお菓子を作れるの?」
頭を優しく撫でて答えた。
「それはね、みんなが笑顔になってくれるのが一番嬉しいからかな?」
店は笑顔で溢れかえり、噂は王都中へと広がっていった。
「メルベリ様は、子供たちの味方だな」
「あの方のお菓子は食べる人を幸せにするんだ。見習いたい」
王妃になることを夢見ていない。
お菓子でみんなを笑顔にする一人のパティシエールとして、子供たちの笑顔に満たされた日々を過ごしていたある日、新しいフルーツを探すために王都から少し離れた農村へと足を運んでいた。
村は肥沃な土地と温暖な気候に恵まれ、様々な果物が栽培されていると聞いていたので、さっそく村の果樹園を訪ねた。
「あのー、すみませーん……」
声をかけると土まみれのシャツを着た、一人の青年が振り返った。
「はい」
太陽の光を浴びて健康的に日焼けした肌と、まっすぐな瞳を持っていた。
「何かご用ですか?」
声は収穫したばかりの果実のように、爽やかで心地よかった。なぜだか胸がドキリと高鳴る。
「わたし、メルベリ・チェーチェルと申します。王都でお菓子屋を営んでおります。もしよろしければ、あなたの育てた果実を拝見させていただけませんか?」
名を聞いて驚いた顔をしたがすぐに笑顔に戻った。もしや、知られているのかな。
「もちろんです。どうぞご自由に見てください。俺はディランと言います」
ディランは果樹園の奥へと案内した。果樹園は一つ一つの木が丁寧に手入れされており、どの果実も生命力に満ち溢れている。目をあちこちにやった。
「リンゴは甘さが強いのでタルトにすると美味しいですよ。こっちのベリーは、酸味が特徴なのでジャムにすると最高です」
楽しそうに自分の果実について語ってくれる姿は、お菓子について語る自分とどこか似ている。
話しているうちに自分が今まで感じたことのない、同志を見つけた気持ちを抱いていることに気づき、ディランの果樹園に通うようになった。ブドウを使って新しいお菓子を試作してみる。
「このブドウ、とても甘くて美味しい。でも、これだけだと、少し単調な味になってしまうかもしれない」
首を傾げていると、ディランが声をかけてきた。
「もしよかったら、このハーブを試してみませんか?ブドウに合うように育てたんです」
香りの良いハーブを差し出され、ブドウと一緒にケーキにしてみた。すると、ブドウの甘さにハーブの爽やかな香りが加わり、驚くほど繊細で深みのある味わいになる。
「すごい……え!ディランさん、これ、本当に素晴らしいです!」
相手は照れたように笑った。それから、二人で様々な果実とハーブのお菓子を組み合わせて新しいレシピを生み出していく。
カスタードと桃のタルト。甘い桃に開発した濃厚なカスタードクリームを合わせる。
ベリーとミントのゼリー。酸味の強いベリーに栽培した爽やかなミントを加え、ゼリーにする。
ドライフルーツとナッツのパウンドケーキ。果実園で採れたフルーツを乾燥させ、香ばしいナッツと一緒に焼き上げる。
昔からの知り合いだったかのように、自然に楽しくお菓子作りと果物栽培について語り合う時間は、自分にとって何よりの幸せ。作業を終えた二人は果樹園の木陰で休憩する。
「ディランさん。わたし、あなたとこうして、一緒にいるのがとても楽しいです」
少し驚いた顔をしたと思ったら、相手も頷く。
「メルベリさんと話していると自分の育てた果物が、こんなに素晴らしいお菓子になるんだって、嬉しくて」
まっすぐな瞳が甘い。目を下に向け指を見つめた。
その後、ディランが育てた果実を使い、王都で共同作品として新しいシリーズを発表する。
お菓子は、今までのお菓子とは一味違う、素朴で力強い風味が特徴で瞬く間に大人気となった。
当然、共同開発の利益を分け与えようとしたが笑顔で首を振る相手。
「メルベリさんのお菓子があったから、果物もたくさんの人に知ってもらえたんだ。だから、これはメルベリさんのものです」
優しい人だ。胸がカッと熱くなり、一番大切なものをあげたいと思った。
お菓子作りから始まり、多くの笑顔とかけがえのない大切な人との出会いへと繋がった幸福に笑みを浮かべた。
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