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洋菓子令嬢のケーキ店へようこそ〜婚約破棄は甘い人生の始まり!?私の新作ケーキはお二人にはまだ早いので差し上げられませんよ?〜  作者: リーシャ


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3/3

03あなたたちはわたしの招待リストにはございません。ですから新作を召し上がることはできません

 しばらくして、ゼルベンとコッポラがブースの前までやってくる。よく来られるなと周りも呆れていた。


「メルベリ、久しぶりだな」


 懐かしむような顔で元婚約者が話しかけたので、一礼して応えた。どのツラ下げてだと、内心思いつつ。


「はい。本日は品評会にお越しいただき、誠にありがとうございます」


「ああ。ところで、君の新作を試食させてくれないか?」


 首を傾げた。


「申し訳ございません。貴方達を品評会に招待しておりませんので、無理です」


 コッポラたちは顔を硬直させた。


「な、なんだと?私は王太子だぞ!?」


「存じております。ですが、品評会に出品できるのは招待状を受け取った者だけ。お菓子を試食できるのは出品者から招待された方のみ、でございますから」


 微笑みながら続けた。


「あなたとコッポラ様はわたしの招待リストにはございません。ですから、新作を召し上がることはできません」


 二人は絶句し、コッポラは悔しそうに唇を噛みしめている。


「なぜだ!なぜ、私を招待しなかったのだ!?」


「それはお二人を、お客様だと思っていないからですね」


 冷たい言葉に、顔が真っ青になった彼らは王妃にふさわしくないと切り捨てた口で今、作ったお菓子一つすら口にできない事実が重くのしかかった。店主は笑みを浮かべて、言外に言い続ける。

 品評会はシトラス・ミルフィーユがグランプリを受賞し、大盛況のうちに幕を閉じた。


 一方のゼルベンとコッポラは、その場を後にするしかない。その後も彼らは店を訪れたり、こちらの友人を通じてお菓子を手に入れようと試みたが、頑としてお菓子を売ることを拒否し続けた。


「わたしは、自分の大切なお客様にしかお菓子を売らないことにしております」


 心を深くえぐられた彼らは自分たちが地味だと見下したように、今度は彼らを「お客様ではない」と切り捨てられているという後悔は、日々深まっていき、もう手遅れ。


 心は、お菓子作りへの情熱と新しい未来への希望で満ち溢れていた。


「いらっしゃいませ」


 品評会での一件以来、ゼルベンとコッポラは社交界の笑い者になっていた。


「聞いたか?殿下とコッポラ嬢が、メルベリ様のお菓子を一口も食べられなかったそうだ」


「それもそのはずだろ。メルベリ様はお客様ではない、とおっしゃったそうだからな」


「あのようなケーキは宝なのにあまりにも言動がひどいな」


 クスクスと、密やかな笑い声が飛び交う。以前なら、ゼルベンの威厳とコッポラの美貌の前では誰もが口をつぐんでいたはずなのに、今や誰もが自分たちの方が格上だと錯覚しているかのように二人の噂話に花を咲かせる。

 特にコッポラはその状況に耐えられなかった。


「一体どういうことなの!?なぜ、わたしがこんな屈辱を味わわなければならないのよ!」


 友人たちに八つ当たりをするように声を荒げても肝心の友人たちは、誰も味方をしてくれない。


「コッポラ様、仕方ないわ?メルベリ様の新作は本当に絶品なのですもの。召し上がれないなんて、残念で仕方ありませんわね」


 彼女たちは口々にお菓子の話をし始める。


「メルベリ様のシトラス・ミルフィーユ、本当に天国のような味だったわ」


「ええ、わたし、メルベリ様のお店に、毎日のように通っているのよ。メルベリ様、とっても気さくで可愛らしい方なの。握手もしてもらえて、本当に良い方なのよ」


 コッポラは会話を聞いて、悔しさと嫉妬で唇を噛みしめるしかなく、弾かれているゼルベンも同様だった。

 毎晩のように悪夢にうなされ、夢の中でお菓子を差し出すが、手を伸ばすとそれはたちまち消えてしまう。

 現実でも菓子を手に入れることができず、焦りを募らせていた。


「なんとかして、メルベリの新作を手に入れろ!」


 ケーキに縁のある者を片っ端から呼び出し、お菓子を譲ってもらうよう頼み込んだが誰も彼の頼みを聞き入れない。


「申し訳ございません、メルベリ様のお菓子は、一つ一つが芸術品です。ただ譲るわけにはいきません」


「そうだ。もしメルベリ様に知られたら、二度とあの方のお菓子は口にできなくなるでしょう?無理ですよ」


 拒否はゼルベンのプライドを深く傷つけ、今までは誰もが言葉に耳を傾けていたが今は利のある方を優先する……そして。


「ゼルベン様ぁ……!」


 コッポラが泣きながら彼の元へと駆け寄ってきた手には、ボロボロになった店のチラシが握られていた。


「もう……もう、耐えられませんわ!皆、わたしのことなど見向きもしないで、メルベリ様のことばかり……嫌です。食べたいのです!」


 社交界で完全に孤立してしまう。


「私だって我慢しているのに、喚くなっ」


 当然だ。友人たちは皆、店の常連になり楽しそうに店主と話しているのに、コッポラはその輪の中に入ることができない。婚約者を奪い取った末路。

 ゼルベンはコッポラの泣き顔を見て、自分が犯した過ちに気づき始めた。


「私は……私は、何を間違えた?」


 婚約を破棄した時のことを思い返す。あの時、地味な趣味を馬鹿にした末、地味な趣味が社交界を輝かせ、多くの人を幸せにして奈落の底に突き落としたのだと。


「もし、あの時、メルベリに……く」


 脳裏にもしも、という後悔の念が浮かび上がる。

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