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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第2章 ジュエルを求めて
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第53話「闇墜ちの暴挙」

 ビラーレル村の住宅の屋根の上。

 やって来たアジュシーラがそこに座り、村を見下ろしていた。


「ちっちゃ! オイラが住んでたとこは、これの倍ぐらいはあったぞ!」


 村の面積を侮辱したところで、隣に人の気配がした。


「すぐバカにするんじゃないの。それじゃあ、エグ君みたいに育っちゃうわよ」


 同じヴィヘイトル一味のネガロンスが月をバックに、夜風に長い黒髪とロングスカートをなびかせて屋根の上に立っていた。


「おばさ……ネガロンスさん! 何でここに?!」


 一瞬「おばさん」と言いかけたが、すぐに訂正した。

 前に一度そう呼んだことがあり、レジメルスからしごかれたのだ。その彼はきちんと名前で呼ぶようにしていた。

 逆に、クルエグムはどんなにしごかれても「おばさん」呼びをやめず、レジメルスもついに諦めてしまった。


「何か聞こえた気がするけど、聞かなかったことにするわ。何で私がここにいるかって? あなたの付き添いよ」

「は?」

「もう夜遅いでしょう? こんな時間まで子供が出歩くのは危ないわ。エグ君とレジー君も付き添う気配、無さそうだし」

「いいよ、そんなことしなくても! オイラはもう子供じゃないんだから、付き添いなんていらないよ!」

「シーラ君、いくつだっけ?」

「十三」

「十三はまだまだ子供よ」

「子供じゃないっ!」


 保護者目線のネガロンスと反抗期真っ盛りのアジュシーラによる口論が始まった。

 だが、長くは続かなかった。何故なら……。


「あれ、弱虫の白魔導士じゃない?」


 アジュシーラが指した先には、ダークティミーが閉じたばかりの店のリンゴを食べていた。

 商品が入ったワゴンは盗られないように、触れると電撃が落ちる雷魔法札を貼ってカバーをしていたが、彼の魔法で簡単に剥がされていた。


 今来たばかりの二人は、ティミレッジが闇墜ちしたことはつゆ知らず。


「あいつ、白魔法しか使えないからオイラでも倒せるよ。ちょっと行って来る」


 アジュシーラはすでにティミレッジを見下していた。

 そのため一人で襲っても簡単に倒せると思ったのか、魔法で三日月の形をした乗り物を出すと、それに跨って相手のところまで飛んで行った。


「ここで会ったが運のツキ!」


 アジュシーラは降りながら、青紫色の魔法弾を一発撃ち出した。

 しかしダークティミーはこちらを見ずに片手でそれを受け止め、そのまま消してしまった。


「えっ?!」


 そしてリンゴを食べている手を止めると、アジュシーラを思いきり睨みつけた。

「ひっ……!」一瞬だけ怯む彼だが、自分がティミレッジに勝てることは確信していた。


「こ、こんなとこで何してんの? それ、売り物だよね? 食べてもいいのかなぁ? 白魔導士でも、悪い一面があるんだね。普段は良い子ぶってたんだね?!」


 アジュシーラは思いつく限り、相手を非難した。

 すると、ダークティミーはリンゴを食べ終わると残った芯を捨て、瞬時にアジュシーラの真ん前に移動すると、彼の髪を掴んで三日月型の乗り物から引きずり下ろした。


「うわあっ! な、何するんだよ?!」

「何か言ったか、クソガキが?」

「ク、クソガキ?!」


 ダークティミーは相手の髪を掴んだまま床に叩きつけ、彼を見下ろすような形で睨み続けた。


「俺が普段、猫かぶってるって? んなことわかってんだよ!」


 言いながらアジュシーラの頭を離すと、今度は手をグーにして相手の頭をぐりぐりと小突き始めた。

 これにはアジュシーラも泣き始めてしまった。


「痛いよ~! 何だよ、お前?! そんな乱暴な奴じゃなかっただろ?!」

「その原因作ったのは誰だよ、クソガキが!!」


 見かねたネガロンスが降りて来て、冷静な口調でたしなめた。


「やめなさい。子供相手に大人げないわよ」


 ダークティミーはアジュシーラからネガロンスへ視線を移した。

 その目はやはり相手を睨みつけていた。


「敵にお節介焼きたくないけどあなた、この村の希望なのよね? そんなことしたら、村人たちがどう思うかしら? ”いつも優しい白魔導士が子供をいじめた”って噂が立ったら、魔王や超龍を倒した実績が台無しになるわよ?」

「うるせえ、ババア!」


 ネガロンスが子供を叱るように諭すがダークティミーには届かず、逆に悪口で反抗されてしまった。


「バ、ババア……?」

「どう見てもババアだろ! クソガキとババア……プッ! ぴったりの組み合わせだな! 面白れぇ!」


 ダークティミーはアジュシーラたちを侮辱すると、口に入っていたリンゴの種を道に吐き捨て、再び飛行能力を使って飛び去って行った。



 ユアたちと同じように、残された二人も呆然としてしまった。


「な、何なの、あいつ……? 前に会った時と全然違うし、“面白れぇ”ってエグみたいな言い方じゃん! 何より、オイラとおばさ……ネガロンスさんがぴったりの組み合わせ?! 冗談じゃないよ! オイラはもう子供じゃないんだから、保護者無しでも行動できるっつーの!」

「問題そこなの、シーラ君……?」


 アジュシーラは「クソガキ」と言われたことよりも、ネガロンスとコンビに思われたことを不服に思っていた。

 それに気付いた彼女は不満からか声を低くし、無意識に青紫色の魔法弾を出していた。


「ごめんなさい、言い過ぎました……」初めて丁寧に謝るアジュシーラ。

 煙たがってはいるが、相手はヴィヘイトルの次に強い紅一点。三人衆より上の立場なので、怒らせれば確実に命はない。


「で、でも、悪いのはあいつだよ! ネガロンスさんを”ババア”だなんて!」

「さっきから“おばさん”って言い掛けてたあなたも大概だけど?」


 言いくるめられ、アジュシーラは黙るしかなかった。


「それよりもあの力、闇魔法ね。それもかなりの強さだわ。きっと、ありえない量の力を吸収してしまったのよ」


 彼女はすでに闇魔法を見抜いており、ティミレッジの態度もそのせいだと把握していた。

 魔法使いだが闇魔法が初耳のアジュシーラは「あの弱そうな白魔導士をあんな風にするなんて、闇魔法恐るべし……」と恐怖を抱くのであった。

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― 新着の感想 ―
うるせえババア!で不覚にも大笑い まさかラスユアでこんなに笑わされるなんて… あまりにもシンプル悪口すぎてどっちが悪役かわからなくなっちゃう
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