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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第2章 ジュエルを求めて
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第47話「激しい怒り」

 裏山の頂にある祠。

 レジメルスへ向かってクロウズとチェリテットが戦うが、なす術もなくやられてしまった。さらにティミレッジの白魔法も効かない。

 そんなレジメルスはクロウズへ怒りを抱いており、主に彼へ矛先を向けていた。


「やめろ!!」


 山頂に声が響く。

 ユア、フィトラグス、オプダットの三人が到着したのだ。


「あぁ、君たちも来たんだ?」


 レジメルスは相変わらず気だるく言った。


「お前、クロウズやチェリーたちに何をした?! 三人を傷つけたら許さねぇぞ! レジ……レジメネル? レジメルネス!」

「レジメルスだけど……」


 クルエグムの時と同じくオプダットが相手の名前を言い間違えると、レジメルス本人はため息まじりに訂正した。


「女の子はそこまで傷つけてないよ。ただ、こっちの茶髪はだいぶ痛い目を見た方が良い」

「俺が何したって言うんだよ?! いきなり襲って来やがって!」


 クロウズが文句を垂れるとレジメルスは彼を睨みつけ、声を低くして言った。


「とぼけんなよ。相手を困らせるためだけに彼女を奪い取った後で捨てようと考えたくせに」

「聞いてたのかよ……」


 クロウズが言い返せずにいると、ユアたちが驚きの声を上げた。


「どういうこと? ”相手”ってオープンのことだよね?」

「”彼女”はチェリーだよな? ”奪い取る”って言うのは、クロウズとの勝負に負けた時のことか? じゃあ、”捨てようとした”って言うのは?」


 ユアとフィトラグスが疑問をぶつけていると、クロウズがチェリテットを指しながら暴露し始めた。


「オプダットが負けたら、そいつを俺の彼女にするって言っただろ? でも本気で付き合う気はねぇ。オプダットを困らせたかっただけだ。だから勝負して勝っても、思いっきり振ろうと思ってたんだ!」


 聞いていた者たちは引いてしまった。

 特にチェリテット本人はクロウズに憧れていただけあって、そのショックは相当なもので、信じていたものが一気に崩れ落ちてしまった。


「オープンを困らせるためだけに、私を振る? 最低……」



 そこへ、レジメルスの蹴りが再びクロウズを襲った。

 クロウズは急いで避けるが、先ほどから疑問が拭えなかった。


「な、何で、お前が怒ってるんだよ……?! 関係ないだろ!」

五月蠅(うるさ)い」


 レジメルスは冷静に言うと、相手の真ん前で飛び跳ねた。


「グルーム・フレイユール」


 宙を蹴ると、弓型をした青緑色の衝撃波が何発も発射された。


「危ねぇ!」


 オプダットがクロウズの前に出て、自身の拳と蹴りでレジメルスが出した衝撃波を打ち消して行った。

 しかし一撃が重いので、すべてを消し終えた時には体力を消耗していた。


「オプダット?!」

「ケ、ケガはないか……?」


 名前を呼ばれ、首だけ振り返り笑顔で尋ねるオプダット。

 当然、クロウズとレジメルスは理解出来なかった。


「君、バカなの……? 今の話、聞いてた? そいつはお前だけでなく、彼女まで傷つけようとしたんだよ。何で庇うの?」


 レジメルスが呆れながら聞く中、クロウズは悔しさから舌打ちをした。

 何故なら、今の台詞は自分が言いたかったが、急に自身を襲って来た者に先を越されたからだ。


「そうだよ。俺はお前を困らせるために彼女を奪って、捨てようとしたんだぞ! ダチでいる価値ねぇだろ!」


 レジメルスと同じ疑問を抱いたので思わず口を挟むが二番煎じ感が否めない上に、敵へ同調する形となってしまい、さらなる悔しさが募った。

 それでも、オプダットはきっぱりと言った。


「言っただろ? お前は友達だって」

「だから、違うっつってんだろうが!! お前が木から落ちたせいでパールがジュエルを取りに行くことになったこと、今も恨んでるからな! 俺だって池で溺れて、病人のあいつに助けられたんだぞ。お前だって、俺のこと恨んでもいいはずだ!」


 クロウズがパールの名前を出すと、オプダットの表情が曇った。


「恨めねぇよ……。だって俺たちは、パールが会わせてくれたから友達になれたんだぞ。仲良くしねぇと、あいつだって浮かばれねぇだろ! 友達同士のケンカは嫌いな奴だったんだから!!」


 クロウズは目を見開いた。オプダットの言葉で頑なだった思いが少しだけ動いたのだ。

 そんな二人を見て、レジメルスはよりだるそうにしながら言った。


「状況が読めないから、僕の知らない話やめてくれる……? どく気ないなら、君から殺してあげるよ」


 次にレジメルスはオプダットへ蹴りを繰り出した。

 オプダットも拳で受け止めるが、やはり一撃が強いので立っていられなくなり、膝から崩れ落ちてしまった。



「オープン、クロウズを連れて逃げろ!!」


 敵の後ろからフィトラグスが叫ぶと、自身の剣を振った。


「ルークス・ツォルン・バーニング!」


 インベクルの中庭でジュエルを手にした時に編み出された必殺技だ。

 クルエグムを退けられたものなので、同じヴィヘイトル一味に効くと思ったのだ。


 ところが、レジメルスは軽い身のこなしで新しい必殺技を避けた上、木から木へと簡単に移動していった。

 そして最後の木から飛ぶと、フィトラグスへ回し蹴りを食らわせた。


「邪魔しないでくれる? 偽善の王子様」


 侮辱した後で、彼は再び跳び上がった。次は必殺技を出すつもりだ。


「グルーム・フレイユール」


 青緑色の弓型の衝撃波がフィトラグスへ襲い掛かるが、寸前のところでティミレッジが張った白魔法のバリアが守ってくれた。だが、それは一撃を受けると壊れてしまった。

 レジメルスは今度は、青紫色の魔法弾をティミレッジにぶつけた。



「ど、どうしよう? このままじゃ……」


 あまりの激戦でユアは参戦出来ずにいた。

 仲間たちも倒れてしまい、明らかにクルエグム並みに強く、自身の力も通用するか自信が無かった。


 ふと、ユアは祠へ目を向けた。

 今なら見張りは無く、自由に入れる。今のうちにジュエルを取れば、フィトラグスの時のように力を得られるかもしれない。

 ユアはまっすぐ、祠へ向かって駆け始めた。


 レジメルスがすぐに気付き、また「グルーム・フレイユール」を撃って来た。


「ユア、危ない!」


 咄嗟にチェリテットが押し倒したおかげで、ユアは間一髪助かった。

 ところが……。



 ドォン!!



 二人の頭上を通過した衝撃波が当たり、爆音と共に祠が崩壊してしまった。


「ほ、祠が?!」

「ウソだろ……?」

「これじゃあ、ジュエルを探せないよ!」


 オプダット、フィトラグス、ティミレッジは絶望した。

 崩壊した祠は瓦礫の山と化し、大量の砂煙が出ていた。ジュエルが下敷きになり、壊れた可能性もある。


「安心して。ユアに当てるつもりは無かったから」


 ジュエルが壊れたことを確信したレジメルスは得意げに言った。

 初めから祠ごと壊すつもりだったのだ。


「さて、続きをしようか」再びオプダットたちへ歩み始めた。



 ユアとチェリテットが、瓦礫の前で途方に暮れていると……。


「どいてくれ!」


 いつの間にか背後にクロウズが来ていた。

 二人が道を譲ると、彼は壊れた祠へ渾身のパンチを繰り出した。


 瓦礫は飛び上がり、その中に黄色く光る宝石も跳ね上がった。

 次のジュエルだった。


 ユアが慌てて取ろうとすると、クロウズが片手で素早く拾った。そして……。


「オプダット、受け取れ!!」


 クロウズは叫び、オプダットへ向かって黄色のジュエルを思いきり投げた。


「させないから」


 渡すまいとレジメルスが掛かって行くが、チェリテットが彼の腹部へタックルした。

 初めてのダメージに、彼は苦痛で顔を歪めた。


「くっ……」


 ジュエルは無事にオプダットの手に渡ると、彼の手袋の右手の甲部分にはまった。

 フィトラグスの剣の鍔にジュエルが収まった時と同じだ。


「サンキュー、クロウズ! おかげで力がみなぎって来たぜぇ!」


 レジメルスはチェリテットから離れると、ジュエルを奪うためオプダットへまっすぐに走り始めた。

 向かって来る敵を迎え撃つように、オプダットは足元の地面を思いきり殴る。



「リアン・エスペランサ・スパークル!!」



 パンチが当たった地面が衝撃波で割れながら、レジメルスへ向かって行った。さらに、衝撃波にまじって黄色い稲妻も帯びていた。

 だがレジメルスは、フィトラグスの技の時のように身軽にかわしていった。


 しかし今回の技には電撃も加わり、割れた地面から溢れる黄色い稲妻が次々とレジメルスを襲った。

 これらもかわされるが細い稲妻が顔付近をかすめると、彼がしていた黒マスクの紐が切れ、顔から外れてしまった。


「何っ……?!」


 マスクの下の素顔は、十代半ばを思わせるほどの童顔だった。

 レジメルスは慌てて紐部分を耳辺りで押さえ、再びマスクで口元を覆った。


「だる……。ジュエル壊し、失敗だね」


 マスクを手で支えるため戦いにくくなり、彼は一行に背を向けた。


「待て!」オプダットが呼び止めた。

「今度クロウズやチェリーたちを襲ったら、本当に許さねぇからな! みんな、俺の大切な人たちだ! 今、へそで茶を沸かしてるんだぞ!」


 今の言い間違いにレジメルスは思わず振り向き、ユアたちも唖然とした。


「怒ってるんだよね? “はらわたが煮えくり返る”の方が良くない……?」


 敵から呆れた目で訂正されてしまった。

 せっかくカッコ良く決めるはずが台無しに終わった。

 さらに、ティミレッジやチェリテットからも指摘があった。


「“へそで茶を沸かす”って、“面白くてしょうがない”って意味だよ……」

「“ばかばかしい”って意味もあるけどね」


「本当にばかばかしいね。次に会う時までに勉強しときな」


 レジメルスはため息をつき、再びユアたちへ背を向けた。

 次にフィトラグスが「待て」と声を掛けた。


「今度は何……?」レジメルスは天を仰ぎながら嫌そうに言った。そろそろ帰らせて欲しかったのだ。

「何でチェリーが騙されそうになった時にキレたんだ? あんたはオープンやチェリーと関係ないだろ?」


 フィトラグスの問いに、一同が思い出すように声を上げた。

 あまりに激戦だったので、クロウズがチェリテットを騙そうとしていたことを忘れてしまっていたのだ。


 レジメルスは首だけ振り向いて答えた。


「その子に限らず、女性への侮辱はムカつくんだ。それだけ」


 淡々と言うと皆の反応を待たずに、彼は魔法で消え、その場から去って行った。

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ヴィヘイトル「お前あの祠壊したんか!」
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