第44話「武闘家の友達」
祠の前でクロウズに敗れた上、走って逃げ出したオプダット。
彼を追ってユアたちも下山し、ジュエル探しは中断された。
一行は、彼の家で休憩を取った。
オプダットの両親・ボレンフドとポタルチアがお茶と菓子を出して、ユアたちを歓迎してくれた。
「さあ、どんどん食え! チャロナグの菓子は美味すぎて、アゴが落ちるぞ~!」
「それを言うなら、ほっぺたですよね……?」
陽気に菓子を運びながら言い間違えるボレンフドへ、ティミレッジがツッコんだ。
パーティ内でオプダットのツッコミ役である彼は、ここでも訂正する羽目になった。
「それより、オプダットはどこ行ったの? 一緒に来たのよね?」
お茶を運びながら、ポタルチアが尋ねた。
部屋にいるのは、両親とユア、フィトラグス、ティミレッジ、チェリテットだった。
「オープンなら、“ちょっと出てくる”って、外に行きましたよ」
チェリテットが答えた。
「クロウズさんにやられたこと、そんなにショックだったのかな?」
「その前から、おかしかったろ」
ティミレッジとフィトラグスが、裏山での出来事を振り返った。
「オープンとクロウズさんって、何かあったんですか?」
ユアは思いきって、両親たちに聞いてみた。
そして「あと、パールって誰ですか?」と尋ねた途端、二人の顔が明らかに引きつった。
「ごめんくださ~い」
そこへ、玄関から声がした。
ポタルチアがドアを開けると、アティントスが立っていた。
「突然すいません。オプダットのことが気になって来ました。さっき、彼を見かけたのですが、思いつめた顔でどこかへ走って行っていたので……」
「わざわざ、ありがとうございます。先生、仕事の方は大丈夫なんですか?」
「今日は患者が少ないので。何かあれば、こちらに連絡が来るようにしています」
そう言って彼は、フィーヴェ共通の通信機を見せてくれた。
アティントスが加わったところで、ボレンフドがユアたちへ尋ねた。
「オプダットから、どこまで聞いているんだ?」
「小さい頃に病気をして、しばらく入院してたってことです。あと、アティントス先生に病気を治してもらってから、明るくいることと、友達を大切にすることを教えてもらったってとこです」
「オープン、病気で入院してたの?!」
ユアが説明すると、チェリテットが声を上げて驚いた。
「聞いてないの、チェリーちゃん?!」
ティミレッジも驚いた。
同じ町で暮らす彼女なら、もう知っていると思ったからだ。
チェリテットに話さなかったのは、毎日が忙しくて忘れていたのか、それとも話したくなかったのか……。
オプダットが異世界で打ち明けた時は、アティントス手製の薬を見て過去を思い出し、話さざるを得なかったのだろう。
「じゃあ、クロウズ君とパール君のことは聞いてないのね?」
ポタルチアへフィトラグスが「はい」と返事をすると、ボレンフドたちはオプダットの過去を、詳しく話し始めた。
「パールは、オプダットが入院してた同室の患者で、あいつと同級生だったんだ。その時、オプダットは人見知りが激しくてな……」
ボレンフドがそこまで言うと、ユアたちは驚きの声を上げた。
「人見知り? あのオープンが?!」
「ビックリするでしょう? 今でこそ、お父さんみたいに明るくなったけど、子供の時は違ったのよ」
あっけに取られる一同をからかうように、ポタルチアが笑いながら言った。
「それでパールの方が、今のオプダットみたいに明るかったんだ。初めはオプダットもだいぶ緊張してたが、だんだんパールを兄貴のように慕うようになったんだ」
「クロウズ君はパール君の友達で、あの子に会うために毎日、お見舞いに来ていたのよ。それで、何度も会っているうちに、オプダットとも仲良くしてくれるようになったのよ」
「クロウズさん、友達思いなところもあったんですね」
チェリテットは改めてクロウズの良さを感じた。
今だけ「俺の彼女にする」と言われたことには、目をつむっていた。
「たぶん、パールしか友達がいなかったと思うぞ……」
ボレンフドが苦笑いをし、隣でポタルチアも呆れるように言った。
「あの子、昔からやきもち妬きなのよ。別の子が持っているおもちゃをすぐ“欲しい”って駄々をこねたり、他の子が何かで褒められると、その子を叩いて泣かせたりして……。それで、友達もできにくかったんじゃないかしら」
「パールだけは、あいつが嫉妬深くても仲良くしてくれたんだ。本当に良い子だったぜ!」
パールは今のオプダットみたいに、分け隔てなく接してくれる少年だったようだ。
さらに二人は、パールが勉強もできたことについて話してくれた。
体は弱かったが、性格は明るくて友達想いだったので、オプダットが間違えて覚えた勉強を見てあげる時もあった。
「おかげで“もう、父ちゃんからは教わりたくない!”って怒られちまったよ!」
「笑いごとじゃない!! あんたが間違えて教えたせいで、私やチェリーちゃんにティミー君が、どれだけ苦労してると思ってるの?!」
笑い飛ばすボレンフドに対して、ポタルチアはこれでもかと言うほどに怒りをぶつけた。
オプダットの言い間違いは仲間たちが直しており、この春からは魔王も加わっていた。
「そのパールさんがきっかけで、クロウズさんとも友達になれたんですよね? でも、何で嫌われるようになったんですか?」
ユアが尋ねたことで、クロウズの話題へ戻った。
「最初のきっかけは、木登りかな?」
ポタルチアが思い出したように言うと、「木登り?!」と、ユアたちがそろって驚きの声を上げた。
「オープン、入院してたんですよね? 木に登る元気があったんですか? そもそも、許されてたんですか……?」
「許されてねぇ。全部、おじさんのせいだ」
ティミレッジが疑問をぶつけていくと、ボレンフドが渋い表情をしながら言った。
「あいつが木に登るきっかけを作ったのは、おじさんだ。見舞いの時でも、鍛錬のために中庭にある木に登ったことがあるんだ。たぶんそれを見て、“俺もあれぐらい登れたら……”って思ったんだろうな」
「あの日こそ、生きた心地がしなかったわ。病院から通信が入って“オプダット君が木から落ちました”って聞かされて……。あの子が木に登ったってだけでもビックリだったのに、その原因を作ったのがこの人だったなんてね!」
初めは悲しく言い始めたポタルチアだが、語尾に行くにつれて言い方に怒りがこもり、言い終えた頃にはボレンフドを睨みつけていた。
「だって、真似するなんて思わなかったんだよ!」
「子供は、大人がすることを真似するものなの!」
「そもそも、病院で鍛錬するなよ……」とユアたちは思った。
「でも、それとクロウズとどういう関係が?」
今度はフィトラグスが尋ねた。
「オプダットが木から落ちた時、パール君が心配して付きっきりでいてくれたのよ。それで、前からクロウズ君としていた約束を忘れてしまってね……」
クロウズは待ち合わせの場所でパールを待ち続けていたらしい。
彼がなかなか来なかったため、後で会ったクロウズは「急変したかと思ったじゃないか!」と、心配から怒鳴りつけた。
だが、来られなかった原因がオプダットにあるとわかってから、彼への態度が少しずつ変わって行ったようだ。
「私はそう感じたわ。木登り事件以来、クロウズ君が明らかにオプダットを避けるようになったのよ。親としては悲しいけど、あの子の性格を考えたら無理もないなって思う……」
ポタルチアはそう推測した。
こうして、オプダットとクロウズの間には、少しずつ溝ができていった。




