第43話「祠の前で」
チアーズ・ワンドの光を頼りに、ユアたちはチャロナグタウンの裏山の頂にある祠を目指していた。
裏山は武闘家の修行場と言われるだけあり斜面が急なところもあったため、慣れていないユア、フィトラグス、ティミレッジはすでに息が切れていた。
特にティミレッジはダウン寸前だった。
「ティミー君、大丈夫? おぶって行こうか?」
「ら、らいじょーぶ……。チェリーちゃんじゃ、僕の体重を支えられないよ……」
その時、ユアが持っていたチアーズ・ワンドが別の光り方をすると、ティミレッジの前にピンク色の四角い物体を出した。それは、三人衆のアジュシーラが乗っていた三日月型の乗り物と同じような素材に見えた。
ティミレッジがその四角いものに腰かけると物体は宙に浮き、皆と同じペースで彼を運んで行った。
ユアのレベルが上がったからか、また新しい力を使えるようになったのだ。これには出した本人も驚いていた。
「こんな乗り物まで出るんだ?!」
「ありがとう、ユアちゃん。おかげで助かったよ!」
喜ぶティミレッジへ、フィトラグスが羨みの目を向けた。
気付いたユアが試しにチアーズ・ワンドを振ると、ティミレッジを乗せたものと同じものが四つ出て来た。
全員、ユアが出したピンク色の四角い物体に乗って裏山を登って行った。
「こりゃ、楽ちんだ~!」
「修行中に乗ってたら怒られるけど、今はいいよね♪」
「いいけど、ディン様が見たら怒りそう……」
移動が楽になり、疲れが少しずつ取れていくフィトラグスとチェリテット。
一方で、ユアはディンフルがいる時を想像した。彼は根が真面目なので、楽でもこの物体には乗らないと思ったのだ。
そもそも、ディンフルには飛行能力があったので、自分で飛んで行くだろう。
頂上付近に着くと、四角い物体は自然に消えた。
祠がこの近くなので、「あとは歩いて行け」ということなのだろう。
チェリテットとオプダットを先頭にユアたちが歩いて行くと、クロウズ、サークズ、ムジーロの三人とばったり会った。
彼らの後ろには、いかにも神様を祀っていると思われる祠が見えた。
「クロウズ?!」
「オプダット?! 何でここにいるんだよ?!」
オプダットもクロウズたちもお互いに驚愕していた。
「俺らは祠を見張ってるんだ。お前らみたいな不審者が近づかないようにな!」
チャロナグタウンでは裏山での修練を兼ねて、交代で祠を見張る習慣があった。
彼ら三人は外から戻ったばかりだが、久しぶりに裏山で修練を受けたいがために自ら申し出たようだ。
「俺たちはジュエルを探しに来た。この祠にあるんだろう?」
フィトラグスがそう言うとクロウズたちは目を見開き、三人で顔を見合わせた。
「ジュエルって、祠に飾られてる宝の石か? 何の用があるんだよ?」
「理由は言えませんが、それが必要なんです」
「だから、何でだよ?!」
ティミレッジがおずおずとしながら言うと、クロウズが怒鳴りつけた。
「世界を救うためだよ!」
オプダットが大声で叫んだ。
最初にクロウズと会った時と違って真剣で、勇気を振り絞るような言い方だった。
「世界を救う」と聞き、クロウズは後ろのサークズとムジーロと一緒になって笑い始めた。
「超龍に勝ったからって、まだ英雄気取りかよ?! そんな子供じみた理由で渡せるわけねぇだろ!」
「頼む! 本当に世界の運命が掛かってるんだ! 今度は魔王の兄貴が世界を滅ぼすかもしれないんだ! だから、渡して欲しい!」
オプダットは真面目なトーンで、ヴィヘイトルの存在を出しながらクロウズへ頼み込んだ。
「じゃあ、俺と勝負しろ」
笑いから一転してクロウズが冷静に提案すると、オプダットたちは息をのんだ。
「どうしてもお前が世界を救った英雄だって思えねぇんだ。お前は超龍との戦いに参加はしたが、大した活躍は王子様や魔王がしたんだろ? 人任せは英雄とは言えねぇ。だから、真の英雄はどっちか決めようと思うんだ!」
確かにトドメを刺したのはフィトラグスとディンフルの二人だが、オプダットも超龍の弱点を覆う鱗を壊すなどの貢献はしていた。その事実をクロウズは知らなかった。
「俺が負けたら祠に入ってジュエルを持って行けばいい。お前が負けたら、ジュエルは諦めな。そして……」
そこまで言うと、クロウズはチェリテットに目を向けた。
「そいつを俺の彼女にする」
「えぇっ?!」
いきなり指名され、チェリテット本人は思わず大声を上げた。
これにはユアたちも口をあんぐりとさせた。
「な、何でチェリーが?」
「町の人の話だと、お前らいつも一緒にいるらしいな?」
町民の情報を聞いただけで、クロウズは二人が付き合っていると思ったらしい。
「一緒にいるって言っても……」チェリテットは何か反論しようとしたが動転して頭が回らず、うまく言葉が出なかった。
サークズとムジーロが端へ避けた。早速、勝負を始めるようだ。
ユアたちも空気を読み、同じように引き下がった。
取り残されたオプダットはクロウズと向かい合うが、戦う時のファイティングポーズは取らなかった。
勝負を拒否しているのだ。
「俺、お前とは戦いたくねぇよ。だって、友達だろ?」
「だから、ダチになった覚えはねぇつってんだろ!」
対してクロウズはファイティングポーズを取り、戦闘態勢でいた。
さらに「早く来いよ!」と相手を煽った。
「言っとくが、手加減無しだからな! どっちが死んでも文句は無しだ!」
「死ぬって、そこまですんのかよ……?」
「当たり前だ! パールが死ぬきっかけを作ったお前は英雄になれないってことを証明してやるよ!!」
オプダットは目を見開き、体を硬直させた。
「来る気ねぇなら、こっちから行くぜ!」
クロウズから強烈なパンチが繰り出された。
オプダットはその場から動かず、まともに腹部へ受けてしまった。
「オープン!!」
倒れるオプダットへユアたちが駆け付けた。
「どうしたんだよ? お前なら、あんなの避けれるだろ?」
フィトラグスが声を掛けるとオプダットは突然立ち上がり、来た道を走って引き返して行った。
「おい?!」
彼に続いてユアたちも一緒に下山した。
それを見たサークズとムジーロが声を上げて笑った。
「一発食らっただけで逃げるなんて情けねぇな!」
「大したことないな。よくあれで超龍と戦えたぜ!」
二人が笑う中、クロウズだけはオプダットがいた場所を睨み続けていた。
何も言わない彼へサークズが尋ねた。
「ところで、パールって誰だよ?」
クロウズは視線をそのままに「友達だよ」としか答えなかった。




