第42話「武闘家の家族」
チャロナグタウンの飲食店。
この町では、昼食時は混むため今から早めの昼休憩にした。
「あいつはクロウズって言って、幼い頃からの友達なんだ」
「でも、あいつは否定してたじゃん」
席に着き、落ち着いたところでオプダットが改めてクロウズの説明をする。
相手は嫌がっていたので、フィトラグスは疑いの目を向けていた。
「ちょっとあってな……」
そう言うオプダットが少し苦笑いをした。
「それより、お前にも驚いたぞ。クロウズを知ってたのか?」
話が変わり、彼はチェリテットに尋ねた。
彼女はクロウズが去ってから町に来たので、一度も接点がなかった。それなのに初対面のはずの彼を、前から知っているように見えたのだ。
「ここ数年の卒業生では有名でしょ? 武闘も強いし頭も良いから“文武両道を兼ね備えている”って評判よ」
「そんなにすごい人なの?!」
ユアが驚きの声を上げると、オプダットは「ブンブン何とかって何だ?」と聞いた。
この反応は皆にとっては予想内で、深くため息をついた。もちろん、呆れた意味で。
「オプダットじゃねぇか!」
元気な中年男性の声がした。
オプダットと同じ金色のツンツンヘアの中年男性と、同じ色の髪を下で一つに束ねた女性と、アティントスの三人がやって来た。
「アティントス先生!」
フィトラグスとティミレッジは久しぶりに会うので、挨拶のためにその場で立ち上がった。
つられてユアも立った。彼の名前だけは以前、水界という異世界でオプダットが自身の過去を話してくれた際に聞いたことがあった。
しかし、アティントスのビジュアルはゲームの攻略本や公式サイトのどこを探しても載っていなかったため、姿を見ること自体は初めてだった。
そして、彼と一緒に来ていた二人の男女はと言うと……。
「父ちゃん、母ちゃん! 何でここに?」
ユア、フィトラグス、ティミレッジが驚きの声を上げた。
オプダットの両親こそ、三人は初対面だった。
「お父さんが足をケガして、急遽アティントス先生に診てもらってたのよ!」
「それで治療終わりに“お昼、一緒にどうっすか?”って誘ったんだよ」
オプダットの母・ポタルチアが面倒くさそうに答え、父・ボレンフドは足の痛みを感じさせないぐらい明るく笑った。
オプダットの明るさは父譲りだと、ユアたちはすぐに理解するのであった。
「幸いお父さんのケガは大したこと無いから、休んでいればすぐに治るよ」
二人の後でアティントスが状況を優しく説明した。
「本当にアティントス先生には昔っから世話になりっぱなしだぜ! 今も腰が上がらないな~!」
ボレンフドが再び明るく言うと、フィトラグスは飲んでいた水を思わず吹き出した。今の台詞に違和感を覚えたのだ。
「父ちゃん! 腰じゃなくて足だろ!」
「“頭”ね!!」
オプダットが指摘するも、ポタルチアがフロア中に響き渡るほどの大声で訂正した。
彼女の答えが正解である。
ユア、フィトラグス、ティミレッジはボレンフドの言い間違いに戦慄を覚えた。
「い、今のって、ふざけたんだよね……?」
「これも平常運転だよ」
ユアが思わず聞くと、チェリテットが水を飲みながら冷静に答えた。
オプダットと毎日行動を共にしているため、彼の両親のこともすでに知っており、旦那と息子の言い間違いに翻弄されるポタルチアにも心から同情していたのだ。
ユアたちは思い出していた。
水界でオプダットが過去を話してくれた時、勉強を父から教えてもらっていたことを。
今の言い間違いでボレンフドの頭のレベルが手に取るようにわかった。
席をくっつけて大人数で昼食を取った。
ボレンフドとポタルチアはインベクル王国の王子・フィトラグスとは初対面だったので、なるべく気を付けて話をしたが、やはりボレンフドの言い間違いが目立った。
しばらく談笑をして楽しく過ごした。
「それより、このチャロナグにジュエルとやらがあるなんて驚きね。今朝出て行ったばかりなのに、まさか戻って来るなんて」
ポタルチアが苦笑いをした。ジュエルを探しに出て行った息子が、短時間で帰って来るとは思わなかったのだ。
ジュエルを追って来たことを思い出したオプダットが、町に入った時の話をした。
「そうそう! さっきビックリしたんだが、クロウズも戻って来たんだな?!」
オプダットがクロウズのことを明るく報告すると、ボレンフドとポタルチアの顔から笑みがさっと消えた。
さらにボレンフドは食べていた手を止め、オプダットを真剣な目で見つめた。
「お前、あいつに会ったのか……?」
「ああ。相変わらずだったぜ!」
オプダットは笑って報告するが、両親は気まずい表情のまま。
二人の凍り付いた表情をユアたちは見逃さなかった。
◇
食事を終えるとボレンフドとポタルチアは家へ、アティントスは病院へ戻って行った。
ユアが再びチアーズ・ワンドを出すと、チャロナグタウンの裏山方面へ伸びる光を出した。
「裏山って……たしか、祠があるよね?」
「祠?」
チェリテットの質問に、ユアが聞き返した。
チャロナグタウンには昔から神様を祀っている祠があった。
そしてインベクル神殿と一緒で、祭りごとがある時は町民がお参りに来るのだ。
「つまりジュエルは、その地域で大切にされている場所にあるってことなんだね。フィットの時もそうだったじゃん」
「そしたら、次を探すヒントにもなるな!」
ティミレッジが軽く推理すると、フィトラグスが喜びを表した。
「そうと決まれば行こう!」続けてユアが元気よく言った。
「そ、そうだな……」
今まで一番元気だったオプダットも前向きだったが、明らかに声のトーンが落ちていた。
さらに笑顔もひきつっているように見えた。
「どうしたの?」
「いや、別に!」
チェリテットが心配するがオプダットはすぐに取り繕い、歩き始めた。しかし……。
「逆! 祠はこっちでしょ!」
無意識に足が裏山とは真逆を向いており、チェリテットから注意を受けてしまった。
「悪ぃ悪ぃ! 俺って本当にバカだよな~!」
無理矢理、笑顔を作るオプダット。
ユアたちは、レストランでクロウズの話を聞いた両親の反応と何か関係があると睨んでいた。
来た途端に出来た謎を抱えたまま、一行は裏山にある祠を目指すのであった。




