第41話「次のジュエルへ」
朝食後、支度を終えるとユアとフィトラグスは城の外へ出た。
城門までサーヴラスが見送りに来てくれた。
「ティミレッジ様とオプダット様にもよろしくお伝えください」
「わかった。残りのジュエルも見つけ出すから、ディン様には首を長くして待つように伝えてね」
「あと、俺らも強くなるから“余計なことはするな”って言っておいてくれ」
ユアの後で、フィトラグスが皮肉交じりに話に入った。
朝食の後に、彼とディンフルとの間に一触即発あったのだ。
◇
朝食後に支度を終えたユアが待ち合わせの広間へ行くと、フィトラグスとディンフルが久しぶりに睨み合っていた。
しかも、今にも剣を交えそうな雰囲気だった。
ユアが理由を聞くと、フィトラグスが「ディンフルにバニラアイスを食べられた!」と文句を言った。
今日からまた旅が始まるので、彼は朝食後に好物のバニラアイスを食べてから出発したかったが冷凍庫に無く、代わりに自身の苦手なチョコアイスのみが残っていた。
食べたディンフルいわく「名前を書いていなかった」とのこと。
その上「インベクルのバニラは味が薄い」と酷評し、フィトラグスのさらなる怒りを買ってしまった。
朝から食べ物を巡って険悪な二人を、ユアは「子供か……」と白い目で見るのであった。
◇
こういうわけでフィトラグスは機嫌悪く城を出た。
サーヴラスと別れてからも「他の町にもあると思うよ!」とユアが気遣うが「インベクルのバニラアイスが一番なんだ」と、彼はイライラしたままだった。
これまでもフィトラグスが怒りを表すことは多かったが、今回は理由が理由なのでユアも「そこまで気を遣わなくていっか」と敢えて放っておくことにした。
しかし城下町に入ってアイス屋の前を通りかかると、「新発売のバニラアイス」が売られていた。
それに目を付けたフィトラグスは即買いし、町の門へ行くまでに食べてしまった。機嫌は元通り。ティミレッジたちに会うまでに直るのであった。
「放っておいて正解だった」と心から思うユアであった。
◇
インベクル王国前。橋を抜け、草原に出るとティミレッジ、オプダット、チェリテットの三人が待っていた。
今日、ソールネムは別件で来られないようだ。
「ユアも強くなって来たし、今日から別のとこ行っても大丈夫だな?」
オプダットが代表して確認を取ると、他の者は快く返事をした。
「うん。そろそろ他の地域の敵と戦いたい!」
「それに、ヴィヘイトル一味と対応出来るように早くジュエルも探さないと」
「でないと、ユアがあの告白野郎と付き合う羽目になるよ!」
チェリテットにそう言われ、ユアは昨日のクルエグムとのやり取りを思い出していた。
フィトラグスらと戦っていた彼はこちらに気付くと、まっすぐ向かって来た。さらに、ティミレッジを無理矢理どかすとユアへ詰め寄った。
「前の返事、聞かせてくれ」と言ってきた辺り、相手は本当にユアの反応が気になっているようだった。
絶対に付き合わないためにも、ユアは修行を兼ねてジュエル探しも奮起するのであった。
「よし! 早速だけど、ジュエルを探すよ!」
ユアはチアーズ・ワンドを手にした。
すると彼女の思いに応えるように、ライトの先端から穏やかな光が伸び始めた。昨日はインベクル神殿を指していたが、今日は草原の向こうを指していた。
「この先だな? よし、行こう!」
フィトラグスが用意してくれた馬車に乗って、五人は光が指し示す方角へ向かい始めた。
◇
とある場所。
薄暗く古びた廃墟のような建物をクルエグム、レジメルス、アジュシーラの三人は拠点にしていた。
ユアたちを見張るためだった。
昨日パワーアップしたフィトラグスに敗れて戻ったクルエグムが、今日もアジトを出ようとしていた。
そんな彼へ、青紫色の魔法弾を灯りに部屋の隅で本を読むレジメルスが声を掛けた。
「透明で侵入しても失敗したみたいだね。今回はどんな案があるの? ネガロンスさんから力とかもらったの?」
突然聞こえた質問をクルエグムは皮肉に捉えてしまい、舌打ちをしてから言い返した。
昨日、負けて帰ったことが屈辱だったようだ。
「文句あんならお前が行けよ! いつも“だるだる”言ってる怠け者が!」
すると、レジメルスは視線を本からクルエグムへ移し、本を静かに閉じて立ち上がった。
相手へ向ける目は睨んでいるようにも見えた。
「だる……、別にいいけど。ヴィヘイトル様が紹介してくれたこの建物、かび臭くて困ってたんだよね。これなら、外の方がマシかも」
「じゃあ、なおさら行って来い!」
「言われなくてもそうする」
レジメルスは気だるそうに言うと、本を自分のベッドの上に乱暴に放り投げた。
感情をむき出してはいないが、クルエグムの言い方に腹を立てているようだった。
「待て。ユアたちは今、ジュエルってものを集めてやがる。それでパワーアップして、俺らを倒そうとしてるぞ。先にジュエルを見つけてぶっ壊した方が後々、楽だぜ」
自分の代わりに出陣するレジメルスへクルエグムがアドバイスをした。
「知ってる。昨日、シーラが調べてくれたから。ジュエル壊すこともわかってるから」
ここにはいないが、アジュシーラの額の目には一度会った者の過去と現在を調べ見る力がある。
昨日レジメルスは、クルエグムたちの戦いをそれで見ていたのだ。
「たまに行く人変えないと、エグしかいないと思われるしね。あまりしつこく行っても嫌われるでしょ、ユアに」
レジメルスは入口のドアを閉める際に、敢えてユアの名前を強調しながら出した。相手が気にしている問題の一つだと言うのに。
部屋で一人になったクルエグムはやり場のない怒りを、目についた物置の棚へぶつけた。
彼に蹴飛ばされた棚は倒れ、中に入っていた辞書や大量の札を入れた箱が散乱するのであった。
◇
ユアの持つチアーズ・ワンドをたどって行くと、一行はチャロナグタウンに着いた。ここはオプダットの生まれ故郷である。
「おぉ~! ただいま~!」
約一時間ぶりの里帰りを大袈裟に喜ぶオプダット。
「次のジュエル、チャロナグにあるんだ?!」
「知ってるところで却って良かったかも? 知らない場所だと攻略し直しだもんね」
「フィーヴェの端から端まで巡った俺らに、知らない場所とか無いだろ」
ティミレッジが安心すると、フィトラグスが自慢げに言った。ディンフルを倒す旅に出ていた彼らは、フィーヴェ中を制覇していたのだ。
一方でユアも、イマストVの攻略本でフィーヴェの隅から隅まで見ていたため、同じように知らない場所が無かった。
しかし両者とも、DLCコンテンツになると話が別だった。
「誰かと思えば、バカのオプダットじゃねぇか!」
若い男性の声で嫌味が聞こえて来た。
ユアたちが振り向くと、中央に茶色のツンツンヘア、両脇には黒髪と明るいオレンジ色の髪の若い男性二人が意地悪そうな顔で立っていた。
全員、オプダットと同じ服を着ていた。彼の服はチャロナグタウン専用の戦闘服なのだ。
今、嫌味を言ったのは中央に立つ茶髪の者だった。
嫌な感じを受けたユア、フィトラグス、ティミレッジは、やって来た三人を怪訝な目で見つめた。ところが……。
「誰かと思ったらクロウズじゃねぇか! めちゃくちゃ久しぶりだな~!」
言われた張本人のオプダットは目を輝かせながら、クロウズの手を勝手に取り握手した。
予想外の反応だったのかクロウズと呼ばれた男性は手を振りほどき、取り巻き二人も引いてしまった。
「は、離せよ、気持ち悪い!」
「いいじゃねぇか! 何年ぶりだ? 俺らが十九の時に出て行ったから……、俺らって今いくつだ?」
「今は二十二だから三年ぶりだ! 初歩的な計算も出来ないのか?! やっぱりお前はバカだな!!」
オプダットは構わず会話を続けるも、簡単な計算が出来ずにクロウズから怒られてしまった。
クロウズ側もバカにし続けるが、オプダットがまったく取り乱さないのでユアたちはどう対応していいか困惑した。
「オープン。その人って……?」
「悪ぃ悪ぃ! こいつはクロウズって言って、俺の友達なんだ!」
「友達じゃねぇし、お前を英雄とも認めてねぇよ!」
オプダットは明るく紹介するが、クロウズは否定した。
そして、彼が超龍から世界を救ったことを認めていないようだ。
「俺らの活躍、知ってくれてるのか?!」
「報道紙で大きく取り上げられてたからな」
「でもクロウズ。オプダットが記事になった時、“超龍倒すなんてすげーな”って言ってたじゃん」
オプダットがまた目を輝かせて聞くと、相手の両脇に立っていた黒髪のサークズが答え、明るいオレンジ色の髪のムジーロが記事を見た当時のクロウズについて教えてくれた。
「余計なこと言ってんじゃねぇ!」と本人は突然怒り出し、ムジーロの頭を強く殴った。
「あ、あの……戻って来られたのですか?」
ゴタゴタを鎮めるように、チェリテットが緊張しながら尋ねた。
彼女はクロウズらが町を出た翌年に来たので、今日が初対面だったのだ。
「ただの里帰りで、しばらくしたらまた行くよ。じゃあな!」
チェリテットに簡単に答えると、クロウズは取り巻き二人を連れてオプダットたちの元から去って行った。




