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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: レセラン
第2章 ジュエルを求めて

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第31話「初日を終えて」

 インベクル初等学校(小学校)の放課後。

 生徒はまっすぐ家へ帰る者、学校に残って友達と話す者、居残りで勉強をする者、遊具で遊ぶ者など好きなことをして過ごしていた。



 そんな中、ビティムという名の女子生徒は、大人が持つような長財布を、同学年の女子生徒から渡されていた。


「うちの担任の財布、あんたが預かっててよ」


「ど、どうしたの、これ……?」


「拾ったの。担任が教卓に忘れてったの。けっこう大金が入ってるから、居残りが終わったらみんなで遊びに使おうと思って」


 同級生の発言が信じられず、ビティムは見開いた目で相手を見た。


「遊びに行くって、このお金で……?!」


「そう。うちの担任、ムカつくもん。明日、空になった財布を見て、どんな顔するか見てやろうよ!」


 リーダー格の女子生徒がそう言うと、三人の取り巻きが「いいね!」と騒ぎ立てた。


「もちろん、あんたも遊びに連れて行ってあげる。どうせ、あたしら以外に友達いないんでしょ?」


 ビティムは怖がりな性格で、いつもクラスの男子からいじめられていた。

 そんな彼女を見かねた女子生徒たちは、以前はビティムを自分たちのグループへ誘ってくれた。


 ビティムも彼女たちに感謝していたが、次第に女子生徒たちも、いじめに似た行為をするようになっていった。

 本性を知ってから、ビティムは離れたい気持ちが日増しに強くなり、最近は「一人でいた方がマシ」とも思うようになっていた。


 ビティムは勇気を出して、財布をリーダー格へ投げつけた。


「何するのよ?!」


 リーダー格の女子生徒が、怒鳴った。


「悪いけど……預かりたくない」


 ビティムが拒否すると、女子生徒たちは一斉に彼女を責め始めた。


「あたしの言うこと、聞けないの?!」


「聞かなかったらどうなるか、わかってるの?!」


「また一人ぼっちだよ!」


「男子からいじめられても、助けてあげないよ!」


 四人から一気に責め立てられ、ビティムは怖くて泣きそうになった。

 しかし、彼女たちの言いなりで悪いことをするのも気が引けた。


「何をしてるのですか?」


 そこへ、怒鳴り声を聞いたロアリィが五人の元にやって来た。

 助け船が来たと思い、ビティムは内心喜んだ。


 ロアリィは五人に話を聞く前に、床に落ちた長財布が気になった。


「この財布は、誰のですか?」


 硬直する生徒たち。

 ビティムが「ティーチェル先生のものを拾いました」と言おうとすると、すぐにリーダーが機転を利かせて言った。


「ティーチェル先生のものですが、ビティムさんが盗もうとしていました」


 驚いて相手を見るビティム。

 逆にリーダーは、彼女の視線を避けるように床を睨みつけていた。


 つられるように他の三人も「私も見ました」「教卓からこっそり取っていました」「だから私たち、ビティムさんを注意してたんです」とリーダーに合わせた。


「ち、違います……! そんなことしてません……」


 ビティムが反論しようとするが、驚きと恐怖で声がうまく出せなかった。

 彼女の訴えが聞こえなかったのか、ロアリィは「職員室へ来てください」と静かに言った。


◇


 ビティムは本当のことを言い出せないまま、職員室でティーチェルに怒られてしまった。

 彼女が帰った後、入れ違いでフィトラグスが入って来た。ロアリィの送迎のためだった。


「ロアリィ様をお迎えに上がりました」


 フィトラグスを見たティーチェルが、彼を部屋の隅に呼び出した。


「ロアリィ先生、本日はとてもよく頑張って下さいました」


 そう言った後で「しかし……」と、彼女の表情が曇り出した。


「ちょっとドジが目立ちました。今日は作文の返却があったのですが、間違えて別の子に返したんですよ。それで、勝手に読まれた生徒が泣き出してトラブルになって……」


 フィトラグスが絶句していると、ティーチェルはさらに続けた。


「もう一つですが……今日はテストもありました。いつもはテスト用紙を人数分複写してから渡すのですが、ロアリィ先生は間違えて、答えの用紙を複写して生徒たちに渡したんですよ」


「答えの方をですか……?」


「一から複写し直すことになったのですが、そのせいで時間がなくなってしまって……。結局、テストは別の日になりました。子供たちの中には“せっかく勉強してきたのに”って怒る子もいました」


 フィトラグスは、彼女が思った以上のドジをやらかしたことを知り、唖然とした。

 しかしすぐに、「初日だから仕方ありませんよ」とフォローした。


 ティーチェルも、初日で緊張していたのだろうと思っていた。

 ロアリィもその都度反省し、次から気をつける意思を見せていたので、ティーチェルはこれからの彼女に期待することにしていた。


 業務はこれで終わり、ロアリィはフィトラグスと共に城へ帰ることになった。



 フィトラグスたちが去った後、外から職員室の様子をうかがう視線があった。


「へ~え。あのロアリィって女、フィトラグスの婚約者なのか。何で教師やってんのかわからねぇが、面白くなりそうだぜ!」


 透明化したクルエグムが、いつの間にかフィトラグスたちを見つけていた。

 そして、ロアリィの数々の失敗を知ると、粗探しを企むようにほくそ笑むのであった。


◇


 インベクル王国の食堂。

 ティミレッジら仲間は、それぞれの家に帰っていた。

 フィトラグスもロアリィと一緒に食事をするため、食堂にはユア、ディンフル、サーヴラスの三人しかいなかった。


「聞いて! あのね……」


「スライム相手に苦戦していたようだな」


 ユアを冷たくさえぎりながら、ディンフルはスープを飲んだ。


「さ、最初はね……。でも途中から慣れてきて、レベル3まで上がったんだよ!」


「もう、そこまで行かれたのですか?」


 サーヴラスが驚きながら聞く横で、ディンフルは呆れてため息をついた。


「ま(・)だ(・)3なのか……? 一日もあれば、10は軽くいけるだろう!」


「いやあ……それがスライムしか出なかったから、そこまでしか行けなくて……」


「場所を変えればよかろう! 少し離れると、ゴブリンやら人食い花とか出て来るはずだ!」


「人食い花って、あの気持ち悪いの?!」


「戦うと、そのようなことは言ってられぬぞ!」


 ユアは褒められると思って報告をしたが、却って怒られてしまい、意気消沈した。

 見かねたサーヴラスが必死にフォローし始めた。


「し、しかし、スライムだけで3まで上げるなんて、逆にすごいですよ! 緑色のスライムは、フィーヴェでは最弱と言われていて、経験値もあまり溜まらないはずです。それなのにレベル3まで行ったのは……」


「甘やかすな! 今回は、弁当屋や図書館で働くのとはわけが違うのだ!」


 再びディンフルがさえぎると、サーヴラスが「弁当屋と図書館……?」と目を丸くした。

「何でもない。忘れろ!」ディンフルは焦りながら打ち消した。

 やはり、ミラーレでの仕事経験は部下には知られたくないようだ。


「ところで、もう少し栄養のある食事は出ないのか? 近々、復帰を考えているのだぞ! 休養だけでなく、栄養も必要だ!」


 ユアに文句を言った後は、食事に不満を漏らすディンフル。

 二人そろって「置いてもらっているのに、文句言うなよ……」と思ったが、あとが怖いので口には出さなかった。

 おそらく、動き回ってきた生活からいきなり休むことになったので、ストレスが溜まっているのだろう。


 するとここで、ユアがあることを思い出した。



 一旦食堂から離れて、戻って来た彼女の手にはいつものリュックがあった。


「栄養と言えば、これっ!」


 そう言いながら、ユアは細長い缶の飲み物が入った箱を取り出した。一ダースはあった。

 超龍戦でディンフルに飲ませた「ニュートリション・ドリンク」(通称・ニュードリ)だった。


「それは、口の中が痛くなる飲み物……?」


「これを飲めば元気が戻るよ。ただし、一日一本まで! 飲み過ぎると、逆に良くないから。あとは……」


 初めての炭酸がトラウマになったディンフルの反応を待たずに、ユアは次に漫画本を十冊ほど出した。


「ずっと寝てて暇なら、読書にどうぞ!」


 表紙には「チョビオの冒険」と書かれていた。


「チョビオ」とは、リアリティアではイマストよりも人気の2Dアクションゲーム「ちょびヒゲブラザーズ」の主人公の名前。

 ディンフルはリアリティアに来たばかりの時、このゲームにドハマリしてしまい、一晩でクリアした。

 そのため、ユアが育った「グロウス学園」という養護施設で、先にクリアしたかった子供たちと園長から怒られてしまった。


「これは絵本か? 小さい絵がずっと続いているが……」


「フィーヴェに漫画、ないの?!」


 ディンフルは、初めて見る漫画をパラパラとめくりながら尋ねた。

 どうやら、フィーヴェには漫画という文化がないようだ。

「小説にすればよかった……」と後悔するユア。


「だが、気を遣っていただき感謝する。このニュードリを飲み、本を読みながら復帰に向けて頑張ろう」


 最後にディンフルは、ユアへ穏やかな顔を向けて見せた。

 その顔を見た彼女は「漫画でも良かったんだ?!」と感激した。


 サーヴラスは、初めて目にする缶とリアリティアの書物を、不思議そうに見つめていた。


「せっかくだし、お前にも缶の飲み物とやらを味わってもらう。口が痛くなるから覚悟しておけ」


 ディンフルがイタズラっぽく脅しに近い文句を言うと、サーヴラスはきょとんとした。

 セリフは少々怖いが、魔王がそのような顔で言うのが意外だったため、どう反応していいかわからなかったのだ。


 同時にディンフルに優しい表情が増えたのは、ユアのおかげだと思うのであった。

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