第20話「予想外の来店」
ユアはミラーレへ飛び、弁当屋・ネクストドアへ向かった。
今は働けないことは承知の上だが、ミラーレの職業紹介所の場所だけでも教えてもらおうと思った。
ユアは、「こんにちは~」と弁当屋の裏口から入った。
すると、まりねととびらが「待ってました」と言わんばかりの表情で迎えた。
「ちょうど良かったわ、ユアちゃん!」
「これから、連絡しようと思ってたとこだよ!」
「ど、どうしたの……?」
大歓迎の二人に、思わずたじろぐユア。
「今日から私、外で働くんだ!」
とびらがウキウキしながら言った。
ユアは、言っている意味がわからなかった。とびらが働くと言えば、この弁当屋しか思い当たらなかった。
「外で働くって……弁当屋は?」
「お客さんから勧められたのよ。“弁当屋以外も経験してた方がいい”って。先日、面接へ行ったところから、さっき連絡があったのよ。かなり急だけど、これから働けることになったの。今日は欠員補助だけどね」
代わりに答えると、まりねはそのまま言い続けた。
「ユアちゃん。もし仕事が見つかっていないなら、ここで働けるわよ!」
「本当に……?!」
仕事を探そうとしていたユアには、願ってもいないことだった。
しかし、すぐに別の疑問が湧いた。
「もしかして、私のために外で働くんじゃ……?」
ユアはここ数日、この弁当屋と図書館へ頼み込んで来た。
それでとびらが気遣い、ユアへ立場を譲ってくれたのではと考えていた。
「ユアは関係ないよ。最近の売れ行きを心配したお客さんが、アドバイスしてくれたんだ。“閉店はないと思うけど、いざという時のために”って」
「私も賛成したのよ。とびらには、小さい頃からずっと手伝ってもらって来たし、他で働くのは良い機会だなって。だから、ユアちゃんは気にしなくていいわ」
とびらとまりねは、優しく説明してくれた。
急遽、今日からネクストドアで働けることになり、ユアは心から弁当屋の皆に感謝した。
仕事に困ることは、なくなった。
だが、ここで稼いだお金は両替しないと、リアリティアでは使えない。
そのためには、ディンフルの魔法が必要だった。
彼は今、過労で大事を取っているので、無理に魔法を使わせるわけにはいかない。
「ユアちゃんも今日からここで働くから、住んでもらっても大丈夫よ」
「でも、一人増えますよ?」
「生活費さえ入れてくれれば大丈夫よ! リアリティア、生活しにくいんでしょう? このまま、いらっしゃいよ!」
「生活費を入れれば大丈夫」と聞いて、ユアは少しだけ安心した。
リアリティアから通う予定にしていたが、アヨやタハナたちを思うと、やはり寮を出た方がいいと考えていた。
ユアは、改めてまりねに感謝し、弁当屋の力になろうと張り切るのであった。
リアリティアでも最近まで働いていたので、感覚はすぐに戻った。
お客さんの中にはユアを覚えている人もいて、「久しぶり~!」と声を掛けられてからは話が弾んだ。
しかし、客数は今年初めに比べると減っていた。
全国チェーンの弁当屋が近所に出来たため、多くの客がそちらに流れてしまったからだ。
なので、昼時でも前ほど売れ行きは良くなく、ユアもまりねも暇を持て余した。
「ここは大丈夫だから、お父さんのところに行って来て」
まりねに言われ、厨房のこうやを訪ねた。
事情を説明し、手伝おうとしたが……。
「あいにく、こっちも手伝ってもらうほどの仕事がないんだよ……」
現在の状況に、こうやもお手上げだった。
座って休憩していると、図書館から心配で見に来たであろうキイが厨房に入って来た。
急ぎの用らしく、彼は早口で告げた。
「ユアに客が来てるぞ」
「私に……?」
「弁当を買うんじゃなくて、会いたいそうだ。店のイスに座って待ってる」
ユアは、今日から弁当屋で働き始めたばかり。自分目当ての来店客など、考えられなかった。
リアリティアならわかるが、ここは異世界のミラーレだ。
まさか、「自分以外にも異世界へ移動出来る人がいるんじゃ……?」と少しだけ怖くなった。
売り場へ戻ると、ユアは戦慄した。
イスに腰掛けていたのは、先日会った三人衆の一人・クルエグムだったからだ。
「よう」
こちらへ気づくと、相手は怪しい笑みを浮かべた。
「何で……?」
顔が青ざめるユアを心配して、レジからやって来たまりねが小声で話しかけた。
「知ってる人?」
「き、昨日、フィーヴェで会った人……」
「どんな人? 見るからに怪しいけど」
まりねとユアは、彼に聞こえないように小声で会話をした。
ところが……。
「怪しいって何が? 片方ずつ色が違う目か? それとも、この尖った耳か?」
クルエグムは、自身の目と耳を指しながら聞いて来た。
よく見ると、彼の瞳は右が黄緑色、左が水色のオッドアイだった。
小声で話しても、筒抜けだった。
彼は終始、ニヤニヤしながらこちらを見つめていた。
「まぁ、いい。話がある。ちょっと顔貸せ」
ユアはもう嫌な予感がした。
先日、ディンフルら仲間と敵対した上、ヴィヘイトルの部下であるクルエグムからの誘いが、良いものだとは思えなかった。
ユアがヴィヘイトルに攻撃をした際も、クルエグムは怒りをむき出しにしていた。
報復される可能性も考えられる。
察したまりねがユアの前に出ては、彼へ怒鳴りつけた。
「悪いけど、帰ってくれる? この子、嫌がってるから!」
「大丈夫だよ。今日は悪いことしねぇから」
「“今日は”?! 前はしたってこと?!」
怪しく笑い続けるクルエグムに、まりねは警戒していた。
だが今の発言で、警戒は解けるどころか、ますます強まった。
「だったら行かせられないわ! 出て行って!」
ユアを渡そうとしないまりねへ、クルエグムの顔から笑みが消えた。
彼は落ち着いた口調で、まりねを睨みつけた。
「俺は、関係ねぇ奴に邪魔されるとムカつくんだ。ゴチャゴチャ言ってると、ぶっ飛ばすぞ」
冷静な振る舞いが、ユアには却って不気味に思えた。
昨夜、クルエグムはユアへ向かって、魔法弾を放とうとしていた。
ディンフルが助けに来ていなければ、ユアは死んでいたかもしれない。
まりねも折れる気がないので、クルエグムが何かしら攻撃に出るのは、時間の問題だと思った。
突然、ユアは彼の腕を引っ張って店を出た。
「ユアちゃん?!」
「私なら大丈夫! 心配しないで!」
本当は、クルエグムが怖くて仕方がない。
しかし、まりねや弁当屋を守るためには、こうしなければならなかった。




