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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第2章 ジュエルを求めて
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第20話「予想外の来店」

 ユアはミラーレへ飛ぶと、弁当屋・ネクストドアに来た。

 ここで働けないことは承知の上だが、ミラーレの職業紹介所の場所を教えてもらわなければならなかった。

 今日は休日なので紹介所は閉まっているかもしれないが、場所の下見だけは出来ると思っていた。



 ユアが弁当屋の裏口から入ると、まりねととびらが感激の眼差しで迎えた。


「ちょうど良かったわ、ユアちゃん!」

「これから連絡しようと思ってたとこだよ!」

「ど、どうしたの……?」


 二人とも、ユアが来るのを心待ちにしていたようだ。


「今日から私、外で働くんだ!」


 とびらがウキウキしながら言った。

 ユアは相手の言っている意味がわからなかった。とびらが働くと言えば、この弁当屋しか思い当たらなかったからだ。


「外で働くって……、弁当屋は?」

「お客さんから勧められたのよ。“弁当屋以外も経験してた方がいい”って。先日、面接へ行ったところから、さっき連絡があったのよ。それでかなり急だけど、これから働けることになったの。今日は欠員補助だけどね」


 代わりにまりねが答えた。とびらが外で働くと言うことは……。


「ユアちゃん。もし仕事が見つかっていないなら、ここで働けるわよ!」


「本当に……?!」仕事を探そうとしていたユアには願ってもいないことだった。

 しかし、すぐに別の疑問が湧いた。


「もしかして、私のために外で働くんじゃ……?」


 ユアはここ数日、この弁当屋と図書館へ頼み込んで来た。

 それでとびらが気遣い、ユアを働けるようにするため、立場を譲ってくれたのではと考えたのだ。


「ユアは関係ないよ。最近のネクストドアを心配したお客さんがアドバイスしてくれたんだ。“閉店は無いと思うけど、いざという時のために”って」

「私も賛成したのよ。とびらには小さい頃からずっと手伝ってもらって来たし、他で働くのは良い機会だなって。だから、ユアちゃんは気にしなくていいわ」


 とびらとまりねは優しく説明してくれた。

 急遽、今日からネクストドアで働けることになり、ユアは心から弁当屋の皆に感謝した。


 仕事に困ることは無くなった。

 だが、ここで稼いだお金を両替するにはディンフルの魔法が必要だった。彼は今、過労で大事を取らなければならないので、無理に魔法を使わせるわけにはいかない。

 ミラーレに移住するならこのまま両替しなくて済むが、ユアはまだ抵抗があった。


 そのことは働きながら、まりねと話し合った。


「とびらも外で働くし、ユアちゃんも今日からここで働くから住んでもらっても大丈夫よ」

「でも、一人増えますよ?」

「生活費さえ入れてくれれば大丈夫よ! リアリティア、生活しにくいんでしょう? このままいらっしゃいよ!」


「生活費を入れれば大丈夫」それを聞いてユアは少しだけ安心した。

 リアリティアから通う予定にしていたがアヨやタハナたちを思うと、やはり寮を出た方がいいと考えていたのだ。

 ユアは改めてまりねに感謝し、弁当屋の人気を取り戻そうと奮起するのであった。


 リアリティアでも最近まで働いていたので、感覚はすぐに戻った。

 お客さんの中にはユアを覚えている人もいて、「久しぶり~!」と声を掛けられてからは話が弾んだ。


 しかし、客数は今年初めに比べると減っていた。全国チェーンの弁当屋が近所に出来たため、ほとんどがそちらに行ってしまったのだ。

 なので昼時でも前ほど売れ行きは良くなく、ユアもまりねも暇を持て余した。


「ここは大丈夫だから、お父さんのところに行って来て」


 まりねに言われ、厨房のこうやを訪ねた。

 事情を説明し、手伝おうとしたが……。


「あいにく、こっちも手伝ってもらうほどの仕事が無いんだよ……」


 現在の状況にこうやもお手上げだった。



 彼に勧められ椅子に座って休憩していると、図書館から心配で見に来たであろうキイが厨房に入って来た。


「ユアに客が来てるぞ」急ぎの用らしく、早口で告げた。

「私に?」

「弁当を買うんじゃなくて、会いたいそうだ。店のイスに座って待ってる」


 ユアは今日から弁当屋で働き始めたばかり。なのに、自分目当ての来店客など考えられなかった。

 リアリティアならわかるが、ここは異世界のミラーレだ。

 まさか、「自分以外にも異世界へ移動できる人がいるのか……?」と少しだけ怖くなった。



 売り場へ戻ると、ユアは戦慄した。

 イスに腰掛けていたのは、先日会った三人衆の一人・クルエグムだったからだ。


「よう」こちらへ気付くと、相手は怪しい笑みを浮かべて来た。

「何で……?」


 顔が青ざめるユアを心配して、レジからやって来たまりねが小声で話しかけた。


「知ってる人?」

「き、昨日、フィーヴェで会った人……」

「どんな人? 見るからに怪しいけど」


 まりねとユアは彼に聞こえないように小声で会話をした。ところが……。


「怪しいって何が? 片方ずつ色が違う目か? それとも、この尖った耳か?」


 クルエグムは自身の耳を指しながら聞いて来た。小声で話しても、筒抜けだった。

 彼は終始、ニヤニヤしながらこちらを見つめていた。


「まぁ、いい。話がある。ちょっと顔貸せ」


 ユアはもう嫌な予感がした。

 先日ディンフルら仲間と敵対し、親玉のヴィヘイトルに従っていたクルエグムからの誘いが良いものには思えなかったのだ。

 ユアがヴィヘイトルに攻撃をした際も怒りをむき出しにしたので、その報復も考えられた。


 察したまりねがユアの前に出ては、彼へ怒鳴りつけた。


「悪いけど、帰ってくれる? この子、嫌がってるから!」

「大丈夫だよ。今日は悪いことしねぇから」

「“今日は”?! 前はしたってこと?!」


 怪しく笑い続けるクルエグムに、まりねは警戒していた。

 だが、今の発言でなおさら解けそうに無かった。


「だったら行かせられないわ! 出て行って!」


 ユアを渡そうとしないまりねへ、クルエグムは不敵な笑みから一転し静かな怒りを見せ始めた。


「うるせえ。俺は関係ねぇ奴に邪魔されるとムカつくんだ。あまりゴチャゴチャ言ってると、殺すぞ」


 ユアは昨夜、クルエグムが魔法弾を出したことを思い出していた。ディンフルが助けに来ていなければ、それを当てられ自分は死んでいたかもしれない。

 まりねも折れる気は無く、笑みが消えたクルエグムが何かしら攻撃に出るのは時間の問題だと思った。


 突然、ユアはクルエグムの腕を引っ張って店を出た。


「ユアちゃん?!」

「私なら大丈夫! 心配しないで!」


 本当は彼が怖くて仕方がなかった。

 しかし、まりねや弁当屋を守るためにはこうしなければならなかったのだ。

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